美晴は怜人の話を聞きながら、あることに引っかかっていた。だが、それを聞いてもいいかどうかわからず、しばらく迷った。
「あのね、これを聞いていいのかどうかわからないんだけど……お母さんの話、出てこなかったね」
「ああ、お袋とは、もう何年も会ってないんだ。親父が亡くなったときにメンタルをやられちゃって、自分の実家に戻ってる。今は精神病院を入院したり、退院したりの繰り返しで。オレと兄貴が面会に行ったら、親父と間違えるからさ。会うのがつらくて」
「そうなんだ……」
美晴は怜人をギュッと抱きしめた。
――いろんなものを背負った人。私ができるのは、そばにいることだけ。それでも、何が起きても、ずっとそばにいるからね。
そんな想いを込めて腕に力を籠める。怜人はその想いを受け止めたのか、美晴を抱きしめ返す。
「オレのことばっかり。美晴についても教えてよ」
「うーん、話すことなんてないよ」
二人で、ベッドに腰掛ける。
「美晴の両親は?」
「うちは、私が小さいころに親が離婚しちゃって、私はお母さんと一緒に暮らしてたんだけど、いわゆる毒親で、完璧を求める人だったんだよね。テストで悪い点を取ったら口きいてもらえないし、何をやっても全否定されてた感じ。家の手伝いをしても、褒めてくれるどころか、『お皿洗ったら、拭いて食器棚にしまうのは当たり前でしょ? そんなことも分からないの?』って言われるとか」
「それは……ずいぶん、きついお母さんだね」
「うん、きつかった。でも、高校のスクールカウンセラーの先生が、すごくいい先生で、それで自分の親がおかしいってことに気づけて、大学で家を出て。その先生みたいになりたくて、留学して心理学を学んだの」
「そうか……今は、お母さんとは?」
「もう5年ぐらい会ってない。自分が心理学を学んで、あのころのお母さんはシングルマザーで孤独だったんだろうし、会社でも色々大変だったみたいだから、怒りの矛先を私に向けてたんだろうって分かるけど。でも、全否定されて相当苦しんだからね。簡単には許せないと思う」
「そうなんだ」
「だからね、私、自分の子供には惜しみない愛情を注いであげたいって思うの。自分がしてもらえなかったことは全部、子供にしてあげようって。全力で愛して守ってあげたいって思うんだ」
「そうか」
怜人は美晴を抱き寄せた。
「オレもそれには賛成。子供にはたっぷり愛情を注いであげたい。ずっと笑顔が絶えない家庭にしたい。月並みだけど」
怜人は体を離して、真剣な目になる。
「なんてさ、昨日、こんな仲になったばかりなのに、いきなり結婚後の話をしてるけど。オレ、本気で、美晴と一緒になりたいって思ってる。こんな流れでプロポーズしちゃって申し訳ないけど。しかも、全裸でベッドにいるときに言うのも、自分でもどうかと思うけど。このバタバタが落ち着いたら、結婚してほしい」
美晴は目を丸くした。だが、すぐに幸せいっぱいの笑顔で「ハイ」と答える。
「なんか、全然ロマンチックじゃなくてごめん。普通なら、ひざまずいて指輪の箱を、こう、パカッと開けてから、『オレと一緒になってほしい』とか言うものなのに」
「それ、普通じゃないと思うよ」
「特別な日にするとかさ」
「ううん、充分特別だよ。怜人とこうして一緒にいられるだけで、私には特別な日」
美晴は怜人に抱き着いた。
「美晴……」
しばらく二人は固く抱き合う。
「でも、このバタバタって?」
「あー、それは、総理大臣になってからって言ったら、いつになるか分からないから。今の政権を打倒できたら、ってことで」
「分かった。じゃあ、近い将来ね」
「そう。近い将来」
「約束ね」
「ああ、約束」
二人は長い、長いキスをする。それから怜人は美晴の首筋に唇を這わせる。
「あれ、明日、朝から国会じゃないの?」
「うん。でも、元気になってきた」
二人は顔を見合わせて笑った。
「あのね、これを聞いていいのかどうかわからないんだけど……お母さんの話、出てこなかったね」
「ああ、お袋とは、もう何年も会ってないんだ。親父が亡くなったときにメンタルをやられちゃって、自分の実家に戻ってる。今は精神病院を入院したり、退院したりの繰り返しで。オレと兄貴が面会に行ったら、親父と間違えるからさ。会うのがつらくて」
「そうなんだ……」
美晴は怜人をギュッと抱きしめた。
――いろんなものを背負った人。私ができるのは、そばにいることだけ。それでも、何が起きても、ずっとそばにいるからね。
そんな想いを込めて腕に力を籠める。怜人はその想いを受け止めたのか、美晴を抱きしめ返す。
「オレのことばっかり。美晴についても教えてよ」
「うーん、話すことなんてないよ」
二人で、ベッドに腰掛ける。
「美晴の両親は?」
「うちは、私が小さいころに親が離婚しちゃって、私はお母さんと一緒に暮らしてたんだけど、いわゆる毒親で、完璧を求める人だったんだよね。テストで悪い点を取ったら口きいてもらえないし、何をやっても全否定されてた感じ。家の手伝いをしても、褒めてくれるどころか、『お皿洗ったら、拭いて食器棚にしまうのは当たり前でしょ? そんなことも分からないの?』って言われるとか」
「それは……ずいぶん、きついお母さんだね」
「うん、きつかった。でも、高校のスクールカウンセラーの先生が、すごくいい先生で、それで自分の親がおかしいってことに気づけて、大学で家を出て。その先生みたいになりたくて、留学して心理学を学んだの」
「そうか……今は、お母さんとは?」
「もう5年ぐらい会ってない。自分が心理学を学んで、あのころのお母さんはシングルマザーで孤独だったんだろうし、会社でも色々大変だったみたいだから、怒りの矛先を私に向けてたんだろうって分かるけど。でも、全否定されて相当苦しんだからね。簡単には許せないと思う」
「そうなんだ」
「だからね、私、自分の子供には惜しみない愛情を注いであげたいって思うの。自分がしてもらえなかったことは全部、子供にしてあげようって。全力で愛して守ってあげたいって思うんだ」
「そうか」
怜人は美晴を抱き寄せた。
「オレもそれには賛成。子供にはたっぷり愛情を注いであげたい。ずっと笑顔が絶えない家庭にしたい。月並みだけど」
怜人は体を離して、真剣な目になる。
「なんてさ、昨日、こんな仲になったばかりなのに、いきなり結婚後の話をしてるけど。オレ、本気で、美晴と一緒になりたいって思ってる。こんな流れでプロポーズしちゃって申し訳ないけど。しかも、全裸でベッドにいるときに言うのも、自分でもどうかと思うけど。このバタバタが落ち着いたら、結婚してほしい」
美晴は目を丸くした。だが、すぐに幸せいっぱいの笑顔で「ハイ」と答える。
「なんか、全然ロマンチックじゃなくてごめん。普通なら、ひざまずいて指輪の箱を、こう、パカッと開けてから、『オレと一緒になってほしい』とか言うものなのに」
「それ、普通じゃないと思うよ」
「特別な日にするとかさ」
「ううん、充分特別だよ。怜人とこうして一緒にいられるだけで、私には特別な日」
美晴は怜人に抱き着いた。
「美晴……」
しばらく二人は固く抱き合う。
「でも、このバタバタって?」
「あー、それは、総理大臣になってからって言ったら、いつになるか分からないから。今の政権を打倒できたら、ってことで」
「分かった。じゃあ、近い将来ね」
「そう。近い将来」
「約束ね」
「ああ、約束」
二人は長い、長いキスをする。それから怜人は美晴の首筋に唇を這わせる。
「あれ、明日、朝から国会じゃないの?」
「うん。でも、元気になってきた」
二人は顔を見合わせて笑った。