水上の街フォルダンを出てひたすら竜の渓谷を目指し歩みを進める一行、全は秘境にも興味を抱いている様子だが何より魔物使役(テイム)を直に拝みたくてたまらない。
「ねぇ武仁。確か魔物召喚って言うスキルを覚えなかった?」
全はテイムの事に考えを巡らせながらふと思い出したのだろう、武仁に問いかける。
「ああ、そう言やぁそんなのあったなぁ」
そう言うと前振りなく「魔物召喚」と呟いた。
するとウィンドウが表示され、魔物の名前なのだろう一覧がズラリと並んでおりご丁寧に写真まで表示されている。
ウィンドウの1番上には魔物名鑑と書いておりその右側には強さ、生息地など別にソートできる機能までついていた。
「武仁!! なんだこのウィンドウは!?」
武仁より前を歩いていた全は少し遅れて気がつくとウィンドウをまじまじと見つめ興奮している。
アルテミスとルナも不思議そうに覗き込んだ。
「......これは......武仁さんはここに書かれている魔物を召喚できるのですか......」
話半分で聞いていたルナは「わかんねぇ、やった事ねぇし」と言いながらウィンドウをスクロールさせ吟味している武仁に言う。
「ま......まさか、召喚しないわよね......?あなた、聖人の器だと言うのに......そんな事をしたら人為的に厄災だって起こせるじゃない......魔神のようだわ......」
ルナの言葉を聞きアルテミスは「さすがに言い方が悪いよルナ! それに厄災を起こすだなんて......聖人の器である武仁さんがそんな事しないよ!」と止めるように嗜めた。
武仁はウィンドウに夢中になるあまりルナとアルテミスの会話は右から左へと抜けたようで無反応だが、全は魔神と言うワードが引っかかりルナに「魔神って?」と聞く。
「......ごめんなさい、つい......。魔神と言うのは魔物を統べる魔物の事よ......厄災の時に必ず姿を現すと言われているの。魔物は魔素から成ると言われていて、厄災時は深淵(アビス)発生により魔素が急激に濃くなるの。そのためなのか厄災では魔神と呼ばれる魔物の中でも特に強い個体が出現し、魔物達も強くなり凶暴化すると聞くわ......」
「なるほど、それなら確かに武仁は魔神だね! はははは!」
ルナの話を聞き終わると納得した全は言い得て妙だと笑い出し、その声に気付いた武仁はようやく「なんだよ?」と反応を見せた。
全が「何でもないよ」と言うと再び武仁はウィンドウをスクロールさせて召喚する魔物を探す。
武仁は竜を探しているのかあいうえお順で並ぶデフォルト表示では埒があかないと感じ、ソート機能を使用し種別順に変えた。
スライム、オーガ、ゴブリン、バード、ゴーレム、ベア......まだ見ぬ魔物の種類もあるようだがこれまで遭遇した魔物の種類も確認できる。
「こっちの方がいいか......えーと、竜、竜......」
と武仁が呟きながらウィンドウをスクロールさせ目線を下げると次に表示された種別に驚きその指は止まる。
「......転移者......?」
呟かれた言葉を全は聞き漏らさなかった。
「なんだって!?」
そう言いウィンドウを覗き込むとそこには確かに写真付きで転移者と書かれていた。
武仁は驚きながらもおずおずと転移者と書かれた部分を押すと、更にこれまで転移されてきた者なのか、はたまたまた別の誰かなのかはわからないが一覧で表示されたその写真はどれも紛れもなく見た目は人間である。
そしてその中に見つけたのは、ズチとリンだった。
「......おいズチ。どう言う事だ......顔貸せ」
武仁がそう言うとズチが顕現し、それ自体に驚きを隠せないアルテミスとルナだが武仁も全もそれどころではない。
ズチはバツの悪そうな顔で答える。
『武仁殿......それは......理により話す事が叶わぬ故......』
「またそれか」と武仁は呟くと魔物召喚ウィンドウからズチを選び"召喚しますか?"と言うポップアップウィンドウが表示されると迷わず"はい"を選んだ。その指には無意識に力がこもる。
「おい! 武仁! まだどうなるかもわからないのになんて事を!」
全は武仁に迫ったが一足遅く、武仁と全そしてアルテミスとルナの前には顕現とは違い透けても浮いてもいないズチの容姿をした人物が目の前に現れると、同時に顕現していたズチはフッと消えた。
果たして彼はあのズチなのか、ズチが喋るより早く全は鑑定を使用する。
?ズチ ???
種族/人間 年齢/48
職業/聖人の器 レベル/13823
称号/土神の加護(経験値2倍.レベリング加速2倍)
厄災を鎮めし異界の救世主(???)
神の使いを務めし者(???)
HP/139230
MP/139230
腕力/139230
腕力抵抗/139230
魔力/139230
魔力抵抗/139230
知性/13923
感知/13923
俊敏/13923
運/13923
スキル
・土属性魔法
土属性の魔法を初級〜特級まで使える
・猛る闘志
MP消費量に応じて腕力を高める
名前の一部と称号の効果の一部が鑑定出来ないのははじめてだったが鑑定したズチのレベルは桁違いだ。
「君は......あのズチなのかい?」
全はズチの容姿をし現れた目の前の人物に問いかけるとゆっくりとその人物は口を開けた。