シュート体勢から苦し紛れに出した熊五郎のパスは、ナベ方面。
 熊五郎をマークする敵の5番は、そのがたいからは見当つかぬほどの俊敏さで熊五郎のパーソナルスペースへずかずかと無遠慮に入ってきたかと思えば、こん棒にも見紛(みまが)う2本の太い腕でシュートを制した。

「んぐ……!!」

 剥き出しにされた歯ぐきと共に、必死にボールを追うはナベ。
 敵へ奪取されることを回避しただけの、アウトオブコントロールの熊五郎のパスが正確にナベの手元に収まるはずもなく、ボールはナベから数メートル離れた場所へと向かって風を切る。

 ナベの手は、長い。でもボールの方が、速い。

 このままラインの外へとボールが出てしまえば、それはそれで強制的に俺等の攻撃タイムは終わってしまう。
 差も縮められずに残り時間だけが縮まって。

 残り10秒で、奪い返して追いつけるか?

 さよならと言わんばかりにコート(がい)へ進み行くボールに(こころ)(みだ)されれば、暑さのせいではない汗が滲み出した俺の額。

 期待したり絶望したり、希望が見えたり隠れたり。
 試合(ゲーム)が展開するごとに上下する精神状態に、もはや自分でもついていけぬ。

「こっの……!」

 俺の位置からでは無駄だとわかっていても、がむしゃらにボールを追いかけた。

「うあぁ!!」

 無意味だとわかっていても、腹の底から声が出た。

 負けたくない、絶対に。

 そう強く思ったその時。俺の瞳へ飛び込んできたのは、勢いよく水中へとダイブする競泳選手のような奴だった。