三日後。
休日に決闘が行われることになった。
訓練場のリングでフリスと対峙するのだけど……
「フリス君、がんばってー! アカデミー最強の実力を見せて!」
「相手はインチキ野郎なんですよね? そんなヤツ、ぶっとばしてください!」
「いけ、フリス! 格の違いってものを見せつけてやれ!」
観客席は大量の生徒で埋まっていた。
声援を浴びて、フリスが満足そうな笑みを浮かべている。
どうやら彼が呼んだらしい。
インチキができないよう、言い逃れができないよう……というところか?
「あいつ、この前、ドグと決闘をしたヤツだよな……? あの時、とんでもない魔法を使っていたけど……」
「フリス先輩やドグ君はインチキだ、って言っているぜ?」
「まあ……そうだよな。普通に考えて、あんな魔法を使えるわけがないし……」
「お前、どっちに賭ける? 俺はフリス先輩だけど」
「それ一択だろ。賭けになるのか、これ?」
「大穴狙いもいるんじゃないか」
俺の勝利を予想している人は誰もいない。
「スノーフィールド君、がんばってください!」
訂正。
一人、いた。
ネコネだけは、実直に俺のことを信じてくれている。
誰も彼も俺の負けを予想する中、俺の勝ちは絶対と言ってくれている。
「……悪くないな」
俺は、俺のことしか考えてこなかった。
他人と接することはなかった。
ただ、今、こうして信頼を向けられている。
それは、決して悪いことではなくて、どこか心地いいと感じることができた。
「さて……戦う前に、改めてルールなどを確認しておきましょうか」
フリスが観客全体に聞こえるような大きな声で言う。
「まずは決闘のルールですが、これは単純です。魔法で戦い、相手を戦闘不能。あるいは戦意喪失をさせたところで終わり。その他、特に制限はないですが、もちろん他者の力を借りるなどの違反は認められませんよ?」
「わかっている」
「本当にわかっているのならいいのですが……まあ、いいでしょう。このように、ルールはアカデミーが提供しているものに遵守しています。なにか質問は?」
「ない」
「では、次に勝者の権利ですが……私が勝った場合は、君はアカデミーを去ってもらう。君が勝った場合は、君とネコネ王女の関係に口を出すことはしない。それでいいですか?」
「それも問題ない」
「結構です。では……」
フリスが横に視線をやる。
すると、ドグがリングに上がってきた。
「審判はドグ君に務めてもらいましょう」
「なっ……どういうことですか!? 私は、そのようなことは聞いていません!」
話を聞いていたネコネがくいかかる。
不正が行われるのではないか、と懸念しているのだろう。
「大丈夫だ、レガリアさん」
「スノーフィールド君……?」
「どんな条件だろうが、俺が勝つ」
「……はい!」
これは、ある意味で宣戦布告だ。
お前達を叩き潰すぞ、という挑発でもある。
「……ドグ君、開始の合図を頼めるかな?」
「……ええ、もちろん」
二人の雰囲気が険悪なものに変わる。
俺に対して、ハッキリとした強い敵意を持った様子だ。
「両者、準備は?」
ドグの問いかけに、俺とフリスは無言で頷いた。
「では……始め!」
「ファイアランス!」
開始の合図と同時に、フリスは魔法を放つ。
それを見たネコネが驚きの表情に。
「なっ……!? 試合開始直後に魔法を唱えるなんて、そのようなことは不可能に……もしかして、遅延魔法!?」
遅延魔法というのは、あらかじめ魔法を構築して、しかし発動せずにストックしておくことだ。
ストックしておくことで、任意のタイミングで、詠唱を必要とせず瞬間的に発動することができる。
それなりの技術と知識が必要で、誰にでも使えるものではない。
「プロテクトウォール」
このような展開はあると考えていたため、冷静に魔法を唱えて防いだ。
「決闘の前に遅延魔法を使うなんて……」
「遅延魔法? 言いがかりはよしてください。これは、私の実力ですよ」
「そのような速度で魔法を詠唱することは不可能です……!」
「レガリアさん、大丈夫だ」
「スノーフィールド君?」
フリスをかばうような発言をしたことで、ネコネは困惑顔に。
「遅延魔法を使ったかどうか、実証することはかなり難しい。今、なにを言っても無駄だ」
「それは……ですが……」
「それに、本当に使っていない可能性もある」
「しかし、瞬間的に魔法を使うなんてこと、どうやっても不可能で……」
「いや、可能だ」
「え?」
実践することにした。
「ファイアランス」
「「「なっ!?」」」
それは、誰の驚きの声だっただろう?
秒未満で魔法を発動させたことで、フリスやネコネやドグ、その他の生徒達がありえないというような顔になる。
フリスは動揺した様子を見せつつも、跳躍することで炎の槍を避けた。
元々、瞬間的に魔法を使えるという実践をしただけで、狙いは適当だ。
避けられて当たり前と言える。
「貴様……! 遅延魔法を使うとは卑怯な!!!」
フリスが烈火のごとく怒り出した。
「遅延魔法は使っていない」
「バカを言うな! 今の詠唱速度、遅延魔法以外には不可能ですよ。審判、彼は不正をしている……そうですね?」
「いや、しかし……」
「どうしたのですか? 彼は遅延魔法を使った。そうでしょう?」
「ですが、その……ヤツはさきほど、プロテクトウォールを使いました。そうなると、遅延魔法を使うことは……」
「……あ……」
遅延魔法の弱点は、魔法をストックした状態で新しい詠唱ができない、という点だ。
ストックした魔法を放つか、あるいは破棄しなければ新しい魔法を唱えることはできない。
俺はプロテクトウォールを使っていたため、遅延魔法を使っていた、という疑念は回避できる。
「バカな……では、今のは……?」
「単なる詠唱だ」
より詳細に言うと、高速詠唱という技術だ。
詠唱なしで即座に発動することができる。
以前、戦った盗賊が使っていたな。
消費魔力が倍増するとか回数に限りがあるとか、そういう欠点はない。
強いて挙げるのなら、初級魔法しか使えないところが欠点だろうか?
それも、いずれ改良するつもりだが。
わりと簡単な技術だと思っていたのだけど……
どうも、その認識は間違っていたらしい。
あの盗賊が言っていたように、そうそう簡単に使うことはできないようだ。
「ふざけるな! そのような幼稚な言い訳が通じると思っているのですか!?」
「なら、最初に別の魔法を使ったことは?」
「ぐっ……そ、それは……」
「それでも納得できないのなら、俺を失格にするか? 自分には理解できないことをしてはいけない……と」
わかりやすい挑発だな、と自分で言っておいて少し呆れてしまう。
ただ、フリスのような輩は城内にたくさんいた。
だから……
「いいでしょう……君のくだらない策を正面から受け止めて、それでいて突破してみせましょう。そうすることで、己がいかに弱く愚かな存在か自覚させてあげますよ」
挑発に乗ってくれたようでなにより。
さて。
ここからが本番だ。
休日に決闘が行われることになった。
訓練場のリングでフリスと対峙するのだけど……
「フリス君、がんばってー! アカデミー最強の実力を見せて!」
「相手はインチキ野郎なんですよね? そんなヤツ、ぶっとばしてください!」
「いけ、フリス! 格の違いってものを見せつけてやれ!」
観客席は大量の生徒で埋まっていた。
声援を浴びて、フリスが満足そうな笑みを浮かべている。
どうやら彼が呼んだらしい。
インチキができないよう、言い逃れができないよう……というところか?
「あいつ、この前、ドグと決闘をしたヤツだよな……? あの時、とんでもない魔法を使っていたけど……」
「フリス先輩やドグ君はインチキだ、って言っているぜ?」
「まあ……そうだよな。普通に考えて、あんな魔法を使えるわけがないし……」
「お前、どっちに賭ける? 俺はフリス先輩だけど」
「それ一択だろ。賭けになるのか、これ?」
「大穴狙いもいるんじゃないか」
俺の勝利を予想している人は誰もいない。
「スノーフィールド君、がんばってください!」
訂正。
一人、いた。
ネコネだけは、実直に俺のことを信じてくれている。
誰も彼も俺の負けを予想する中、俺の勝ちは絶対と言ってくれている。
「……悪くないな」
俺は、俺のことしか考えてこなかった。
他人と接することはなかった。
ただ、今、こうして信頼を向けられている。
それは、決して悪いことではなくて、どこか心地いいと感じることができた。
「さて……戦う前に、改めてルールなどを確認しておきましょうか」
フリスが観客全体に聞こえるような大きな声で言う。
「まずは決闘のルールですが、これは単純です。魔法で戦い、相手を戦闘不能。あるいは戦意喪失をさせたところで終わり。その他、特に制限はないですが、もちろん他者の力を借りるなどの違反は認められませんよ?」
「わかっている」
「本当にわかっているのならいいのですが……まあ、いいでしょう。このように、ルールはアカデミーが提供しているものに遵守しています。なにか質問は?」
「ない」
「では、次に勝者の権利ですが……私が勝った場合は、君はアカデミーを去ってもらう。君が勝った場合は、君とネコネ王女の関係に口を出すことはしない。それでいいですか?」
「それも問題ない」
「結構です。では……」
フリスが横に視線をやる。
すると、ドグがリングに上がってきた。
「審判はドグ君に務めてもらいましょう」
「なっ……どういうことですか!? 私は、そのようなことは聞いていません!」
話を聞いていたネコネがくいかかる。
不正が行われるのではないか、と懸念しているのだろう。
「大丈夫だ、レガリアさん」
「スノーフィールド君……?」
「どんな条件だろうが、俺が勝つ」
「……はい!」
これは、ある意味で宣戦布告だ。
お前達を叩き潰すぞ、という挑発でもある。
「……ドグ君、開始の合図を頼めるかな?」
「……ええ、もちろん」
二人の雰囲気が険悪なものに変わる。
俺に対して、ハッキリとした強い敵意を持った様子だ。
「両者、準備は?」
ドグの問いかけに、俺とフリスは無言で頷いた。
「では……始め!」
「ファイアランス!」
開始の合図と同時に、フリスは魔法を放つ。
それを見たネコネが驚きの表情に。
「なっ……!? 試合開始直後に魔法を唱えるなんて、そのようなことは不可能に……もしかして、遅延魔法!?」
遅延魔法というのは、あらかじめ魔法を構築して、しかし発動せずにストックしておくことだ。
ストックしておくことで、任意のタイミングで、詠唱を必要とせず瞬間的に発動することができる。
それなりの技術と知識が必要で、誰にでも使えるものではない。
「プロテクトウォール」
このような展開はあると考えていたため、冷静に魔法を唱えて防いだ。
「決闘の前に遅延魔法を使うなんて……」
「遅延魔法? 言いがかりはよしてください。これは、私の実力ですよ」
「そのような速度で魔法を詠唱することは不可能です……!」
「レガリアさん、大丈夫だ」
「スノーフィールド君?」
フリスをかばうような発言をしたことで、ネコネは困惑顔に。
「遅延魔法を使ったかどうか、実証することはかなり難しい。今、なにを言っても無駄だ」
「それは……ですが……」
「それに、本当に使っていない可能性もある」
「しかし、瞬間的に魔法を使うなんてこと、どうやっても不可能で……」
「いや、可能だ」
「え?」
実践することにした。
「ファイアランス」
「「「なっ!?」」」
それは、誰の驚きの声だっただろう?
秒未満で魔法を発動させたことで、フリスやネコネやドグ、その他の生徒達がありえないというような顔になる。
フリスは動揺した様子を見せつつも、跳躍することで炎の槍を避けた。
元々、瞬間的に魔法を使えるという実践をしただけで、狙いは適当だ。
避けられて当たり前と言える。
「貴様……! 遅延魔法を使うとは卑怯な!!!」
フリスが烈火のごとく怒り出した。
「遅延魔法は使っていない」
「バカを言うな! 今の詠唱速度、遅延魔法以外には不可能ですよ。審判、彼は不正をしている……そうですね?」
「いや、しかし……」
「どうしたのですか? 彼は遅延魔法を使った。そうでしょう?」
「ですが、その……ヤツはさきほど、プロテクトウォールを使いました。そうなると、遅延魔法を使うことは……」
「……あ……」
遅延魔法の弱点は、魔法をストックした状態で新しい詠唱ができない、という点だ。
ストックした魔法を放つか、あるいは破棄しなければ新しい魔法を唱えることはできない。
俺はプロテクトウォールを使っていたため、遅延魔法を使っていた、という疑念は回避できる。
「バカな……では、今のは……?」
「単なる詠唱だ」
より詳細に言うと、高速詠唱という技術だ。
詠唱なしで即座に発動することができる。
以前、戦った盗賊が使っていたな。
消費魔力が倍増するとか回数に限りがあるとか、そういう欠点はない。
強いて挙げるのなら、初級魔法しか使えないところが欠点だろうか?
それも、いずれ改良するつもりだが。
わりと簡単な技術だと思っていたのだけど……
どうも、その認識は間違っていたらしい。
あの盗賊が言っていたように、そうそう簡単に使うことはできないようだ。
「ふざけるな! そのような幼稚な言い訳が通じると思っているのですか!?」
「なら、最初に別の魔法を使ったことは?」
「ぐっ……そ、それは……」
「それでも納得できないのなら、俺を失格にするか? 自分には理解できないことをしてはいけない……と」
わかりやすい挑発だな、と自分で言っておいて少し呆れてしまう。
ただ、フリスのような輩は城内にたくさんいた。
だから……
「いいでしょう……君のくだらない策を正面から受け止めて、それでいて突破してみせましょう。そうすることで、己がいかに弱く愚かな存在か自覚させてあげますよ」
挑発に乗ってくれたようでなにより。
さて。
ここからが本番だ。