今日は中3の最初の日、始業式だ。
 俺はあくびを噛み殺しながら、うんと伸びをしてからボーッと黒板の方を眺めていた。
 時々、くせ毛で所々跳ねた黒髪を指でくるくると巻いて遊んでみる。
 学校の中は特に息苦しい、あの出来事があってから。
 学校が怖くて怖くてたまらない。


 ふと、隣の席を見る……空席だ。
 その先には窓越しにちょうど開花し始めた桜の木が見えた。


「えーっと……あぁ、そうそう。影山(かげやま)、今いない夜桜(よざくら)はもしかしたらどっかで来るかもしれないから、もしも来たときはちゃんと面倒見てやれよ」
「はーい、先生」


 この学年には入学当初から一度も学校に来ていない生徒がいる。
 その生徒の名前は夜桜遙華(よざくらはるか)
 俺の幼馴染だ。


 遥華が一度も学校に来ていない理由は俺は知らない。
 遥華は今、何をしているんだろうか?
 そう言えば、俺は――


「遙華に……もう何年も会ってないんだよな」


 そんな小さなつぶやきは雲ひとつ無い青空に消えていった。