裕の家にレッスンに通うようになり、一カ月が過ぎたころ。
「ヒカリのライブに出てみないか?」と裕に言われた。
 最初は「おじさん、おばさん」と二人を呼んでいたが、今は「裕先生、笑里さん」と名前で呼ぶようになった。

 三人でパスタを食べながらヒカリのライブの映像を観ていると、裕は話を切り出したのだ。
「この舞台に立って、ヒカリと一緒に歌ってみないか?」
 レイナは「私が、ここに出るの?」と目を丸くした。
「ああ、一曲だけでいい。レイナもヒカリの曲が好きだろう? よく歌ってるし。ヒカリもレイナが歌っている映像を観て、一緒に歌いたいって言ってるんだ」
 笑里は怪訝な表情で裕を見ている。
「ヒカリが本当にそんなことを言ってるの?」とでも言いたげだ。

「本当に? ヒカリちゃんに会えるの?」 
 レイナは声を弾ませる。
 ヒカリの曲はラジオでもしょっちゅう流れるので、人気があるのはレイナも分かっている。
 ポニーテールに結んだ長く艶やかな髪をなびかせながら、ステージを駆け回っている映像を観て、「カッコいいな」とレイナは見とれてしまう。
「ああ。会えるよ。一緒にヒカリの曲を歌えるし」
「それなら、出る!」
 レイナの表情はパッと輝いた。

 食事が終わり、レイナがキッチンにお皿を運んでいるとき、笑里は声を潜めて聞いた。
「ねえ、大丈夫なの? ヒカリがレイナちゃんを受け入れるとは思えないんだけど」
「まあ、その辺は何とか言い聞かせるよ。今度の新曲もつくってあげたんだし、文句は言えないと思う」