ジンは、サービスエリアで休憩をとっていた。
その日も夜通し走って荷物を送り届けて、帰りにサービスエリアで仮眠をとっていたところだ。朝の風は冷たく、まだ交通量も少ないので空気は澄んでいる。
ジンはトラックの外に出て、軽く体を動かす。
団地が壊されてから、ゴミ捨て場の住人のほとんどはホームレスを支援する団体の力を借りて、ホームレス向けの宿に寝泊まりしている。
ジンは団地に移り住んでからトラックの配送の仕事でわずかながらも貯金をしていたので、風呂なし共同トイレの6畳一間のボロアパートに住むことができた。
マサじいさんにも声をかけ、「オレは、夜はいないから」と半ば強引に部屋で共同生活を始めた。
だが、いつまでもそんな生活を送っていられないだろう。
裕は代わりの住まいを探しているようだが、国が手を回しているのか、どこにも断られているという。
それどころか、裕たちも仕事を切られたという情報が、ネットでは出回っている。いずれあの豪邸を売ることになるんじゃないかという噂もある。
――レイナは声が出るようになるか分からんし。八方ふさがりだな。
トイレに行ったついでに缶コーヒーとパンを買い、トラックに乗り込む。
スマホを見ると、昔の知り合いからメッセージが届いている。
「お前が探してた女の人って、もしかしてこの人か?」
URLのアドレスが張りつけてある。
開いてみると、誰かが演説している動画だった。
「これはっ……」
それが美晴だと、すぐに気づいた。2年前よりも少し年をとっているが、瞳は闘志に燃え、大きな身振り手振りで、力強い演説をしている。
ジンは呆然と動画を見つめていた。
「どういうことだっ」
片田は苛立ちながら、テーブルを叩く。
美晴の演説は、瞬く間にネットで伝わった。半日で再生回数は30万を超え、コメント欄には海外からのメッセージも書き込まれている。
「いやっ、僕も知らなくて」
白石がしどろもどろになっていると、「お前、あいつらの行動を見張ってろって言っただろ? 何してたんだよ!」と、片田は激昂する。
「いや、だから、レイナが国外に出たので、しばらくは何も起こらないんじゃないかと」
「起きてるじゃないか! 最悪の事態じゃないか!」
白石は、美晴たちが接触してきたことを片田に話していない。そんなことを話したら、自分が疑われるかもしれないし、これ以上、気が重い任務を命じられるのも避けたかったのだ。
「真実の党って、本郷怜人の党じゃないか! あいつら、なめやがって」
握りしめる手は、怒りで震えている。
「とととにかく、対策を練りましょう」
白石が落ち着かせようとすると、「総理、ゴミ捨て場の連中には、住民票がないはずです。だから、立候補も投票もできないんじゃないかと」と、三橋がすかさず意見する。
「まあ、確かにそうだな」
片田は少し冷静さを取り戻した。
「それに、国会議事堂を占拠したのは、重大な犯罪ですし。時効が成立してなかったら、逮捕できますよね」
「そうだな」
片田は表情を緩めた。
「いいところに気が付いたね。その2つについては三橋君、君が調べてくれないか」
「かしこまりました」
三橋がお辞儀をしながら、ニヤリと笑ったのを白石は見逃さなかった。
――マズい。コイツ、オレを追い落とそうとしてる。
白石は自分の立場が危うくなっていることに気づいた。
「で、君は何をできるんだ?」
片田はコツコツと人差し指でテーブルを叩く。
「はい、あの、レイナの行方を」
「それはいいよ。あの子はアメリカに行ってるんでしょ? もっと役に立つことをしなさいよっ」
「ハハ、ハイ」
片田は白石と視線を合わさず、三橋にだけ「頼んだよ」と声をかけて、執務室を出た。
白石は悔しさのあまり、ソファの背もたれを殴った。
その日も夜通し走って荷物を送り届けて、帰りにサービスエリアで仮眠をとっていたところだ。朝の風は冷たく、まだ交通量も少ないので空気は澄んでいる。
ジンはトラックの外に出て、軽く体を動かす。
団地が壊されてから、ゴミ捨て場の住人のほとんどはホームレスを支援する団体の力を借りて、ホームレス向けの宿に寝泊まりしている。
ジンは団地に移り住んでからトラックの配送の仕事でわずかながらも貯金をしていたので、風呂なし共同トイレの6畳一間のボロアパートに住むことができた。
マサじいさんにも声をかけ、「オレは、夜はいないから」と半ば強引に部屋で共同生活を始めた。
だが、いつまでもそんな生活を送っていられないだろう。
裕は代わりの住まいを探しているようだが、国が手を回しているのか、どこにも断られているという。
それどころか、裕たちも仕事を切られたという情報が、ネットでは出回っている。いずれあの豪邸を売ることになるんじゃないかという噂もある。
――レイナは声が出るようになるか分からんし。八方ふさがりだな。
トイレに行ったついでに缶コーヒーとパンを買い、トラックに乗り込む。
スマホを見ると、昔の知り合いからメッセージが届いている。
「お前が探してた女の人って、もしかしてこの人か?」
URLのアドレスが張りつけてある。
開いてみると、誰かが演説している動画だった。
「これはっ……」
それが美晴だと、すぐに気づいた。2年前よりも少し年をとっているが、瞳は闘志に燃え、大きな身振り手振りで、力強い演説をしている。
ジンは呆然と動画を見つめていた。
「どういうことだっ」
片田は苛立ちながら、テーブルを叩く。
美晴の演説は、瞬く間にネットで伝わった。半日で再生回数は30万を超え、コメント欄には海外からのメッセージも書き込まれている。
「いやっ、僕も知らなくて」
白石がしどろもどろになっていると、「お前、あいつらの行動を見張ってろって言っただろ? 何してたんだよ!」と、片田は激昂する。
「いや、だから、レイナが国外に出たので、しばらくは何も起こらないんじゃないかと」
「起きてるじゃないか! 最悪の事態じゃないか!」
白石は、美晴たちが接触してきたことを片田に話していない。そんなことを話したら、自分が疑われるかもしれないし、これ以上、気が重い任務を命じられるのも避けたかったのだ。
「真実の党って、本郷怜人の党じゃないか! あいつら、なめやがって」
握りしめる手は、怒りで震えている。
「とととにかく、対策を練りましょう」
白石が落ち着かせようとすると、「総理、ゴミ捨て場の連中には、住民票がないはずです。だから、立候補も投票もできないんじゃないかと」と、三橋がすかさず意見する。
「まあ、確かにそうだな」
片田は少し冷静さを取り戻した。
「それに、国会議事堂を占拠したのは、重大な犯罪ですし。時効が成立してなかったら、逮捕できますよね」
「そうだな」
片田は表情を緩めた。
「いいところに気が付いたね。その2つについては三橋君、君が調べてくれないか」
「かしこまりました」
三橋がお辞儀をしながら、ニヤリと笑ったのを白石は見逃さなかった。
――マズい。コイツ、オレを追い落とそうとしてる。
白石は自分の立場が危うくなっていることに気づいた。
「で、君は何をできるんだ?」
片田はコツコツと人差し指でテーブルを叩く。
「はい、あの、レイナの行方を」
「それはいいよ。あの子はアメリカに行ってるんでしょ? もっと役に立つことをしなさいよっ」
「ハハ、ハイ」
片田は白石と視線を合わさず、三橋にだけ「頼んだよ」と声をかけて、執務室を出た。
白石は悔しさのあまり、ソファの背もたれを殴った。