「ここか」
一週間後。
準備を終えた俺は魔法学院にやってきた。
国の南に扇状に伸びている商業区。
そこをさらに南に進んだところに魔法学院はある。
城の次に広い敷地を持ち。
校舎は三階建て。
実習棟や教員棟など、多くの建物が並び……
全学生を収容するだけの寮も完備されている。
別名、アカデミー。
魔法使いを志す者が憧れる場所だ。
「……誰もいないな?」
門の前に来たけれど、誰もいない。
ここで事情を知る者と待ち合わせの予定だったのだけど……
「少し早いのかもしれないな」
せっかくだから見学してみよう。
少しくらいなら問題ないだろう。
好奇心を抑えることができず、俺は門を潜る。
そのままグラウンドの方に向かう。
「へえ、色々な設備があるな」
アカデミーの中で学生が暮らしているからなのか、魔力を動力とした明かりがあちらこちらに設置されていた。
不審者対策なのか、簡易的な結界装置も設置されている。
「ふむ……少し古いタイプのものだな。でも、この型番のヤツは悪くない。多少、性能は劣るが値段は安いからな。ほどほどに使いやすいから、ちょうどいいだろう」
好奇心の赴くまま、ついつい調べていると、
「やめてください!」
ふと、鋭い声が聞こえてきた。
グラウンドからだ。
トラブルか?
ヒマなので様子を見に行く。
「あなたは今、なにをしようとしているのか理解しているのですか!?」
「もちろん。貴族としての務めを果たそうとしている……それだけのことですが、なにか?」
グラウンドの中央で二人の生徒が対峙してて……
その近くに女子生徒。
そして、彼らを遠巻きに眺めている生徒達。
彼らが生徒であることは、皆、同じ服を着ていることからわかる。
マントとリボンが特徴的な服で、色が分かれている。
たぶん、学年で違うのだろう。
その中で一際目立つ少女がいた。
銀色の髪は腰に届くほど長い。
シルクのようにサラサラで、そよ風を受けて静かに揺れていた。
女性にしては背が高い方だろうか?
スタイルも良く、背の高さもあって人目を引くだろう。
顔は綺麗に整っていて、異性を魅了するだろうが……
それよりも目を引くのは、彼女の瞳だ。
宝石のように輝いていて、それでいて、強い意思を感じさせる。
「そう、これは貴族としての務めなのですよ。平民を教育する、というね」
対する男子は、美形と言えば美形だ。
二枚目といって問題ない。
ただ、表情は醜悪なもので、黒い感情が隠されることなく表に出ている。
「理不尽な要求を突きつけて、従わなければ暴力をふるうことが教育だと?」
「ええ、その通りですよ」
「ふざけないでください! そのようなこと、絶対に認められません!」
「認められなければ、どうするのですか? 学年主席である僕に逆らうとでも? あなたがどのような方であれ、アカデミーでは実力が全てだ。おとなしく言うことを聞かせられるとは思わないことですね」
「くっ……」
貴族が平民をいじめる。
よくある話だ。
彼らは民を導いて、模範とならなければいけないのだけど……
その本文を忘れたものは多く、好き勝手に振る舞う者ばかりだ。
とはいえ、言ってしまえば、これはただの生徒同士のケンカ。
殺し合いに発展することはまずないだろうから、放っておいていい。
本来なら、わざわざ介入することはないのだけど……
「ちょっと待った」
貴族らしき男子と対峙しているのが、第三王女のネコネだというのなら話は別だ。
「なんだい、君は?」
「あなたは……?」
男子はうさんくさそうなものを見る目をこちらに向けて。
ネコネは、俺の意図を察した様子で、驚いた顔をする。
「事情は軽くしか知らないが、その辺にしておいたらどうだ? あまり騒ぎになると、教師がやってきたりして面倒なことになるだろう?」
「はははっ、どこの誰か知らないが、勉強は真面目にした方がいい。アカデミーでは決闘が許可されている。一度成立したら、教師であろうと止めることはできない。これ以上、そちらの世間知らずの王女様が己の非を認めないのなら、僕は決闘で全てを決めるつもりなのだよ」
「なるほど」
そんなルールがあったのか。
教えてくれてありがとう。
「なら、俺はあんたに決闘を挑もう」
「……なんだって?」
「俺と戦え。そして、この場から手を引け」
「……まるで、君が勝つことが決定しているような言い方だね」
男子は不快そうに眉をしかめてみせた。
「見知らぬ者の決闘を受ける意味も義務もないが……いいだろう、おもしろい。平民の代わりに君を教育してやろう」
「ま、待ってください! そのような勝手なことは……」
「彼が決闘を挑み、僕はそれを受けた。もう決闘は成立したのですよ? 例え王女であろうと、それを止めることはできない」
「くっ……」
ネコネは悔しそうな顔に。
「では」
男子は親指くらいの宝石を取り出して、それを地面に放る。
すると淡い光が放たれて、半径十メートルほどの円ができた。
様子を見ていた生徒達は、慌てた様子で円の外に出る。
「これは?」
「おいおい、そんなことも知らないのかい? 決闘用のフィールドだよ。周囲に被害が出ないように、魔力を完全に遮断することができるのさ」
「なるほど」
とても興味深い。
魔力を完全に遮断というのは、かなりの高機能だ。
そんなものをずっと、というのは難しいから、時間が決まっているのだろうか?
決闘のために、全生徒にこういったものが支給されているのだろうか?
調べることがたくさんだ。
それだけでも、ここに来た甲斐がある。
「あの……!」
ネコネは円の外に出る前に、俺に声をかけてきた。
「どうか無理はしないでください。あなたの健闘を祈ります」
「ありがとう」
律儀な人だ。
彼女からしてみれば、俺は勝手に決闘を挑んだ見知らぬ人。
無視してもいいのに、そうしないで無事を祈るとは……
なるほど。
少しだけだけど、彼女に対しても興味が湧いてきた。
「僕の名前は、ドグ・マクレーン。マクレーン伯爵家の長男であり、いずれ、全てを手にする男だ」
名乗りをあげるのだけど……
全てを、とは大きく出たものだ。
俺も似たようなことをした方がいいのだろうか?
……いや、やめておこう。
正体は秘密だ。
無茶はしない方がいい。
「ジーク・スノーフィールド。ただの平民だ」
「やはり、君も平民か。そうだと思ったよ。礼儀がなっていないし、品がない。それに平民臭いからね」
「うん? 平民は臭いのか? どういう匂いがするんだ?」
「それは……平民らしい臭いさ」
「そうか、勉強になった」
「……その態度、僕をバカにしているのか?」
なぜかドグが怒る。
俺はなにもしていないはずなのに……なぜだ?
「さあ、来い。僕が教育してやろう!」
そして、決闘が始まる。
一週間後。
準備を終えた俺は魔法学院にやってきた。
国の南に扇状に伸びている商業区。
そこをさらに南に進んだところに魔法学院はある。
城の次に広い敷地を持ち。
校舎は三階建て。
実習棟や教員棟など、多くの建物が並び……
全学生を収容するだけの寮も完備されている。
別名、アカデミー。
魔法使いを志す者が憧れる場所だ。
「……誰もいないな?」
門の前に来たけれど、誰もいない。
ここで事情を知る者と待ち合わせの予定だったのだけど……
「少し早いのかもしれないな」
せっかくだから見学してみよう。
少しくらいなら問題ないだろう。
好奇心を抑えることができず、俺は門を潜る。
そのままグラウンドの方に向かう。
「へえ、色々な設備があるな」
アカデミーの中で学生が暮らしているからなのか、魔力を動力とした明かりがあちらこちらに設置されていた。
不審者対策なのか、簡易的な結界装置も設置されている。
「ふむ……少し古いタイプのものだな。でも、この型番のヤツは悪くない。多少、性能は劣るが値段は安いからな。ほどほどに使いやすいから、ちょうどいいだろう」
好奇心の赴くまま、ついつい調べていると、
「やめてください!」
ふと、鋭い声が聞こえてきた。
グラウンドからだ。
トラブルか?
ヒマなので様子を見に行く。
「あなたは今、なにをしようとしているのか理解しているのですか!?」
「もちろん。貴族としての務めを果たそうとしている……それだけのことですが、なにか?」
グラウンドの中央で二人の生徒が対峙してて……
その近くに女子生徒。
そして、彼らを遠巻きに眺めている生徒達。
彼らが生徒であることは、皆、同じ服を着ていることからわかる。
マントとリボンが特徴的な服で、色が分かれている。
たぶん、学年で違うのだろう。
その中で一際目立つ少女がいた。
銀色の髪は腰に届くほど長い。
シルクのようにサラサラで、そよ風を受けて静かに揺れていた。
女性にしては背が高い方だろうか?
スタイルも良く、背の高さもあって人目を引くだろう。
顔は綺麗に整っていて、異性を魅了するだろうが……
それよりも目を引くのは、彼女の瞳だ。
宝石のように輝いていて、それでいて、強い意思を感じさせる。
「そう、これは貴族としての務めなのですよ。平民を教育する、というね」
対する男子は、美形と言えば美形だ。
二枚目といって問題ない。
ただ、表情は醜悪なもので、黒い感情が隠されることなく表に出ている。
「理不尽な要求を突きつけて、従わなければ暴力をふるうことが教育だと?」
「ええ、その通りですよ」
「ふざけないでください! そのようなこと、絶対に認められません!」
「認められなければ、どうするのですか? 学年主席である僕に逆らうとでも? あなたがどのような方であれ、アカデミーでは実力が全てだ。おとなしく言うことを聞かせられるとは思わないことですね」
「くっ……」
貴族が平民をいじめる。
よくある話だ。
彼らは民を導いて、模範とならなければいけないのだけど……
その本文を忘れたものは多く、好き勝手に振る舞う者ばかりだ。
とはいえ、言ってしまえば、これはただの生徒同士のケンカ。
殺し合いに発展することはまずないだろうから、放っておいていい。
本来なら、わざわざ介入することはないのだけど……
「ちょっと待った」
貴族らしき男子と対峙しているのが、第三王女のネコネだというのなら話は別だ。
「なんだい、君は?」
「あなたは……?」
男子はうさんくさそうなものを見る目をこちらに向けて。
ネコネは、俺の意図を察した様子で、驚いた顔をする。
「事情は軽くしか知らないが、その辺にしておいたらどうだ? あまり騒ぎになると、教師がやってきたりして面倒なことになるだろう?」
「はははっ、どこの誰か知らないが、勉強は真面目にした方がいい。アカデミーでは決闘が許可されている。一度成立したら、教師であろうと止めることはできない。これ以上、そちらの世間知らずの王女様が己の非を認めないのなら、僕は決闘で全てを決めるつもりなのだよ」
「なるほど」
そんなルールがあったのか。
教えてくれてありがとう。
「なら、俺はあんたに決闘を挑もう」
「……なんだって?」
「俺と戦え。そして、この場から手を引け」
「……まるで、君が勝つことが決定しているような言い方だね」
男子は不快そうに眉をしかめてみせた。
「見知らぬ者の決闘を受ける意味も義務もないが……いいだろう、おもしろい。平民の代わりに君を教育してやろう」
「ま、待ってください! そのような勝手なことは……」
「彼が決闘を挑み、僕はそれを受けた。もう決闘は成立したのですよ? 例え王女であろうと、それを止めることはできない」
「くっ……」
ネコネは悔しそうな顔に。
「では」
男子は親指くらいの宝石を取り出して、それを地面に放る。
すると淡い光が放たれて、半径十メートルほどの円ができた。
様子を見ていた生徒達は、慌てた様子で円の外に出る。
「これは?」
「おいおい、そんなことも知らないのかい? 決闘用のフィールドだよ。周囲に被害が出ないように、魔力を完全に遮断することができるのさ」
「なるほど」
とても興味深い。
魔力を完全に遮断というのは、かなりの高機能だ。
そんなものをずっと、というのは難しいから、時間が決まっているのだろうか?
決闘のために、全生徒にこういったものが支給されているのだろうか?
調べることがたくさんだ。
それだけでも、ここに来た甲斐がある。
「あの……!」
ネコネは円の外に出る前に、俺に声をかけてきた。
「どうか無理はしないでください。あなたの健闘を祈ります」
「ありがとう」
律儀な人だ。
彼女からしてみれば、俺は勝手に決闘を挑んだ見知らぬ人。
無視してもいいのに、そうしないで無事を祈るとは……
なるほど。
少しだけだけど、彼女に対しても興味が湧いてきた。
「僕の名前は、ドグ・マクレーン。マクレーン伯爵家の長男であり、いずれ、全てを手にする男だ」
名乗りをあげるのだけど……
全てを、とは大きく出たものだ。
俺も似たようなことをした方がいいのだろうか?
……いや、やめておこう。
正体は秘密だ。
無茶はしない方がいい。
「ジーク・スノーフィールド。ただの平民だ」
「やはり、君も平民か。そうだと思ったよ。礼儀がなっていないし、品がない。それに平民臭いからね」
「うん? 平民は臭いのか? どういう匂いがするんだ?」
「それは……平民らしい臭いさ」
「そうか、勉強になった」
「……その態度、僕をバカにしているのか?」
なぜかドグが怒る。
俺はなにもしていないはずなのに……なぜだ?
「さあ、来い。僕が教育してやろう!」
そして、決闘が始まる。