「……それで、月音ちゃんには早めに許嫁がいた方がいいってことっすか?」

黒藤は軽くうなずいた。

「そうなる。でも、このご時世で一般家庭のご両親に、『ご子息に高校生の女の子の許嫁になってもらいたい』、なんて荒唐無稽だろ? そもそも許嫁って死語かよってくらいだし」

「まあ……うちは黒藤先輩ん家や月御門ん家とは違いますからね……」

俗にいう、一般家庭そのものだ。

煌の言葉を、黒藤はにや~っと聞いた。

さっきからにやにやしかしていないな、この先輩は。

「ほう? 煌の中では自分を月音の許嫁候補に数えられるんだな?」

その言葉に、煌はびくっと肩を跳ねさせた。

「い――いや! なんかそういう流れだったじゃないすか! 俺が候補、みたいな!」

「へ~? 煌にはそう聞こえてたんだ~」

「~~~黒藤先輩っ!」

「はははー、たーのしー」

「くっそこっちも腹黒か!」

白桜にも黒藤にも手のひらで遊ばれ過ぎている感が、めちゃくちゃある。

――煌が頭を抱えて叫んだところで、さっと空気が変わった。

肌がちりちりと痛み、嫌な感覚が腹の底を支配する。

途端、それまでしゃべっていた月音と白桜の声も聞こえなくなった。

「……え?」

煌が頭を押さえていた腕(かいな)をほどくと、視界に映る中には、黒藤、白桜、月音しかいなかった。

――下校時間の今、まだ学園が近いここは斎陵学園の生徒がちらほら歩いていたのに。

「え――これ、どうし――」

鳥肌が立つ。

今まで色々な幽霊に取りつかれた経験のある煌だが、それとは感じるものが違う。

煌がきょろきょろすると、隣にいた黒藤がドサッとカバンを地面に落とした。

「おおっと――熱烈ご招待だなー」

「ふざけてないで結界張るぞ」

困惑する煌をよそに、白桜もカバンを地面に置き、二人は印を組んだ。

りんと、空気が張り詰めるような――幻のような音がした。

煌の頬を一筋の汗が伝う。