ゴッ……ガァアアアアアッ!!!

 爆炎が部屋にあふれて……
 一気に外に噴出して、屋根が吹き飛んだ。
 爆弾がまとめて十数個、炸裂したような感じだ。

 ネコネとアリンは魔法で保護しているので問題ない。
 俺は、きちんと自分を範囲外に指定しておいたから大丈夫だ。

 ただ、他の者は……

「がっ……」
「あ、う……」
「な、なにが……」

 皆、倒れて痙攣していた。
 最大限威力を絞ったものの、それでも火属性魔法の上級は厳しいだろう。

 殲滅完了だ。

「しかし、手加減するのは面倒だな……」

 突入前、リーゼロッテになるべく死者は出すなと口うるさく言われたため、手加減はしているのだが……
 やっぱりスッキリしないな。
 全力で放ってこその魔法だ。

「大丈夫か?」
「は、はい……なんとか」
「それにしても、こ、この威力……ど、どういうこと?」

 ネコネとアリンに手を貸して立ち上がらせる。
 二人は呆然とした様子で、半壊した屋敷を見回していた。

「前もバハムート召喚してたし……あんた、何者よ?」

 アリンがじっとこちらを見る。

 さすがにやりすぎたか?
 任務のことは秘密なのだけど……
 ただ、そこに気づいた様子はないか。
 俺の力の源を疑問に思っている様子だ。
 それなら、まあ、なんとかごまかせるだろう。

「俺は……」
「ぐっ……こ、この愚物が、よくもやってくれたなぁあああ……」

 怨嗟の声が響く。
 振り返ると、ボロボロになりつつも立ち上がるゴーケンの姿が。

 他の連中は軒並み昏倒しているが、彼は気合で耐え抜いたらしい。

 やるな。
 素直に感心してしまう。
 ただ、よくも俺の魔法を耐えやがったな? というイライラもある。
 複雑だ。

「大貴族である私に、よくもこのような暴挙を……! 貴様は許さん、絶対に許さんぞ!!!」
「知るか。なんでもかんでも自由にやれると思うな」

 貴族だろうとなんだろうと、それを気にしない相手に権力は通用しない。
 そのことをきちんと理解して、その上で、改めてケンカを売ってこい。

「この私を怒らせたこと、死んでも尚、後悔し続けるがいい!!!」

 怒りで血管が切れそうな勢いで叫び、ゴーケンは机に設置されていた隠しスイッチを押した。

 ガコン、と屋敷の遠くで妙な音が響く。
 それはほどなくして爆音に変わり、壁を砕く音と共にこちらに近づいてきた。

「ガァアアアアアッ!!!」

 壁をぶち破り現れたのはゴーレムだ。

 ゴーレムというのは、魔力を糧に動く兵器のことだ。
 人型をしているものの、その大きさ、力は人の数倍。
 平時は力仕事をさせられているが、戦時中は攻城兵器として使われることも多い。

 その力は一騎当千。
 敵として現れた場合、討伐するのに熟練の騎士30人は必要と言われている。

「これが……切り札?」
「はははははっ、見たか! これが私の力だ、これが貴族としての証だ! ひれ伏せ、平民。新しい王である私に対して頭が高いぞ!!!」
「……はぁあああ」

 思わず深いため息が出てしまう。

「あれだけ自信たっぷりにしているから、どんなものが出てくるかと思いきや……ただのゴーレムか。警戒して損した」
「な、なんだと……?」
「来い。すぐに終わらせてやる」
「この……ガキがぁあああああっ!!!」

 ゴーケンは顔を真っ赤にして、ゴーレムに俺を殺せ、という命令を出した。

 ゴーレムの目が光る。
 命令に忠実に従い、そして実行するために巨体を動かした。

 屋敷全体を震わせるかのように大きな足を動かす。
 巨体に似合わない速度で、たぶん、馬よりも速いだろう。

 城の門を突き破る攻撃力。
 全身が鋼鉄と同じくらい硬い防御力。
 そして馬よりも速い機動力。
 その三つを兼ね備えているのがゴーレムだ。

「危ない! 逃げてください、スノーフィールド君!? 私達のことはいいから!!!」
「ゴーレムに立ち向かうなんて無理よ!? そんなこと、上位の騎士でさえできるかどうか……」

 真正面からぶつかるのは愚策の中の愚策。
 距離を取り、遠距離攻撃をひたすらに叩き込む。
 ゴーレムの装甲も無敵というわけじゃない。
 何度も攻撃を繰り返せばいずれ破綻する。
 その時を待ち、耐え忍ぶのが定石なのだけど……

「はははははっ! もう遅い、遅いわ! 虫のように潰され、己の愚かな選択をあの世で後悔し続けるが……は?」

 ガシィッ!!!

 俺がゴーレムの拳を素手で受け止めたことで、ゴーケンの高笑いが止まった。
 時が止まったかのように、大口を開けたまま言葉を失っている。

「す、すごいです……」
「嘘……そんな、まさか……」

 ネコネとアリンも呆然としていた。

 そんな中、俺は不敵に笑う。

「で?」
「……な、なに?」
「これで終わりか?」
「こ、このっ……ガキがぁあああああっ!!! ゴーレム! 魔導砲を撃てぇ!!!」

 ゴーレムの頭部が変形して、中から砲身が出てきた。
 蓄積されている魔力を全て放つという、ゴーレムの最大最後の武装だ。

 ネコネとアリンが顔色を変える。

「な、なにを考えているのですか!? このようなところで魔導砲なんてものを使えば、どれだけの被害が出るか……!」
「ちょっと、あんた! 終わるなら勝手に一人で終わりなさい、周囲を巻き込むな!!!」

 本気で慌てて、本気で怒っているところを見ると、二人は民想いの優しい王女なのだろう。
 だから俺は、そんな二人のために力を貸すことにした。

 逃げることなく、逆に立ち向かう。
 ゴーレムの懐に潜り込み、その分厚い装甲に手の平を当てて、

「プラズマフレア」

 ゼロ距離で上級雷魔法を撃つ。

 紫電が竜のように暴れ狂い、ゴーレムに絡みついて、その機巧を徹底的に破壊する。
 ゴーレムの内部構造は雷撃に弱い。
 いくら頑丈といっても、ゼロ距離で上級雷魔法を撃たれたら終わりだ。

 ゴーレムは原型を留めたまま……
 しかし、内部はズタボロに破壊されて、活動を停止する。

「ば、バカな……装甲を貫くためにゼロ距離で魔法を……? そんなバカな発想、普通、思いつくわけが……それに、ゼロ距離とはいえ一撃でゴーレムを……ありえないありえないありえない……!!!」

 ゴーゲンは現実を受け入れられない様子でその場にへたりこみ、ぶつぶつとつぶやいていた。

 ヤツはもう終わりだな。
 今の姿を見ていると、そう断言することができた。

「ネコネ、アリン」

 二人のところに歩み寄り、それぞれに手を差し出す。

「おまたせ。大丈夫か?」