一限目が終わり、休み時間が訪れた。
「「「……」」」
クラスメイト達から好奇心の視線が飛んでくる。
しかし、声をかけてくる者はいない。
どれくらいの期間になるかわからないが、しばらく、俺はアカデミーに通うことになるだろう。
不都合が起きないように、クラスメイトと友好的な関係を気づいておきたいのだけど……
「……あの」
声をかけられて振り返ると、ネコネがいた。
そういえば、すぐ隣の席だった。
ネコネはまっすぐにこちらを見ると、ややあって、ぺこりと頭を下げた。
「今朝は申しわけありませんでした……」
「うん?」
「私の問題なのに、無関係のあなたを巻き込んでしまうなんて……王族としてだけではなくて、一人の人間として失格です。本当に申しわけありません」
そこまでしなくても、と思ってしまうくらいネコネは頭を深く下げた。
「そのことについて、別に謝ってもらう必要はない。俺が勝手にしただけだ」
「ですが……」
「そうだな……気にしているというのなら、礼をしてもらいたい」
「はい、もちろんです。なにをすればいいでしょうか? 私にできることであれば、なんでも……」
真面目な人だな。
本当に俺が勝手にしただけなので、気にすることなんてないのに。
王女だから、そういった責務を感じているのだろうか。
いや。
身分は関係ないような気がした。
ネコネ・レガリアという人物だからこそ、と言えるのかもしれない。
「なら、友達になってくれないか?」
「……え?」
「王国に来たばかりで、友達どころか知り合いも一人もいない。打算も混じっているが……君が友達になってくれると嬉しい」
「えっと……そんなことでいいんですか? その……私、一応、王女なんですけど」
「さすがにそれは知っている」
「なら、他にも用意できるものが……お金とか地位とか」
「そんなものよりも、君と友達になりたい」
「……っ……」
ネコネが赤くなる。
風邪だろうか?
「それで、どうだろう?」
「は、はい! 私でよければ喜んで」
「よかった。じゃあ、これからよろしく」
「はい、よろしくお願いします。スノーフィールド君」
「よろしく、レガリアさん」
握手を交わす。
友達になれば一緒に行動しやすく、護衛もしやすい。
打算が九割なのだけど……
でも、残りの一割は、彼女に興味があってのことだった。
――――――――――
「スノーフィールド君」
昼休み。
飯をどうするか考えていると、ネコネに声をかけられた。
「お昼、どうするんですか?」
「それを今、考えていたところなんだ」
弁当なんてものはない。
アカデミーにある施設でなんとかしようと思っていたが……
「私、いつも学食を利用しているんです。よかったら、一緒に行きませんか?」
「ありがとう。一緒させてもらうよ」
どうにかしてネコネを誘おうと考えていたので、ちょうどよかった。
それにしても……
他に誘う人はいないだろうか?
俺のことを気にしているのかもしれないが、気にかけすぎて他の友だちを蔑ろにしたら、問題の種となる気がする。
「他に誘う人は?」
「えっと……私、友達がいないので」
ネコネが寂しそうに苦笑した。
彼女は美人だ。
そして、第三王女。
友達なんて腐るほどできそうなのに……どうしてだろう?
「行きましょう」
「ああ」
今は疑問を後回しにして、ネコネと一緒に学食へ移動した。
学食は円形になっていて、三階建てだ。
全ての生徒、教員がやってきても対応できるように、これだけの広さにしたらしい。
「スノーフィールド君はなにを食べますか? ごちそうしますよ」
「いや、それは悪い。今朝のことなら、あまり気にしないでほしい」
「大丈夫です。お詫びとかではなくて、なんていうか……アカデミーへようこそ、みたいな歓迎の挨拶みたいなものですから」
「なるほど。そういうことなら甘えるとしようか。肉を頼む」
「はい」
「……」
「……え、それだけですか?」
不思議そうな顔をされてしまった。
「肉であればなんでもいい。多めだと、なお嬉しい」
「ふふ、お肉が好きなんですね」
「よく食べるからな」
魔法の研究で部屋に一ヶ月閉じこもっていた時、干し肉には世話になったものだ。
「少し待っていてくださいね。代わりに、席を取っておいてもらってもいいですか?」
「了解だ」
ネコネと別れて席を探す。
ほどなくして、二人用の席を確保することができた。
中央のカウンターに近いから、ネコネもすぐに見つけることができるだろう。
「……おい、見ろよ」
ふと、そんなささやき声が聞こえてきた。
視線を向けてみると、男子が二人、ネコネの方を見ている。
敵意はないが、良い感情もない。
嘲るような笑みを浮かべている。
「……あれが無能王女なんだろう?」
「……姉妹はとても優秀なのに、あの人だけらしいぜ」
「……もったいないな。でも、外見は俺好み」
「……それな。彼女にして、俺好みに調教してやりたいな」
「ボム」
「「うわぁ!?」」
鬱陶しい会話をしていたので、二人の料理を魔法で爆破してやる。
怪我はないが、料理が飛び散りひどい有様になっていた。
「おまたせしました。って……あれ? なにかあったんでしょうか?」
「さあ?」
とぼけつつ、ネコネに奢ってもらったハンバーグ定食を食べることにした。
それにしても……
今の連中も今朝の貴族もそうだけど、ネコネに対する雑を超えた態度が気になる。
ここはアカデミー。
地位は関係なくて、実力だけが全て。
だからといって、ネコネは第三王女だ。
いくら立場を気にしなくてもいいとはいえ、多少は気にするのが人というものだ。
それなのに、ネコネはまったく敬われていない。
それどころか嘲笑われている。
無能と蔑まれている。
いったい、その理由はなんだろう?
「「「……」」」
クラスメイト達から好奇心の視線が飛んでくる。
しかし、声をかけてくる者はいない。
どれくらいの期間になるかわからないが、しばらく、俺はアカデミーに通うことになるだろう。
不都合が起きないように、クラスメイトと友好的な関係を気づいておきたいのだけど……
「……あの」
声をかけられて振り返ると、ネコネがいた。
そういえば、すぐ隣の席だった。
ネコネはまっすぐにこちらを見ると、ややあって、ぺこりと頭を下げた。
「今朝は申しわけありませんでした……」
「うん?」
「私の問題なのに、無関係のあなたを巻き込んでしまうなんて……王族としてだけではなくて、一人の人間として失格です。本当に申しわけありません」
そこまでしなくても、と思ってしまうくらいネコネは頭を深く下げた。
「そのことについて、別に謝ってもらう必要はない。俺が勝手にしただけだ」
「ですが……」
「そうだな……気にしているというのなら、礼をしてもらいたい」
「はい、もちろんです。なにをすればいいでしょうか? 私にできることであれば、なんでも……」
真面目な人だな。
本当に俺が勝手にしただけなので、気にすることなんてないのに。
王女だから、そういった責務を感じているのだろうか。
いや。
身分は関係ないような気がした。
ネコネ・レガリアという人物だからこそ、と言えるのかもしれない。
「なら、友達になってくれないか?」
「……え?」
「王国に来たばかりで、友達どころか知り合いも一人もいない。打算も混じっているが……君が友達になってくれると嬉しい」
「えっと……そんなことでいいんですか? その……私、一応、王女なんですけど」
「さすがにそれは知っている」
「なら、他にも用意できるものが……お金とか地位とか」
「そんなものよりも、君と友達になりたい」
「……っ……」
ネコネが赤くなる。
風邪だろうか?
「それで、どうだろう?」
「は、はい! 私でよければ喜んで」
「よかった。じゃあ、これからよろしく」
「はい、よろしくお願いします。スノーフィールド君」
「よろしく、レガリアさん」
握手を交わす。
友達になれば一緒に行動しやすく、護衛もしやすい。
打算が九割なのだけど……
でも、残りの一割は、彼女に興味があってのことだった。
――――――――――
「スノーフィールド君」
昼休み。
飯をどうするか考えていると、ネコネに声をかけられた。
「お昼、どうするんですか?」
「それを今、考えていたところなんだ」
弁当なんてものはない。
アカデミーにある施設でなんとかしようと思っていたが……
「私、いつも学食を利用しているんです。よかったら、一緒に行きませんか?」
「ありがとう。一緒させてもらうよ」
どうにかしてネコネを誘おうと考えていたので、ちょうどよかった。
それにしても……
他に誘う人はいないだろうか?
俺のことを気にしているのかもしれないが、気にかけすぎて他の友だちを蔑ろにしたら、問題の種となる気がする。
「他に誘う人は?」
「えっと……私、友達がいないので」
ネコネが寂しそうに苦笑した。
彼女は美人だ。
そして、第三王女。
友達なんて腐るほどできそうなのに……どうしてだろう?
「行きましょう」
「ああ」
今は疑問を後回しにして、ネコネと一緒に学食へ移動した。
学食は円形になっていて、三階建てだ。
全ての生徒、教員がやってきても対応できるように、これだけの広さにしたらしい。
「スノーフィールド君はなにを食べますか? ごちそうしますよ」
「いや、それは悪い。今朝のことなら、あまり気にしないでほしい」
「大丈夫です。お詫びとかではなくて、なんていうか……アカデミーへようこそ、みたいな歓迎の挨拶みたいなものですから」
「なるほど。そういうことなら甘えるとしようか。肉を頼む」
「はい」
「……」
「……え、それだけですか?」
不思議そうな顔をされてしまった。
「肉であればなんでもいい。多めだと、なお嬉しい」
「ふふ、お肉が好きなんですね」
「よく食べるからな」
魔法の研究で部屋に一ヶ月閉じこもっていた時、干し肉には世話になったものだ。
「少し待っていてくださいね。代わりに、席を取っておいてもらってもいいですか?」
「了解だ」
ネコネと別れて席を探す。
ほどなくして、二人用の席を確保することができた。
中央のカウンターに近いから、ネコネもすぐに見つけることができるだろう。
「……おい、見ろよ」
ふと、そんなささやき声が聞こえてきた。
視線を向けてみると、男子が二人、ネコネの方を見ている。
敵意はないが、良い感情もない。
嘲るような笑みを浮かべている。
「……あれが無能王女なんだろう?」
「……姉妹はとても優秀なのに、あの人だけらしいぜ」
「……もったいないな。でも、外見は俺好み」
「……それな。彼女にして、俺好みに調教してやりたいな」
「ボム」
「「うわぁ!?」」
鬱陶しい会話をしていたので、二人の料理を魔法で爆破してやる。
怪我はないが、料理が飛び散りひどい有様になっていた。
「おまたせしました。って……あれ? なにかあったんでしょうか?」
「さあ?」
とぼけつつ、ネコネに奢ってもらったハンバーグ定食を食べることにした。
それにしても……
今の連中も今朝の貴族もそうだけど、ネコネに対する雑を超えた態度が気になる。
ここはアカデミー。
地位は関係なくて、実力だけが全て。
だからといって、ネコネは第三王女だ。
いくら立場を気にしなくてもいいとはいえ、多少は気にするのが人というものだ。
それなのに、ネコネはまったく敬われていない。
それどころか嘲笑われている。
無能と蔑まれている。
いったい、その理由はなんだろう?