…報告していないだけかも。



もし初の依頼だったら嬉しいな、なんて考え、いや、自惚れすぎだ、とひとり葛藤しながら、文面を書いていく。


[いつも拝聴させていただいています。歌い手グループ「青春屋」のリーダーの あお と申します。いつも素敵な歌詞とメロディで、なおかつAIが歌っているとは微塵も感じさせない花香さんの曲、ときに泣きながら、笑いながら聞かせてもらっています。あの日沈んでいた心を救ってくれたのは、紛れもなく、偶然流れてきた花香さんのボカロ曲のおかげです。本当に感謝しているし、花香さんの曲、大好きです。突然で申し訳ないのですが、僕達「青春屋」の初のオリジナル曲として、作詞・作曲をお願いできませんか]


ここまで書いて、(あれ、俺が曲に出会ったエピソード、いらないか…。)と思いそこの部分だけ削除する。


もう一度見直していると、突然「うぅ…。」という声が隣から聞こえてきた。



ぎょっとして隣を見ると、ゆうやの手の中のスマホには花香さんの曲のMVが表示されていて、ゆうやは…泣いていた。


「泣き虫ゆうや」

小馬鹿にして肘で突くと、軽くにらまれる。…まぁ、ゆうやのほうが身長が低いし、割と童顔だから怖くもない。





「でも、花香さんの凄さはわかっただろ」

「うん…すごすぎ。ほんとにボカロなのこれ」

「正直言ってどうせ歌詞だけに惹かれたんだろって思ってたけどちゃんと感情が込められてる感じがする。あお、見直した」


ちゃんと、花香さんの凄さをわかってくれてよかった。


「ん、はるお前もしかしてちょっと俺のことディスった?」

「あ、バレた?」


さっきまでの静寂からは考えられないいつもの「青春屋」の俺らの雰囲気が戻ってきた。


こうやって和気あいあいと楽しんで、それがリスナーの心の支えになれば。

そう思っている。



「あ、DMの文面これでいい?」

携帯を突きつけ(本日二度目)、確認を取ると送信ボタンをタップする。



緊張と同時に、なんかものすごくワクワクした。