転移(ワープ)を使用し王都へ戻った全と武仁は強引に連れてきた龍己とともに冒険者ギルドへ向かった。
ギルドに到着すると受付のミムに至急ギルドマスターのニドに取り次いでもらえないかと話をすると、ミムは窓口の奥にある討伐証明査定室からニドを引っ張り連れ出した。
「ニドさん、今朝はすみません。武仁が厄災の芽を感知し無事に討伐と種の回収を完了したので戻りました......ただ、少し想定外の事態が起こりまして......個室でお話できませんか?」
全がそう言うとニドは「あぁ、わかった」と革手袋と皮のエプロンを外し3人を2階の執務室へ通した。
「今朝フォルダンへ向かうと挨拶に来たと思ったら話の途中にいきなり飛び出すから永遠の安寧のメンバーも何事かと話していたんだ。厄災の芽を感知したんならそりゃあ血相変えて飛び出すのもわかるが......聖人の器だからってあんまり無茶はしないでくれよ、一言言ってくれれば永遠の安寧も同行しただろうに......厄災では君たちが要になる。強いからと過信せずに頼るところは頼ってくれよ? ......それで、厄災の芽を討伐し種も回収したのに想定外ってのはどういう事だ? それに彼が関係しているのか?」
ニドが途中に武仁の方をじっと見つめ、言い終わると武仁は「すまねぇ、体が勝手に動いちまった......」と反省するとニドから投げかけられた問いには全が答えた。
「はい。厄災の芽はここからおよそ北西に3kmの場所にある洞窟の中に発現していましたが、僕らが到着する前に彼が既に討伐を終え厄災の種を粉砕しようとしていました。間一髪種は回収できました、それだけであれば捕えてギルドに突き出し聴取もお任せしていたでしょう。......しかし、彼は僕らと同じくこの世界に召喚された聖人の器の1人です......何か事情があるのかと......」
全は言い終わると「鑑定、開示」と唱え、龍己のステータスウィンドウが武仁とニド、そして龍己にも見えるようする。
左近寺 龍己(さこんじ たつみ)
種族/人間 年齢/18
職業/聖人の器 レベル/155
称号/雷神の加護(経験値2倍.レベリング加速2倍)
HP/2550
MP/2550
腕力/2550
腕力抵抗/2550
魔力/2550
魔力抵抗/2550
知性/255
感知/255
俊敏/255
運/255
スキル
・雷属性魔法
雷属性の魔法を初級〜特級まで使える
・捨て身の鉄壁
自身の背後にいる者を確実に守るが自身のHPは1になる
「......これは......確かに聖人の器だが......雷神様の加護だと......種を粉砕しようとしていた......もしかすると厄介なところが絡んでいるかもしれないな......早急に国王陛下へ話を通した方が良いだろう」
ニドが言い終わると「雷神の加護だとなぜ厄介なのが絡むんだ?」と武仁が聞いたが全は「わかりました、王城へ行きます」と話を遮りニドへは龍己の件を一旦口外しないよう頼みこむとすぐにギルドを後にした。
「おい、なんで遮ったんだよ」
武仁はギルドから出て王城へ向かう道なりで全に尋ねる。
「厄災の芽の発現ペースが早いだろう? この世界に来て一番初めに厄災の芽を討伐した後、ズチもリンもそれを予見できていなかった。仮にも神の使いだぞ? 予見できないのはまだしも、いくら不測の事態で把握できなかったとは言え発現すれば感知くらいするんじゃないのかと違和感があったんだ」
全は口早に話をするが武仁は「わかるように話せ!」と迫る。
「つまり! 厄災の芽の発現を知られないように! 誰かが発見されないよう隠蔽している可能性が高いって事だ! この召喚事態イレギュラーで彼もまたそのイレギュラーに巻き込まれた1人。雷神の加護と見るや厄介なところが関与している可能性をニドは口にした、察するにあの日あの場にいた僕たち5人は全員この世界に来ている。となれば残る2人の事を考えれば早急に対処した方が良いだろう」
全が話終わると終始無言でついてきていた龍己ははじめて口を開いた。
「......あぁ、俺とあと2人も......この世界に来た。......その2人も聖人の器であり雷神の加護があると、教会からは聞いている......厄災を終わらせれば元の世界に帰れると......厄災の種を粉砕すれば厄災の危険性が下がると、聞いている......。」
それを聞くや全は「教会......って言うのが厄介なのか......2人がそこにまだいるなら、同じ事をさせるだろう」と言うと龍己はまだ話の全容が見えない様子だ。
王城に到着すると来訪は2回目だと言うのに既に周知されているのだろう、顔パスで国王のいる謁見の間まで案内された。
国王の元に辿り着いた3人、全と武仁は国王への挨拶もそこそこにリンとズチを顕現させると国王と重役、それに龍己は驚きながらも只事ではないのかと国王が察すると冷静に「勇者様、賢者様、どうなさったのですかな?」と問いかけた。
「慌ただしく申し訳ありません、事は一刻を争うかと思い失礼を承知の上で参りました、無礼をお許し下さい」
全は前置きをすると経緯を話した。
「......これはまた......教会ですか......それは聖ライガ教会と名乗る教会の事ではないかと......。彼らは雷神様を信仰しており、それ自体は素晴らしい事なのですが......これは伝承とはまた異なる国の伝記に記されておりますが、雷神様の思想に対して極端な解釈をする教会は様々な争いの種を生んできたと......しかし聖ライガ教会はもうここ数百年は噂にもなく、曰く根絶えたと聞き及んでおりました」
国王が言い終えるとズチは口を開いた。
『なるほど、国王、それに龍己殿と言ったか。我は土神の使いズチと申す。状況を見るにさきほど全殿が言った厄災の芽の隠蔽、それは可能性が高いだろうな。我々神の使いは神々同様この世界に物理的な干渉は出来ないが、察する通り世界ごと感知可能。しかしそれは創生にまつわれば口外は不可能となる。ですが厄災の芽の発現となればそれらに抵触しないため我らが感知し知らせる事は可能ですからな。となると、問題なのは......聖人の器である龍己殿を含めた3名を手元に置き水面下で厄災を悪化させようと企てていること......』
一同騒ついたがリンが話を続けた。
『はじめまして、私は水神の使いリンと申します〜。称号なのかスキルなのかはわかりませんが......厄災の芽を隠蔽するのが不可能な事ではないと仮定すると、その隠蔽効果はかなりの精度です〜。私たちが気がつかない部分でも何か悪さをしている可能性もありますね〜♪』
リンが言うと武仁は話が難しいため理解が追いつかず1人顔を顰めていたが、全は話を続けた。
「そうですね......ここ数百年と姿を現さず痕跡すらなかった教会が厄災目前に雷神の加護を授かった聖人の器を手中にし厄災をより悪化させようとしている。しかも聖人の器にそれをさせるとは......彼らが残る厄災の種も粉砕すると想定するなら先回りする必要がありますし、隠蔽精度を考えても教会の内部にいるのは手練ればかりかもしれません」
それを聞いてようやく武仁がピンと来ると「んじゃあ俺らの7日目ログインボーナスでいけるんじゃねーか?」と手を頭の後ろに組みながら言うと龍己の方を見て更に話を続けた。
「おい、龍って言ったか? お前騙されてんぞ。厄災は厄災の芽を討伐するだろ? んで厄災の種が落ちてくっから、それを神々の大樹に持ってって浄化すんだよ。そしたら厄災の危険度が下がんの。それにな、厄災鎮めても元の世界に帰る方法は今んとこねーぞ。このリンとズチはな、前の聖人の器なんだよ、この世界に来て厄災鎮めて死ぬまでこの世界で過ごした後こうなってんだよ。お前日頃の行いだぞ、騙されやがって。わかったらどうすんのか言ってみな」
それを聞いた龍己はどちらを信用していいのか混乱しながらも、神の使いの存在や国王と言う人物、それから全と武仁の言動を考えると眉を顰めしばらく俯いた。