「よ、陽平!」

 プールでもないパイプ椅子だらけのそこへ勇んでダイブしたそいつは、(まさ)しくバスケの道(この世界)へと俺を導いてくれた幼馴染み。
 目一杯面積を広げた手のひらでボールの行方を阻んだ陽平は、宙に浮いた不安定な体勢のまま、コートの中へとアタックを決める。

 ダンッ!とバレーボールのようにフロアで大きく跳ねたボールが忠犬にだって思えたのは、今現在このコート内には9人もの人間がいるというのにもかかわらず、迷うことなく俺の胸元へとそいつがやって来たから。

「よ、陽平先輩!!大丈夫ですか!!」

 陽平が物凄い音を立てて肩から落ちた先は俺等のチームベンチ。椅子も人間をも巻き込み大事なボールを死守した彼は、刹那、挙動を忘れて今の一部始終を傍観していた俺に叫ぶ。

「なにやってんだよ大輔!とっとと攻めろ!」

 その言葉で俺は我に返った。