「今日からよろしくお願いします、師匠!」
「……なんだって?」
決闘を終えた翌日。
教室へ移動すると、すでに登校していたネコネがビシリと敬礼をして俺を迎えた。
ついでに、訳のわからないことを言っていた。
「どうしたんだ、熱でもあるのか?」
「ち、違いますよ」
ネコネは不服そうに頬を膨らませた。
抗議するような視線をこちらに向けつつ、言葉を続ける。
「弟子にしてくれる、って言ったじゃないですか」
「……言ったか?」
記憶を掘り返してみるが、そのような発言はしていないような?
「その、あの……俺の方がふさわしい、と」
「ああ」
それなら記憶にある。
……ああ、それを了承と受け取ったわけか。
「……まあ、いいか」
任務のこともある。
身バレする可能性は高くなるが……
師匠と弟子の関係になれば、普通のクラスメートよりは長く一緒にいることができる。
リスクとリターン。
それを考えて、俺は話を引き受けることにした。
「わかった。今日から俺は、レガリアさんの師匠だ」
「はい! ありがとうございます、師匠!」
「師匠はやめてくれ……」
――――――――――
「スノーフィールド君、魔法を教えてください!」
放課後。
話があるからと屋上に呼び出されたのだけど、開口一番、そんなことを言われた。
「というか、ちょっと性格変わっていないか?」
おしとやかなイメージがあったのだけど……
今は、わりとアクティブな印象だ。
「そうでしょうか? 私はいつも通りだと思っているんですが……もしかしたら、距離が近くなった影響かもしれません」
「距離?」
「はい、心の距離です。スノーフィールド君が魔法の師匠になってくれたこと。それと、その……とても優しくしてくれたこと。だから、そういうことです」
どういうことだ?
「それで……魔法、お願いできませんか?」
「わかった。約束だからな、教えてみるが……」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
ネコネは笑顔になって、その勢いのまま抱きついてきて、
「す、すみません!?」
一人で勝手に照れて、慌てて離れていた。
これがネコネの素なのかもしれないな。
王女という立場。
魔法を使えない。
それらの要素が心を縛り、それらしくあろうとして、今まで本当の自分を隠していたのかもしれない。
「とりあえず、一度、魔法を使ってみてくれないか?」
「でも、私は……」
「わかっている。どのようにして魔法を使おうとしているのか、最初からもう一度、確認しておきたい」
「……わかりました」
静かに頷いた後、ネコネは俺から離れた。
手の平をそっと前に差し出して、上に向ける。
そして、目を閉じて集中。
「ふむ」
魔力を練り始めたみたいだ。
ただ、やはりというべきか、この時点で違和感がある。
俺は、意識的に魔力の流れを見ることができるのだけど……
先日の授業と同じように、ネコネの魔力の流れがおかしい。
通常、魔力は血液のように全身を循環している。
魔法を使う際は、その流れをコントロールして、一点に集中させる必要があるのだけど……
よくよく見てみると、ネコネは魔力がうまく循環されていない。
なにかに引っかかったかのように途中で止まっていた。
結果……
「ファイア!」
魔法を唱えようとしても、うまく魔力を引き出すことができず不発に終わる。
「……このような感じです。あの……どうでしょうか? 私でも、うまく魔法を使う術はあるでしょうか?」
「ちょっと待ってくれ。そうだな……」
「え? え?」
ネコネに近づいて、じっとその瞳を覗き込む。
額と額が触れ合うほど近く。
「あ、あの、えと……その、その……!?」
ネコネが急激に赤くなるけど、気にしない。
それよりも、なぜ彼女が魔法を使えないか?
その方が気になる。
このような現象は初めて見た。
一魔法使いとして、彼女の身に起きていることに興味がある。
なので、じっと観察をする。
「あわわわ……!?」
ネコネの目がぐるぐるとなって……
「よし」
ある程度納得したところで、俺はネコネから離れた。
「はふぅ……ど、ドキドキしました……」
「どうしたんだ、顔が赤いぞ?」
「す、スノーフィールド君のせいですよ!」
なぜだ?
「それはともかく……レガリアさんが魔法を使えない原因、予測できた」
「えっ、ほ、本当ですか!?」
「たぶん、呪いだな」
「呪い……!?」
症状は違うけれど、魔力の循環が正常に行われていない人を見たことがある。
その人は呪いに犯されていて、魔力の循環がダメになっていた。
今回はそれとよく似ている。
「確証はないけどな」
「いえ……スノーフィールド君が言うことなので、私は信じます。でも、いったいどうして……誰がそのようなことを……」
「悪いが、犯人についてはサッパリだ」
ネコネに親しい人の仕業か。
あるいは、まったく関係ない人の犯行か。
彼女の身辺を知らない俺は、それを特定することはほぼほぼ不可能だ。
ただ……
「呪いなら話は簡単だ。解呪すればいい」
「できるんですか!?」
「問題ない」
伊達に賢者の称号は授かっていない。
解呪の魔法はいくつか知っている。
「じっとしててくれ」
「は、はい!」
ぴしっと直立不動になるネコネ。
そこまでしなくてもいいのだけど……まあいいか。
「クリア」
俺は解呪の魔法を唱えて……
「……なに?」
パチンという軽い音と共に、魔法が弾かれるのを感じた。
「……なんだって?」
決闘を終えた翌日。
教室へ移動すると、すでに登校していたネコネがビシリと敬礼をして俺を迎えた。
ついでに、訳のわからないことを言っていた。
「どうしたんだ、熱でもあるのか?」
「ち、違いますよ」
ネコネは不服そうに頬を膨らませた。
抗議するような視線をこちらに向けつつ、言葉を続ける。
「弟子にしてくれる、って言ったじゃないですか」
「……言ったか?」
記憶を掘り返してみるが、そのような発言はしていないような?
「その、あの……俺の方がふさわしい、と」
「ああ」
それなら記憶にある。
……ああ、それを了承と受け取ったわけか。
「……まあ、いいか」
任務のこともある。
身バレする可能性は高くなるが……
師匠と弟子の関係になれば、普通のクラスメートよりは長く一緒にいることができる。
リスクとリターン。
それを考えて、俺は話を引き受けることにした。
「わかった。今日から俺は、レガリアさんの師匠だ」
「はい! ありがとうございます、師匠!」
「師匠はやめてくれ……」
――――――――――
「スノーフィールド君、魔法を教えてください!」
放課後。
話があるからと屋上に呼び出されたのだけど、開口一番、そんなことを言われた。
「というか、ちょっと性格変わっていないか?」
おしとやかなイメージがあったのだけど……
今は、わりとアクティブな印象だ。
「そうでしょうか? 私はいつも通りだと思っているんですが……もしかしたら、距離が近くなった影響かもしれません」
「距離?」
「はい、心の距離です。スノーフィールド君が魔法の師匠になってくれたこと。それと、その……とても優しくしてくれたこと。だから、そういうことです」
どういうことだ?
「それで……魔法、お願いできませんか?」
「わかった。約束だからな、教えてみるが……」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
ネコネは笑顔になって、その勢いのまま抱きついてきて、
「す、すみません!?」
一人で勝手に照れて、慌てて離れていた。
これがネコネの素なのかもしれないな。
王女という立場。
魔法を使えない。
それらの要素が心を縛り、それらしくあろうとして、今まで本当の自分を隠していたのかもしれない。
「とりあえず、一度、魔法を使ってみてくれないか?」
「でも、私は……」
「わかっている。どのようにして魔法を使おうとしているのか、最初からもう一度、確認しておきたい」
「……わかりました」
静かに頷いた後、ネコネは俺から離れた。
手の平をそっと前に差し出して、上に向ける。
そして、目を閉じて集中。
「ふむ」
魔力を練り始めたみたいだ。
ただ、やはりというべきか、この時点で違和感がある。
俺は、意識的に魔力の流れを見ることができるのだけど……
先日の授業と同じように、ネコネの魔力の流れがおかしい。
通常、魔力は血液のように全身を循環している。
魔法を使う際は、その流れをコントロールして、一点に集中させる必要があるのだけど……
よくよく見てみると、ネコネは魔力がうまく循環されていない。
なにかに引っかかったかのように途中で止まっていた。
結果……
「ファイア!」
魔法を唱えようとしても、うまく魔力を引き出すことができず不発に終わる。
「……このような感じです。あの……どうでしょうか? 私でも、うまく魔法を使う術はあるでしょうか?」
「ちょっと待ってくれ。そうだな……」
「え? え?」
ネコネに近づいて、じっとその瞳を覗き込む。
額と額が触れ合うほど近く。
「あ、あの、えと……その、その……!?」
ネコネが急激に赤くなるけど、気にしない。
それよりも、なぜ彼女が魔法を使えないか?
その方が気になる。
このような現象は初めて見た。
一魔法使いとして、彼女の身に起きていることに興味がある。
なので、じっと観察をする。
「あわわわ……!?」
ネコネの目がぐるぐるとなって……
「よし」
ある程度納得したところで、俺はネコネから離れた。
「はふぅ……ど、ドキドキしました……」
「どうしたんだ、顔が赤いぞ?」
「す、スノーフィールド君のせいですよ!」
なぜだ?
「それはともかく……レガリアさんが魔法を使えない原因、予測できた」
「えっ、ほ、本当ですか!?」
「たぶん、呪いだな」
「呪い……!?」
症状は違うけれど、魔力の循環が正常に行われていない人を見たことがある。
その人は呪いに犯されていて、魔力の循環がダメになっていた。
今回はそれとよく似ている。
「確証はないけどな」
「いえ……スノーフィールド君が言うことなので、私は信じます。でも、いったいどうして……誰がそのようなことを……」
「悪いが、犯人についてはサッパリだ」
ネコネに親しい人の仕業か。
あるいは、まったく関係ない人の犯行か。
彼女の身辺を知らない俺は、それを特定することはほぼほぼ不可能だ。
ただ……
「呪いなら話は簡単だ。解呪すればいい」
「できるんですか!?」
「問題ない」
伊達に賢者の称号は授かっていない。
解呪の魔法はいくつか知っている。
「じっとしててくれ」
「は、はい!」
ぴしっと直立不動になるネコネ。
そこまでしなくてもいいのだけど……まあいいか。
「クリア」
俺は解呪の魔法を唱えて……
「……なに?」
パチンという軽い音と共に、魔法が弾かれるのを感じた。