バンバンと銃撃音が鳴り響き、催涙弾が次々と撃ち込まれる。白い煙を上げながら道路を転がって行く催涙弾を避けて、デモの参加者は官邸から離れるしかなかった。
機動隊が倒れている参加者を拘束しようとしたので、周囲の人が止めに入る。あちこちで小競り合いが起きはじめた。
真実の党の候補者も、身の危険を感じて、大半が逃げて行ってしまった。
美晴は一人、官邸の前に立っていた。催涙弾の煙に激しく咳き込みながらも、その場から離れない。
機動隊も、美晴を拘束していいのかどうか、ためらっているようだ。
――怜人、怜人。私は逃げない。たとえ、ここで倒されたとしても。たった一人になっても。この場から、絶対に逃げないから。あなたも、今、ここにいるでしょ? 一緒に闘ってくれてるでしょ?
その時、一陣の風が吹いて、煙を吹き飛ばした。呼吸がずいぶん楽になり、美晴は深呼吸をした。
美晴も、本当は足が震えている。
だが、自分が逃げたら、この闘いは終わる。それが分かっているので、歯を食いしばって官邸を睨みつけた。
「卑怯者、ここに出て来なさいよ!」
美晴は叫ぶ。自分を鼓舞するように。
「あなたが直接、私をつかまえに来なさいよ! 死刑にしたいのなら、すればいい。怜人を殺したように、私も殺せばいいじゃないの! みんなを攻撃しないで、私だけを攻撃しなさいよ!」
その美晴の様子を、海外メディアの記者が撮影している。今、全世界に、官邸前の決戦は中継されていた。
「美晴さん、いったん、下がったほうが!」
陸は戻って来て、美晴に催涙弾を避けるための傘を差し出した。
「私はここにいる。陸君は逃げて、危ないから!」
「そんなわけにはいかないですよ」
陸は自分も傘をさしている。陸の後ろから、ヨロヨロと千鶴が戻って来た。
「母さん、ここに来たら、危ないから!」
「いいのよ」
千鶴は美晴の隣に座り込んだ。
ヘルメットをかぶっているゆずが、「向こうにケガ人がいる! 誰か手を貸して!」と走り回っている。
「母さんも、ゆずさんと一緒にあっちに行ったほうがいいよ」
千鶴の顔は真っ蒼になり、唇が震えている。
病を押してデモに参加している千鶴は、途中で何度もしゃがみこんでいた。陸やゆずが何度も部屋に戻って休むように勧めても、頑なに拒んでいた。
その千鶴も、さすがに立ち上がる気力は残っていないようだ。それでも、千鶴は陸の言葉に首を横に振った。
「もう、余命が短いから、いつ死んでもいい。美晴さんと一緒に、最後まで闘うの。ここで、力尽きて、死んでも、いい」
息も絶え絶えに訴えかける千鶴に、陸は何も言えなくなる。
「あなたの、お父さんだって……死なずに、済んだかも。これは、お父さんの敵を、打つため、でもあるの」
「母さん……」
陸は真っ赤な顔で、必死に涙を堪えている。
美晴はしゃがんで、千鶴の手を握った。
「ありがとう、千鶴さん。一緒に闘おう」
千鶴は弱々しくうなずく。
いつの間にか、機動隊が3人を取り囲んでいた。
「ここから直ちに立ち去りなさい」と銃を向けながら警告する。
「私たちを撃つ気?」
美晴はゆっくりと立ち上がる。
「武器を持ってない私たちを撃つの? あなたたちに、そんな覚悟はあるの?」
燃えるようなまなざし。美晴の気迫に、機動隊はひるむ。
そこにドローンが何台も飛んで来て、機動隊の上に何かを振りかけた。
「うわっ、なんだこれ」
たちまち、機動隊は激しくせき込んだ。
「目が、目が見えない!」
「おいっ、下がれ、下がれ!」
「いったん引けー!」
デモ隊と機動隊の叫び声が重なり合い、夜空に消えていく。
機動隊が倒れている参加者を拘束しようとしたので、周囲の人が止めに入る。あちこちで小競り合いが起きはじめた。
真実の党の候補者も、身の危険を感じて、大半が逃げて行ってしまった。
美晴は一人、官邸の前に立っていた。催涙弾の煙に激しく咳き込みながらも、その場から離れない。
機動隊も、美晴を拘束していいのかどうか、ためらっているようだ。
――怜人、怜人。私は逃げない。たとえ、ここで倒されたとしても。たった一人になっても。この場から、絶対に逃げないから。あなたも、今、ここにいるでしょ? 一緒に闘ってくれてるでしょ?
その時、一陣の風が吹いて、煙を吹き飛ばした。呼吸がずいぶん楽になり、美晴は深呼吸をした。
美晴も、本当は足が震えている。
だが、自分が逃げたら、この闘いは終わる。それが分かっているので、歯を食いしばって官邸を睨みつけた。
「卑怯者、ここに出て来なさいよ!」
美晴は叫ぶ。自分を鼓舞するように。
「あなたが直接、私をつかまえに来なさいよ! 死刑にしたいのなら、すればいい。怜人を殺したように、私も殺せばいいじゃないの! みんなを攻撃しないで、私だけを攻撃しなさいよ!」
その美晴の様子を、海外メディアの記者が撮影している。今、全世界に、官邸前の決戦は中継されていた。
「美晴さん、いったん、下がったほうが!」
陸は戻って来て、美晴に催涙弾を避けるための傘を差し出した。
「私はここにいる。陸君は逃げて、危ないから!」
「そんなわけにはいかないですよ」
陸は自分も傘をさしている。陸の後ろから、ヨロヨロと千鶴が戻って来た。
「母さん、ここに来たら、危ないから!」
「いいのよ」
千鶴は美晴の隣に座り込んだ。
ヘルメットをかぶっているゆずが、「向こうにケガ人がいる! 誰か手を貸して!」と走り回っている。
「母さんも、ゆずさんと一緒にあっちに行ったほうがいいよ」
千鶴の顔は真っ蒼になり、唇が震えている。
病を押してデモに参加している千鶴は、途中で何度もしゃがみこんでいた。陸やゆずが何度も部屋に戻って休むように勧めても、頑なに拒んでいた。
その千鶴も、さすがに立ち上がる気力は残っていないようだ。それでも、千鶴は陸の言葉に首を横に振った。
「もう、余命が短いから、いつ死んでもいい。美晴さんと一緒に、最後まで闘うの。ここで、力尽きて、死んでも、いい」
息も絶え絶えに訴えかける千鶴に、陸は何も言えなくなる。
「あなたの、お父さんだって……死なずに、済んだかも。これは、お父さんの敵を、打つため、でもあるの」
「母さん……」
陸は真っ赤な顔で、必死に涙を堪えている。
美晴はしゃがんで、千鶴の手を握った。
「ありがとう、千鶴さん。一緒に闘おう」
千鶴は弱々しくうなずく。
いつの間にか、機動隊が3人を取り囲んでいた。
「ここから直ちに立ち去りなさい」と銃を向けながら警告する。
「私たちを撃つ気?」
美晴はゆっくりと立ち上がる。
「武器を持ってない私たちを撃つの? あなたたちに、そんな覚悟はあるの?」
燃えるようなまなざし。美晴の気迫に、機動隊はひるむ。
そこにドローンが何台も飛んで来て、機動隊の上に何かを振りかけた。
「うわっ、なんだこれ」
たちまち、機動隊は激しくせき込んだ。
「目が、目が見えない!」
「おいっ、下がれ、下がれ!」
「いったん引けー!」
デモ隊と機動隊の叫び声が重なり合い、夜空に消えていく。