龍己から告げられた真実に驚きながらも、バラバラだったパズルのピースが埋まる感覚を覚えた虎次郎。
大浴場を出て自室に戻ると馬で遠征した疲れもあるのだろう、聖人は女とともにベットで眠りに落ちていた。
そんな聖人を切なげに見つめると虎次郎も自分のベットに潜り込んだ。
自分に出来る事はこれしかない。
虎次郎は龍己と話をし身の振り方を自分なりに考えると枕を抱き締めながらそのまま眠りに落ち、気がつけば朝が訪れる。
まだぼやけている視界には昨晩と変わらず女を抱き眠る聖人が映る。
寝返りを打つと龍己と目が合い「起きたか」と言われると「おはよ」と小さく返した。
ベットから起き上がると小さな背を大きく伸ばし、龍己の耳元で何かを囁く。
龍己はいまいちよくわからずポカンとしているが構うことなく顔を洗うとカーテンを勢いよく開けた。
「聖ちゃん! 朝だよー! おはよっ!」
と聖人の顔元で言うとビクッとし聖人も目覚めた。
虎次郎は聖人の横にいる女の手を取ると体を起こさせ、女の背中を部屋の扉まで両手で軽く押し進めると「いつもありがとねー」と言い部屋から追いやる。
「......虎ぁ、なんだよ朝から......るせぇぞ......」
聖人が目を擦りながら言うと虎次郎は聖人の上に飛び乗るった。
「グェッ! お前、虎!」
その勢いで完全に目が覚める聖人、そしてそれを見ながら笑う龍己。
「聖ちゃん! あのさあのさ! 僕、王都って言うとこ行ってみたい! 昨日はさ、結局あれこれ忙しくて行けなかったし! 王都って言うくらいなんだから、日本で言ったら都会なんじゃないのかなぁ!? 行きたい行きたい! ねぇ、聖ちゃんも一緒に行ってくれるよね!?」
そう言うと聖人が断れない事も知っている上、断らせないと言う事にも虎次郎は自負がある。
虎次郎は女ばかりの4姉弟(きょうだい)の末っ子として比較的裕福な家に生まれ、両親は4人目にして生まれた男児をそれは可愛がった。
3人の姉も虎次郎を両親同様可愛がり、目がくりっとし小柄で女の子のような虎次郎の事をまるでお人形のように着せ替えをして楽しむが、虎次郎はいつも優しい姉たちに遊ばれる事に特に負の感情などを抱く事もなくすくすくと育つ。
末っ子気質で甘えん坊、そして寂しがりな虎次郎は持ち前の可愛さを無意識下で武器にし両親や姉に構ってもらうのが常であった。
彼が欲するのは無理な要求でない、ただの愛情の請求である。
これを拒む必要などなく、むしろ家族はそんな虎次郎に日々癒されていた。
虎次郎が男色だと打ち明けても家族は理解し、むしろ姉の1人は「女の子よりも可愛い虎ちゃんなんて男たちはほっとかないわ! 自衛するのよ、虎ちゃん」と声をかけるほどだった。
そんな家庭で育ち、無意識からいつしか意識的にも可愛いさを武器にしはじめた虎次郎。
自身が男色と言う事もあり自分の事をどう見られているか、押せる限界のラインや負担に思われない言い方、それにあくまでもここぞと言う時にしかそのわがままを出さない事など自分の魅せ方や心の埋め方をとてもよく理解しているのだ。
そんな虎次郎は聖人が好きだった。
家族には恵まれた虎次郎だが、やはり男色であり女子のような見た目である事で特に一部の男子からは格好の的にされた。
それは物心ついた頃からはじまり、傷つき怯え続けた彼だが、幼馴染の聖人と龍己は受け入れてくれたのだ。
それが虎次郎にとってとても嬉しい事だと言うのは言うまでもないが、そんな中でも龍己は無口であり受け入れてくれた事はわかるがそれ以上ではなく、しかし聖人は「気にすんな、お前はお前だ」と頭を優しく撫でたのだ。
聖人への恋心が芽生えたのはそれからだろう、気付けばいつも聖人の背中を追っていた。
そんな虎次郎のたまに言う無理のないわがままを断れる訳もなく断る理由さえない聖人、虎次郎は聖人にふと可愛いと思わせる事さえできるほどには観察眼と自分の事、そして聖人の事を熟知しているのだ。
既に聖人がこのわがままを聞き入れる事はわかっていたが、虎次郎にはもう一つの狙いがある。
虎次郎が龍己に目配せをして合図をすると、龍己はハッとしながらも聖人の元へ近付く。
聖人もそれに気がつくと昨日の事もあり顔をふいと逸らしたが、逸らした方までいそいそと回り込むと小さく屈んで目線を合わせた。
「昨日はごめんね......俺も行きたいなあ......」
こんな台詞を無口な龍己が言える訳もない。
そう、ここまでが虎次郎の策である。
「あーもう! わーったよ! お前らにはほんと調子狂わされるぜ!」
聖人はそう言うと虎次郎と龍己の頭をワシャワシャと撫で自身の上に乗っかっている虎次郎を抱き抱えると龍己にパスしベットから立ち上がった。
「おら! 支度すんぞ! 行くんだろ!」
その聖人の言葉を聞き虎次郎は龍己の顔を見るとウインクした。
それを見て龍己は赤らんだ顔をしながらはにかむと、2人は聖人に「うん!」と返事をしいそいそと身支度を整えるのだった。