レイナには官邸前の騒動は伝わっていなかった。
レイナは、ようやく日本に戻ってファンの前で歌える喜びで満ち溢れていた。
一曲目から全身全霊で歌い、中盤になってもそのパワーは一向に衰えない。ダンサーやバックコーラスとの息もピッタリだ。トムもステージを跳ねまわってダンスで華を添える。
「一か月前には、声が出なかったのに。前よりパワフルになった感じ」
笑里は驚きを隠せない。
「ああ。何か解き放たれた感じだな」
裕も嬉しそうにうなずく。
会場にはマサじいさんや、レイナと一緒にゴミ捨て場に住んでいた住人の姿がチラホラと見える。
マサじいさんは、泣きっぱなしだ。
「レイナ、立派だ。こんなに立派になって」
何度もつぶやきながら、噛みしめている。
その隣で、茜が「レイナちゃん、最高ー!」と汗だくになって叫んでいた。
途中で、アリソンも何とか会場にたどり着いて、スティーブと合流する。
「So great!」
アリソンは会場の熱気とレイナのパフォーマンスに感嘆する。
「そうさ。レイナのライブはとびきり最高なんだ」
「あんな小さな女の子なのに……」
アップテンポの曲ではみんなが踊りまくり、バラードではハンカチやタオルを握りしめて聞きほれる。会場の外でも、その一体感は生まれていた。
今、みんなの心は一つになっていた。
「えー、あっという間にラストの曲になってしまいました」
レイナが息ぎれしながら語りはじめると、会場中から「えー!」「ウソ~!」「終わりなんてイヤ~!」と声が上がる。
「ありがとう。でも、ホントはラストじゃなくて、アンコールがあるからね」
レイナが正直に話すと、観客はドッと沸く。
そこに、笑里とアンソニーが袖からケーキを運んで来た。淡いピンク色のホールケーキには、15本のろうそくが立っている。
「わあ、おいしそう!」
レイナは手を叩いて喜ぶ。
「さ、みんな、歌って、歌って!」
アンソニーが促すと、観客は手拍子をしながらハッピーバースデイの曲を歌う。
「♪ハッピーバースデイ、ディア、レイナ。ハッピーバースデイ、トゥーユー♪」
レイナは一気にろうそくを吹き消す。観客はわあっと盛り上がる。
「ケーキは後でね。ちゃんとレイナの分も取っとくから」
アンソニーが軽くウィンクをして、ケーキを下げた。
「みんな、ありがとう! 今日は、私にとって特別なライブです。誕生日だってことだけじゃなくて、今、ママが闘ってるから。官邸ってところで、ママたちは今、一生懸命、声を上げて、この国を変えようとしてます。
私には難しいことは分からないけど、私のようにゴミ捨て場で生まれて育った人や、路上で暮らす人をなくすために、闘ってるんだって聞きました。私もそんな世の中になってほしい。みんなが街で暮らせるようになってほしい。
そのためには、おとなしく待っていたらダメで、誰かが国の偉い人と闘わなきゃいけないんだって。だから、今日のライブは、ママと、ママと一緒に闘っている人たちに聞いてもらいたかったの」
大きな拍手が起きた。
「オレも闘ってるよー!」
「私もー!」
あちこちで声が上がる。
「うん、そうだね。私をここに入れるために、みんな闘ってくれた。そういう、嫌なことをされても負けない姿を見せるのが大事なんだって、スティーブは話してました」
話しているレイナの背後に、ピアノが運び込まれた――タクマのピアノだ。
「最後に歌うのは、闘っている人たちに捧げたい曲です。みんなもきっと、毎日闘ってる。そうでしょ? 会社とか学校で、嫌なことがいっぱいあって、泣いちゃうこともたくさんあって。それでも、毎日、朝になったらベッドから起きる。それだけでも、すごいことだって思うんだ。
でも、どうしようもなく苦しかったり、くじけそうになることもあるでしょ? そんなときに、私はみんなの味方だって思い出してほしいの。世界中が敵に回っても、私はみんなの味方でいるよ。
この曲を思い出したら、この曲を歌ったら、きっと、勇気が出るんじゃないかなって思うの。私も、この曲から勇気をもらったから」
レイナはピアノの前に座り、ゆっくりと蓋を開けた。ポロンポロンと音を確かめる。
レイナは、ようやく日本に戻ってファンの前で歌える喜びで満ち溢れていた。
一曲目から全身全霊で歌い、中盤になってもそのパワーは一向に衰えない。ダンサーやバックコーラスとの息もピッタリだ。トムもステージを跳ねまわってダンスで華を添える。
「一か月前には、声が出なかったのに。前よりパワフルになった感じ」
笑里は驚きを隠せない。
「ああ。何か解き放たれた感じだな」
裕も嬉しそうにうなずく。
会場にはマサじいさんや、レイナと一緒にゴミ捨て場に住んでいた住人の姿がチラホラと見える。
マサじいさんは、泣きっぱなしだ。
「レイナ、立派だ。こんなに立派になって」
何度もつぶやきながら、噛みしめている。
その隣で、茜が「レイナちゃん、最高ー!」と汗だくになって叫んでいた。
途中で、アリソンも何とか会場にたどり着いて、スティーブと合流する。
「So great!」
アリソンは会場の熱気とレイナのパフォーマンスに感嘆する。
「そうさ。レイナのライブはとびきり最高なんだ」
「あんな小さな女の子なのに……」
アップテンポの曲ではみんなが踊りまくり、バラードではハンカチやタオルを握りしめて聞きほれる。会場の外でも、その一体感は生まれていた。
今、みんなの心は一つになっていた。
「えー、あっという間にラストの曲になってしまいました」
レイナが息ぎれしながら語りはじめると、会場中から「えー!」「ウソ~!」「終わりなんてイヤ~!」と声が上がる。
「ありがとう。でも、ホントはラストじゃなくて、アンコールがあるからね」
レイナが正直に話すと、観客はドッと沸く。
そこに、笑里とアンソニーが袖からケーキを運んで来た。淡いピンク色のホールケーキには、15本のろうそくが立っている。
「わあ、おいしそう!」
レイナは手を叩いて喜ぶ。
「さ、みんな、歌って、歌って!」
アンソニーが促すと、観客は手拍子をしながらハッピーバースデイの曲を歌う。
「♪ハッピーバースデイ、ディア、レイナ。ハッピーバースデイ、トゥーユー♪」
レイナは一気にろうそくを吹き消す。観客はわあっと盛り上がる。
「ケーキは後でね。ちゃんとレイナの分も取っとくから」
アンソニーが軽くウィンクをして、ケーキを下げた。
「みんな、ありがとう! 今日は、私にとって特別なライブです。誕生日だってことだけじゃなくて、今、ママが闘ってるから。官邸ってところで、ママたちは今、一生懸命、声を上げて、この国を変えようとしてます。
私には難しいことは分からないけど、私のようにゴミ捨て場で生まれて育った人や、路上で暮らす人をなくすために、闘ってるんだって聞きました。私もそんな世の中になってほしい。みんなが街で暮らせるようになってほしい。
そのためには、おとなしく待っていたらダメで、誰かが国の偉い人と闘わなきゃいけないんだって。だから、今日のライブは、ママと、ママと一緒に闘っている人たちに聞いてもらいたかったの」
大きな拍手が起きた。
「オレも闘ってるよー!」
「私もー!」
あちこちで声が上がる。
「うん、そうだね。私をここに入れるために、みんな闘ってくれた。そういう、嫌なことをされても負けない姿を見せるのが大事なんだって、スティーブは話してました」
話しているレイナの背後に、ピアノが運び込まれた――タクマのピアノだ。
「最後に歌うのは、闘っている人たちに捧げたい曲です。みんなもきっと、毎日闘ってる。そうでしょ? 会社とか学校で、嫌なことがいっぱいあって、泣いちゃうこともたくさんあって。それでも、毎日、朝になったらベッドから起きる。それだけでも、すごいことだって思うんだ。
でも、どうしようもなく苦しかったり、くじけそうになることもあるでしょ? そんなときに、私はみんなの味方だって思い出してほしいの。世界中が敵に回っても、私はみんなの味方でいるよ。
この曲を思い出したら、この曲を歌ったら、きっと、勇気が出るんじゃないかなって思うの。私も、この曲から勇気をもらったから」
レイナはピアノの前に座り、ゆっくりと蓋を開けた。ポロンポロンと音を確かめる。