「おばあちゃんっ」
 私はノックも忘れて扉をあけ放つとすぐに君江のベット脇の丸椅子に座った。
「ののちゃんどうしたの? そんなに慌てて」
「だって、また手紙届いたんだもんっ!あ、あとね、野球部の男の子だったの!」
 私は興奮しながら手紙を鞄から引っ張り出すと君江に手渡した。
「ふふふ……ほんとね。ちゃんと届いてお返事がくるなんて……」
祖母はすぐに手紙を開封すると白い便箋を嬉しそうに眺めている。
「おばあちゃん、一体誰なの?野球部の男の子と知り合いだなんて」
小首を傾げる私を見ながら祖母はほんのり頬を染めたように見えた。
(あれ?おばあちゃん赤くなった? )
「ののちゃん誰にも内緒にしてくれる? 」
「え?その手紙の送り主の男の子のこと?」
「えぇ、裕介にも内緒にしてほしいの」
「お父さんにも内緒? 」
 君江は笑うと大きく頷いた。私は君江が入院するまでは一緒に暮らしていたため、君江との会話も思い出もたくさんあるが、秘密を共有するのは初めてだった。私はドキドキしてきて掌にかいていた汗をスカートの裾で拭った。
「誰にも言わないから、おばあちゃん教えて」
「わかったわ。どこから話そうかしら……あれはおばあちゃんがののちゃんと同じ高校一年生の時だったわ……」
 君江は手紙を封筒に仕舞うとベッド脇の便箋を引き寄せボールペンを握った。
「……おばあちゃん好きな人がいたの」
「えっ!」
思わず大きな声が突いて出た。
「び、びっくり。おばあちゃん、おじいちゃん一筋なのかと思ってたから」
 君江がくすっと笑うとすぐに寂しげに視線とシーツに落とした。
「野球部だったその男の子と手紙のやり取りをするのが楽しくて、ドキドキして本当にキラキラ輝いた時間をもらったの。今でも思い出すくらい大好きだった……」
 知らなかった。君江が正史のほかに好きな人がいてその人とも手紙のやり取りをしていたなんて。
(だからお父さんにも内緒なんだ)
 私は君江が内緒にしてほしいと言った意味を理解するとともに疑問が浮かぶ。
「ねぇ、おばあちゃん。その男の子と手紙がどう関係してるの? 」
 君江が私に話してくれている野球部の男の子は今現在、君江と同じくらい年を重ねて八十を優に超えている筈だ。それなのにさっき私が見た野球部のユニフォーム姿の男の子はどう見ても私と年が変わらない男の子だった。