無断で授業を欠席した私たちは、校舎に戻る際に先生と鉢合わせて叱られた。

 私の方は心配も含んだような言い方だったけど、彼は叱られるのが当たり前の彰夜はひどく叱られていた。

 彰夜らしい、と思ってしまった。それは、彼がありのままに生きている証拠でもあった。

 彼のように、自分らしく生きてみたい。そう、思ってしまった。


 教室に戻ると、早速人が集まってくる。今まで無断欠席をしたことがない私は珍しいらしく、興味津々な瞳を向けられた。

「葉真華が授業休むなんてどうしたの!?」
「何かあった?無断でいないとか珍しいよね」
「うーん……」

 正直、答えに困った。まさか事実を話すわけにもいかないし、かと言って嘘をつくのも気が引ける。

 無言を貫いていると、次第に冷や汗が浮かんできた。みんなの興味に輝く視線が痛い。

「俺を叱ってくれたんだよ」

 不意に声がして、私を含めみんながその声の方を振り向く。彰夜は頬杖をついてそっぽを向いていた。が、確実に彼が喋った。

「俺が勝手に呼び出してさ。そしたら授業遅れるから後でって。それで、授業なんてどうでもいいって言ったら葉真華が俺を叱った。で、遅れた。それだけ」

 私は息を呑んだ。それは、一部事実を含んだ嘘。もしかしたら、私を庇ってくれたのかもしれない。

「そうなの?」
「う、うん、そうだよ」

 彰夜を悪者にするような言い方になってしまったが、彼が作ってくれたこの場を無駄にしたくはない。

 それを聞いたみんなは、「なぁんだ」と肩をすくめる。

「やっぱ葉真華は真面目だな〜。流石は優等生」
「彰夜、あんま葉真華に迷惑かけんなって」

 彰夜に軽口を叩きながら、みんなは笑った。安堵と呆れを含めた表情と共に。

 私も笑った。頰が引き攣っていないか心配だったけど、取り敢えず口角を上げるしかなかった。みんなと、同じ行動を取らなきゃいけない。そんな、謎のルールを感じて。

 仮面を被った瞬間に、心が軋む。暴走しようとする本心を押さえ込むせいで、胸が痛い。ひび割れそうな自分の心臓を掴むように、服をギュッと握った。

 その痛みが、もし消えるのならば。

 それは、確かに楽かもしれない。