「明日、与党は強行採決するって言われてる。十中八九、そうなるんじゃないかって思う。だから、明日、議事堂を占拠することになる」
 怜人はみんなの顔を見渡した。
「今まで、みんなとここまでやってこられて、本当に僕は幸せだったと思う。今更だけど、ありがとうございます」
 怜人が頭を下げると、あちこちですすり泣く声がした。

「占拠に失敗したら、たぶん、すぐに事務所や僕の部屋に強制捜査が入ることになると思う。みんなのところにも行くかもしれない。僕は、占拠は成功するって信じてるし、そのための準備もみんなとしてきた。だけど、相手は武器を持っている警察組織だからね。占拠できても、すぐに取り押さえられてしまうかもしれない。もう、いろんなパターンが考えられる。だから、ここでハッキリと決めておきたいんだ。とにかく占拠に失敗したら、即座に逃げてほしい。迷わず全力で逃げてほしい。僕が捕まっても、助けようとしてくれなくていいから。僕を助けるより、逃げ延びて欲しい。そうすれば、いつか再起するときにみんなの力を借りることができるから。今だけじゃなく、未来のことを考えたら、それが一番いいと思う」

 千鶴はこらえきれずに、肩を震わせて泣いている。

「一緒に突撃する人は、とにかくヘルメットやゴーグルをつけて、体もできるだけ保護できるものを身に着けてください。それと、身の危険を感じたら、やっぱり立ち向かわずに逃げてほしい。さすがに警官も銃で撃ってくることはないだろうけど、警棒は持っているわけだし。僕らは武器を持ってないからね。ヤバくなったら逃げるしかない」

 スタッフで占拠に参加するのは美晴とゆず以外に30人ぐらいいる。若者と学生が200人ぐらい集まることになっていた。人数は少ないが、占拠した後でネットで呼びかければ、大勢の若者が集まるのではないかと睨んでいる。

 最後に、みんなでもう一度占拠する前のシミュレーションをする。
 国会議事堂には5つの門があり、そこに衛視が常駐し、さらに建物をぐるりと囲むフェンスに沿って数メートルごとに警官が並んでいる。フェンスの高さは2メートル強で、その上にはセンサーが張ってあるので、全員が乗り越えるのは厳しい。

 朝9時には国会が始まるので、その前には議員が登庁する。それまでに突入しなければならない。 
 さらに、朝の通勤時間に重なると、大勢で行動すると目立ってしまう。一方で、夜中に大勢で行動すると、それはそれで目立つ。みんなで議論した結果、朝7時に突入しようということになった。

 占拠するのは参議院の議場だけ。
 人数的に衆議院の議場までは不可能だと判断した。参議院の議場に入らせないようにすれば、投票は行われない。
 衛視が警官に通報し、突入するまでには国に許可を取る必要があり、すぐには動けないはずだ。衛視が持っている武器は警棒だけなので、最悪乱闘になったとしても、死ぬほどのダメージは受けないだろう。
 その間に、議場に入ったらネットで全国、世界中に訴えかけ、集まるように呼びかける。何万人もの若者が議事堂や官邸の周辺に集まれば、さすがに全国放送のテレビでも取り上げないわけにはいかないだろう。海外でも注目される。

 それがみんなで話し合った結果、決まった計画だ。
 美晴とゆずは怜人、白石と一緒に突入する。