「いきますよっ、ストームバイド!」
フリスは意気込みつつ、風系の中級魔法を放つ。
威力、速度、なかなかのものだ。
学年主席が尊敬する先輩というだけのことはある。
「プロテクトウォール」
高速詠唱で魔法を起動。
フリスの魔法を防いだ。
「くっ、またインチキを……!」
「これをインチキというのなら、種を見破ってほしいな。見破れないのなら、ただの負け犬の遠吠えだ」
「貴様っ、この私を愚弄するか!!!」
わかりやすく激高してくれた。
戦いにおいて、もっとも大事なのは冷静になることだ。
頭に血が上っていたらまともな分析ができず、自然と不利な状況に追い込まれてしまう。
フリスはそのことを理解していないらしく、闇雲に魔法を連打する。
「グランドダッシャー!」
「アイシクルフラグメント!」
「プラズマストライク!」
土属性、水属性、雷属性。
それぞれの中級魔法を連続で叩き込んできた。
「プロテクトウォール」
次々と魔法が押し寄せてくるが、それらは全て防御魔法で防いだ。
各種属性の中級魔法を使うなんて、なかなか器用なヤツではあるが……
肝心の魔力が足りていない。
その威力は一般の範囲内から抜き出ることはなくて、簡単に防ぐことができる。
「バカな!? この私の魔法が平民ごときに……」
フリスは必殺の一撃のつもりだったらしく、防がれたことに驚きを覚えているようだ。
「審判!」
「あっ……は、はい!」
フリスが声をかけると、ドグは慌てて頷いて……
ニヤリと笑い、その嫌な笑みをこちらに向ける。
「ジーク・スノーフィルード。君は、神聖な決闘のルールを犯したな?」
「なんのことだ?」
「君のような卑しい平民が、フリス先輩の攻撃を防ぐことはできない。そのようなことは不可能だ。ならば、インチキをしたと考えるのが妥当だ」
「暴論です!」
ネコネが異議を唱えるものの、ドグは聞こえないフリをして話を続ける。
「決闘の継続は認めるが、ペナルティは受けてもらう。今後、君は初級魔法以外を使ってはいけない」
「……防御魔法もか?」
「そうだ。これに反した場合、即座に失格とする」
フリスとドグは、とても楽しそうな顔をした。
これが連中の切り札なのだろう。
「そんな……あまりにも横暴です! そのようなこと、絶対に認められません!!!」
ネコネは声を強くして、フリスとドグこそが不正を働いていると訴えた。
そんな彼女の様子に、観戦する生徒達にも戸惑いが広がる。
「無茶苦茶なことをしているけど……でも、インチキなのか、あれ?」
「普通に魔法を使っているようにしか見えないけど……最初の決闘の話、もしかして本当のことじゃあ?」
「さすがに、やりすぎよ……これ、どうなっちゃうの?」
動揺が広がるものの、
「ふん……従えないというのなら、決闘はここまでです。私の勝ちですね」
フリスは、そんなものはどうでもいいと、結果のみを追い求めていた。
「さあ、どうしますか?」
「わかった、受け入れよう」
「スノーフィールド君!?」
「大丈夫だ、レガリアさん」
ネコネの方を見て、小さく笑う。
「俺が勝つ」
「……はいっ!」
とことん俺を信じる。
そんな気持ちになってくれたみたいで、ネコネは強く頷いた。
「その余裕、気に入らないですね……すぐに恐怖と絶望でいっぱいにしてあげましょう! フレアデトネーション! グランドダッシャー!」
「「「多重詠唱!?」」」
フリスが二つの魔法を同時に使い、観客達がざわついた。
多重詠唱。
名前の通り、異なる魔法を同時に使う技術だ。
習得難易度は高く、城に務める魔法使いでも限られた者しか使うことができない。
なるほど。
これがフリスの本当の切り札か。
「はははっ、どうですか!? 同時に二つの魔法を受けることは不可能! ましてや、君は今、初級魔法しか使うことができない。防ぐことも逃げることも無理! 無理無理無理! さあ、倒れなさい!!!」
「ディスペル」
二つの魔法を消した。
「………………は?」
フリスが呆然とした。
その様子はドグとそっくりで、さすが先輩後輩と妙な感心をしてしまう。
「貴様……今、なにをしたのですか?」
「魔法を消しただけだ」
「ば、バカな……そのようなことはありえない。ありえませんよ……!?」
「そこの後輩から聞いていなかったのか?」
「聞いていましたが、だからといって信じられるわけがないでしょう!? そのような超高等技術、平民風情に使えるはずが……!!!」
フリスは大混乱だ。
事前に情報を手に入れておきながら、それを有用に活かすことができないとは……さすがに呆れてしまう。
「お、おい、待て!」
ドグが声を荒げた。
「貴様は、初級魔法以外使ってはいけないと言っただろう!?」
「ディスペルはどのランクにも分類されていない。故に、初級として扱うことも……」
「ダメだダメだ! きちんと分類されている初級魔法以外はダメだ!!!」
「……わかった」
やや横暴な話ではあるが、審判の言うことなので素直に従うことにした。
ただ……
「なあ……なんか、あれだよな」
「ああ。さすがに興ざめするっていうか……ここまでするか、普通?」
「かっこわる……」
最初は盛り上がっていた観客達も、フリスとドグがやりすぎつつあるため、冷めてきているみたいだ。
フリスはそんな観客達を睨み、次いでこちらを睨む。
「いいさ、すぐに思い知らせてあげましょう。本当に正しいのは誰か、ということを!」
フリスは魔法陣を構築した。
ドグのものよりも精密で、そして遥かに巨大だ。
それを見た観客達がざわついた。
「お、おい、なんだよあれ……!?」
「あんな巨大な魔法陣、見たことがない!」
「いったい、どれだけの威力が……この訓練場を吹き飛ばせるんじゃない!?」
「はははははっ! そう、これが私の力ですよ! これこそが高貴なる血が為せる技っ、さあ、裁きを受けるがいい! アストラルブラストぉオオオオオっっっ!!!!!」
ドグの時よりも遥かに巨大で強烈な光が生み出された。
いや、光という生易しい表現ではない。
破壊の嵐だ。
触れるものを全て粉砕して、それでもなお止まらないだろう。
そんな圧倒的な力に対して、俺は……
「……」
ぼそりと、とある魔法を唱えた。
小さな火が生まれた。
それはすぐに炎に成長して、さらに火炎となる。
そして獄炎になって……
ゴッ……ガァアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!
「なぁ!!!?」
フリスが放つ光を飲み込み、相殺してみせた。
世界を染めるほどに膨れ上がっていた光は、もうない。
後に残るのは、魔力の余波でビリビリと震える大気だけだ。
「ば、バカな……私の魔法が破られた、だと……? しかも、今のは火属性上級魔法のインフェルノ……たかが平民が上級魔法を使うなんて、そんなバカな……」
「違う」
「な、なに……?」
「今のは、インフェルノじゃない……ただのファイアだ」
「なぁっ!!!?」
言い放つと、フリスが絶句した。
ややあって、ニヤリと笑う。
「は、ハッタリか……そうだ、ハッタリに決まっている。そのようなもので私の心を揺さぶり、勝利を得ようとするとは……これだから平民は、姑息でずる賢い」
「そして……」
フリスの言葉は無視して、俺は魔力を練る。
魔力収束。
構造式構築。
術式展開。
「これが、俺のインフェルのだ」
右手に生じた炎は一気に巨大化して、圧縮されて、さらに巨大化して……
そして、一本の巨大な炎の剣が作り上げられた。
巨人が持つような、巨大な炎の大剣。
刀身は赤く、紅く……
灼熱が迸り、炎があふれている。
改良に改良を重ねた結果、俺の火属性上級魔法は、まったく別のものになった。
そう。
名付けるのなら……
「これが俺のインフェルノ……レーヴァテインだ」
神剣の名を冠した魔法を放つ。
全てを断ち切り。
全てを灰燼に帰して。
無を作る。
「や、やめっ……!!!?」
「っと、まずい」
慌てて魔法を消した。
初級魔法以外、使ってはいけないのだった。
「攻撃はしていないから、まだセーフだな? よし。では続きを……」
「助けてくれぇっ!!!」
なぜかフリスが逃げ出した。
呆気に取られる俺。
同じく呆気に取られる観客達。
よくわからないけど、俺の勝利が確定したようだ。
フリスは意気込みつつ、風系の中級魔法を放つ。
威力、速度、なかなかのものだ。
学年主席が尊敬する先輩というだけのことはある。
「プロテクトウォール」
高速詠唱で魔法を起動。
フリスの魔法を防いだ。
「くっ、またインチキを……!」
「これをインチキというのなら、種を見破ってほしいな。見破れないのなら、ただの負け犬の遠吠えだ」
「貴様っ、この私を愚弄するか!!!」
わかりやすく激高してくれた。
戦いにおいて、もっとも大事なのは冷静になることだ。
頭に血が上っていたらまともな分析ができず、自然と不利な状況に追い込まれてしまう。
フリスはそのことを理解していないらしく、闇雲に魔法を連打する。
「グランドダッシャー!」
「アイシクルフラグメント!」
「プラズマストライク!」
土属性、水属性、雷属性。
それぞれの中級魔法を連続で叩き込んできた。
「プロテクトウォール」
次々と魔法が押し寄せてくるが、それらは全て防御魔法で防いだ。
各種属性の中級魔法を使うなんて、なかなか器用なヤツではあるが……
肝心の魔力が足りていない。
その威力は一般の範囲内から抜き出ることはなくて、簡単に防ぐことができる。
「バカな!? この私の魔法が平民ごときに……」
フリスは必殺の一撃のつもりだったらしく、防がれたことに驚きを覚えているようだ。
「審判!」
「あっ……は、はい!」
フリスが声をかけると、ドグは慌てて頷いて……
ニヤリと笑い、その嫌な笑みをこちらに向ける。
「ジーク・スノーフィルード。君は、神聖な決闘のルールを犯したな?」
「なんのことだ?」
「君のような卑しい平民が、フリス先輩の攻撃を防ぐことはできない。そのようなことは不可能だ。ならば、インチキをしたと考えるのが妥当だ」
「暴論です!」
ネコネが異議を唱えるものの、ドグは聞こえないフリをして話を続ける。
「決闘の継続は認めるが、ペナルティは受けてもらう。今後、君は初級魔法以外を使ってはいけない」
「……防御魔法もか?」
「そうだ。これに反した場合、即座に失格とする」
フリスとドグは、とても楽しそうな顔をした。
これが連中の切り札なのだろう。
「そんな……あまりにも横暴です! そのようなこと、絶対に認められません!!!」
ネコネは声を強くして、フリスとドグこそが不正を働いていると訴えた。
そんな彼女の様子に、観戦する生徒達にも戸惑いが広がる。
「無茶苦茶なことをしているけど……でも、インチキなのか、あれ?」
「普通に魔法を使っているようにしか見えないけど……最初の決闘の話、もしかして本当のことじゃあ?」
「さすがに、やりすぎよ……これ、どうなっちゃうの?」
動揺が広がるものの、
「ふん……従えないというのなら、決闘はここまでです。私の勝ちですね」
フリスは、そんなものはどうでもいいと、結果のみを追い求めていた。
「さあ、どうしますか?」
「わかった、受け入れよう」
「スノーフィールド君!?」
「大丈夫だ、レガリアさん」
ネコネの方を見て、小さく笑う。
「俺が勝つ」
「……はいっ!」
とことん俺を信じる。
そんな気持ちになってくれたみたいで、ネコネは強く頷いた。
「その余裕、気に入らないですね……すぐに恐怖と絶望でいっぱいにしてあげましょう! フレアデトネーション! グランドダッシャー!」
「「「多重詠唱!?」」」
フリスが二つの魔法を同時に使い、観客達がざわついた。
多重詠唱。
名前の通り、異なる魔法を同時に使う技術だ。
習得難易度は高く、城に務める魔法使いでも限られた者しか使うことができない。
なるほど。
これがフリスの本当の切り札か。
「はははっ、どうですか!? 同時に二つの魔法を受けることは不可能! ましてや、君は今、初級魔法しか使うことができない。防ぐことも逃げることも無理! 無理無理無理! さあ、倒れなさい!!!」
「ディスペル」
二つの魔法を消した。
「………………は?」
フリスが呆然とした。
その様子はドグとそっくりで、さすが先輩後輩と妙な感心をしてしまう。
「貴様……今、なにをしたのですか?」
「魔法を消しただけだ」
「ば、バカな……そのようなことはありえない。ありえませんよ……!?」
「そこの後輩から聞いていなかったのか?」
「聞いていましたが、だからといって信じられるわけがないでしょう!? そのような超高等技術、平民風情に使えるはずが……!!!」
フリスは大混乱だ。
事前に情報を手に入れておきながら、それを有用に活かすことができないとは……さすがに呆れてしまう。
「お、おい、待て!」
ドグが声を荒げた。
「貴様は、初級魔法以外使ってはいけないと言っただろう!?」
「ディスペルはどのランクにも分類されていない。故に、初級として扱うことも……」
「ダメだダメだ! きちんと分類されている初級魔法以外はダメだ!!!」
「……わかった」
やや横暴な話ではあるが、審判の言うことなので素直に従うことにした。
ただ……
「なあ……なんか、あれだよな」
「ああ。さすがに興ざめするっていうか……ここまでするか、普通?」
「かっこわる……」
最初は盛り上がっていた観客達も、フリスとドグがやりすぎつつあるため、冷めてきているみたいだ。
フリスはそんな観客達を睨み、次いでこちらを睨む。
「いいさ、すぐに思い知らせてあげましょう。本当に正しいのは誰か、ということを!」
フリスは魔法陣を構築した。
ドグのものよりも精密で、そして遥かに巨大だ。
それを見た観客達がざわついた。
「お、おい、なんだよあれ……!?」
「あんな巨大な魔法陣、見たことがない!」
「いったい、どれだけの威力が……この訓練場を吹き飛ばせるんじゃない!?」
「はははははっ! そう、これが私の力ですよ! これこそが高貴なる血が為せる技っ、さあ、裁きを受けるがいい! アストラルブラストぉオオオオオっっっ!!!!!」
ドグの時よりも遥かに巨大で強烈な光が生み出された。
いや、光という生易しい表現ではない。
破壊の嵐だ。
触れるものを全て粉砕して、それでもなお止まらないだろう。
そんな圧倒的な力に対して、俺は……
「……」
ぼそりと、とある魔法を唱えた。
小さな火が生まれた。
それはすぐに炎に成長して、さらに火炎となる。
そして獄炎になって……
ゴッ……ガァアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!
「なぁ!!!?」
フリスが放つ光を飲み込み、相殺してみせた。
世界を染めるほどに膨れ上がっていた光は、もうない。
後に残るのは、魔力の余波でビリビリと震える大気だけだ。
「ば、バカな……私の魔法が破られた、だと……? しかも、今のは火属性上級魔法のインフェルノ……たかが平民が上級魔法を使うなんて、そんなバカな……」
「違う」
「な、なに……?」
「今のは、インフェルノじゃない……ただのファイアだ」
「なぁっ!!!?」
言い放つと、フリスが絶句した。
ややあって、ニヤリと笑う。
「は、ハッタリか……そうだ、ハッタリに決まっている。そのようなもので私の心を揺さぶり、勝利を得ようとするとは……これだから平民は、姑息でずる賢い」
「そして……」
フリスの言葉は無視して、俺は魔力を練る。
魔力収束。
構造式構築。
術式展開。
「これが、俺のインフェルのだ」
右手に生じた炎は一気に巨大化して、圧縮されて、さらに巨大化して……
そして、一本の巨大な炎の剣が作り上げられた。
巨人が持つような、巨大な炎の大剣。
刀身は赤く、紅く……
灼熱が迸り、炎があふれている。
改良に改良を重ねた結果、俺の火属性上級魔法は、まったく別のものになった。
そう。
名付けるのなら……
「これが俺のインフェルノ……レーヴァテインだ」
神剣の名を冠した魔法を放つ。
全てを断ち切り。
全てを灰燼に帰して。
無を作る。
「や、やめっ……!!!?」
「っと、まずい」
慌てて魔法を消した。
初級魔法以外、使ってはいけないのだった。
「攻撃はしていないから、まだセーフだな? よし。では続きを……」
「助けてくれぇっ!!!」
なぜかフリスが逃げ出した。
呆気に取られる俺。
同じく呆気に取られる観客達。
よくわからないけど、俺の勝利が確定したようだ。