アンコールを求める手拍子は鳴りやまない。
 3度目のカーテンコールで、レイナはバンドやバックコーラスのメンバーと一緒にステージに立ち、みんなで手をつないでお辞儀をした。割れんばかりの拍手に包まれる。
「またね~!」
 ファンに大きく手を振りながら袖に引っ込む。

「レイナぁ」
 いつものように笑里とアンソニーが涙で顔をくしゃくしゃにして、レイナに抱きつく。
 いつもと違うのは、裕も泣いているのを隠そうとせず、レイナに手を差し伸べたことだ。
 レイナも手を差し伸べると、裕の大きくて温かな手が包み込む。
「ありがとう、レイナ。改めて思ったよ。君に出会えて、よかったって」
「私も、ありがとう。裕先生、笑里さん、大好き!」
 レイナはふわりと裕に抱きついた。
「あら、私のことは?」
「アンソニーも!」
「オレは?」
 トムがレイナの肘をつかむ。
「もちろん、トムも!」
「あんたもちゃっかり混じるのね」
 アンソニーはトムの髪をクシャクシャとかき混ぜる。
「だって、みんな楽しそうなんだもん」
 泣き濡れた顔で、みんなはアハハと笑う。

 スティーブとアリソンも袖に顔を出し、拍手をして讃えてくれた。
「レイナ、素晴らしかった! 私のライブにゲストで出てくれる日が、今から待ちきれないわ」
 アリソンはレイナをハグする。
 スティーブも、「困難にもめげずに乗り越えて、これだけのパフォーマンスをして、これだけのファンの心を揺さぶったんだ。君はもう、一流ミュージシャンだよ」と絶賛した。
 レイナはバンドとコーラスのメンバーとも握手をしながら健闘をたたえあった。
 みんなが達成感と充実感に酔いしれていた。
 
 ふいに、「今日は裕の家に泊まっていい? アミに会いたいし」とトムが無邪気に言う。    
 その言葉に、裕と笑里はとたんに顔を曇らせた。
「ああ、そうだね。アミもきっと、待ってるよ」
「アミ、ライブを見に来られないぐらい、具合が悪いの?」
「心配しないで。ここは人が多いから、家で休んでいたほうがいいって、私が言ったの。きっと、家で寂しがってるわね」
 裕と笑里はぎこちない笑みを浮かべながら、トムを安心させた。
「私、ママのところに行かなきゃ」
 レイナは決意に満ちた表情で言う。
「ママと一緒に、闘う。私もカンテイってところで、片田のおじさんに呼びかける」
「ああ、そうだね」
 裕は深くうなずく。
「僕らも一緒に行くよ」
「ママたちはどうなったの?」
「そういえば、どうなったんだろうね」

 みんなで楽屋に行こうとしたとき、「レイナ!」と鋭く呼ばれた。
 振り返ると、ステージに男が立っている。
 レイナは、すぐに官邸で会った白石だと気づいた。白石の目は血走っている。
 白石はアミを連れていた。
「ホラ、行けよ」と、アミの背中を押す。
 アミは「レイ……ナあ」と2、3歩歩いた。
「アミ! よかった。具合が悪くて、今日はお留守番だって聞いてたの」
 レイナが駆け寄ろうとすると、「ダメー!」とアミは叫ぶ。
「来あ、ダメ、ダメ」
 必死に手を振って、レイナを止める。
「アミ?」
 
「アミちゃん、無事だったの?」
 笑里も駆け寄ろうとするが、裕が腕をつかんで止めた。
「待て。何か、おかしい」
「え?」
「おいっ、アミに何をしたんだ?」
 裕はアミに近寄ろうとして、足を止める。アミの体に、何かが巻き付けられていることに気づいたのだ。
「爆弾、か……?」
 笑里は悲鳴を上げる。
「警察なんて呼ぶなよ。そんなことしたら、すぐにこのガキを吹き飛ばしてやるからな」
 白石の左手には爆破スイッチが握られている。
 笑里は「アミちゃん……!」とヘナヘナと崩れ落ちた。

「なんで……?」
 レイナはアミから目をそらさない。アミは震えながら涙を流している。
「なんでアミにこんなことするの? アミは何も関係ないじゃない」
「うるさい、うるさい、うるさいっ、お前の母親が悪いんだ!」
「なんで? ママは何も悪いことなんてしてないよ? 悪いのは片田のおじさんでしょ?」
「うっせえな!」
 白石は苛立ち、アミを「早く行けよ」と軽く蹴とばした。アミはへたりこんで、ワアンと泣き出す。
「アミ!」 
 たまらず、レイナはアミに駆け寄った。
「レイナ!」
 裕たちは動けない。

「レ……ナ。レ、ナ」
 アミは泣きじゃくる。
「ごめんね、アミ。怖い思いをさせちゃって、ごめん。ごめんね」
 レイナはアミを強く抱きしめる。
「もう大丈夫。私が一緒にいるからね。絶対に、離れないから」
 白石はスイッチを押そうとする。
「やめろー‼」
 裕は絶叫した。