「入りました」
ほっとした様子で、でもちょっと得意気にも見える表情に、思わず俺も表情が緩む。
「入りましたね」
「はい。ありがとうございます――あ」
お辞儀で刀が滑り出てきた。
「あ、刃を掴んじゃダメです!」
「あ」
「あぁ……、やっちゃいましたね……」
始めたばかりのときはよくあることだ。
使い込んだ刀の鞘は鯉口が緩くなっている。鍔を押さえずにお辞儀をしたり屈んだりすると、刀身が鞘からずるりと出てきてしまうのだ。
居合刀は刃を研いでいないので切れないけれど、扱いは真剣と同じで、刀身を掴むことは絶対にしない。真剣と同じ扱いを身に付けないと、ゆくゆく真剣を使ったときに怪我をするから。
「すみません。前回も言われました……」
「最初はやっちゃうんですよね。でも危ないので、動くときには必ず鍔を押さえる癖をつけてください。そうすれば滑り出てきませんから」
「はい。分かりました」
ものすごく教えやすい。
去年の入門希望者には「分かってるけどできないんですっ!」とキレられてしまった。べつにできないことを非難したり、嫌味な言い方をしたつもりはなかったのだけど。
――あの後、しばらく落ち込んだよな……。
本人も気まずくなったのか、直されるのが嫌だったのか、ひと月で退会してしまった。原因は別のことかも知れないけれど、後味の悪い出来事だった。
でも、桜さんは全然違う。感動するほどに。
「その居合刀、二尺三寸ですか?」