レイナのステージは夜7時からだ。
山はすっかり日が落ち、満天の星が広がっている。昼間は目がくらむような夏の日差しが降り注いでいた山間の高原も、ひんやりとした空気に包まれている。
それでもステージ周辺の温度は冷めることはない。観客の熱狂が夜空に向かって渦巻いている。
既に会場は超満員で、レイナの前の出番のロックバンドも盛り上がっていた。
レイナも楽屋でスピード感あふれるロックナンバーを聞きながら、アミとアンソニーと一緒にはしゃいでいる。
「よう、レイナ!」
スティーブとトムが楽屋に入って来る。
レイナは歓声を上げて、二人に抱き着く。
「久しぶり~! 元気だった?」
「ああ、こっちは元気さ。レイナはまた大きくなったかな?」
「ううん、背はそんなに伸びてないよ」
みんなで思い出話に花を咲かせていると、
「え? どういうこと?」
とディレクターが楽屋の前を通り過ぎていった。
「そんな話、聞いてないよっ。今更、何だよ! 勘弁してよ」
怒鳴ってから、どこかに走って行く。
大勢のスタッフが慌てた様子で走り回っているのを見て、裕は「何か起きたのかな」と心配そうな表情になった。
「大物が飛び入り参加するとか?」
アンソニーが言うと、
「スティーブはここに来てるけど、今日は出ないし」
と裕は首をかしげる。
ロックバンドの出番が終わり、楽屋にはけてくると、レイナは拍手をしながら、「すっごいカッコよかった! 私も一緒に踊ったよ!」と絶賛する。
「ありがと~」
「レイナちゃんも気張りや」
「気張りや?」
「あ、関西弁で、頑張れって意味。俺らもレイナちゃんの歌、めっちゃ好きやねん。楽しんできてね」
「うん! いっぱい楽しんでくる!」
入れ替わりでレイナのバックバンドがステージに上がり、音合わせを始める。
「それじゃ、オレらは客席で見てるから」
スティーブとトムがアミを連れて出て行った。
レイナたちは楽屋を出て、ステージの袖に向かう。
「うわあ、大勢いるねえ」
袖からこっそり見ると、ステージのすぐそばまで客は詰めかけていた。
「ああ、みんな、レイナの曲を聞きに来たんだよ」
バックバンドの準備が整った。
「レイナ、レイナ、レイナ」
客席で手拍子とともに、レイナを呼ぶ大合唱が起きる。
「さあ、出番だ」
裕がそっと背中を押す。レイナはいつものように、光り輝くステージに飛び出した。途端にわあっと、地面が揺れるほどの大歓声が起きる。
「こんばんはー! レイナです!」
ステージ中央で、レイナは客席に向かって手を振る。
「レイナ―!」
「待ってたよー!」
客の声援がやまない。泣きながらレイナの名前を絶叫しているファンもいる。
「私も、みんなと会えるのを待ってたよー!」
レイナの一言で、さらに拍手と歓声が起きる。
その興奮がおさまってきたところで、ドラマーがドラムスティックを「1、2、1、2、3、4」と打ち鳴らす。1曲目の前奏が始まる。
そのとき、ディレクターが急にステージに飛び出した。両手を振って演奏を止めさせる。
「すみ、すみせん、すみませんっ、やめて、やめっ」
全速力で駆けて来たのか汗びっしょりで、息切れして話せないようだ。バンドのメンバーはみな手を止め、怪訝な顔をしている。
「どうしたんですか?」
裕も不安な面持ちでステージに出て来る。
「すみ、すみません、えー、マイクは……」
ディレクターはレイナからマイクを受け取るが、レイナとは目を合わせようとしない。
「あのっ、すみません、本日のラストステージなんですが、たった今、大きな変更がありまして」
マイクを握る手が震えている。
「レイ、レイナさんのステージは……中止とさせていただきます」
客席がしんと静まり返った。
レイナも裕も、ポカンとした顔でディレクターを見る。
山はすっかり日が落ち、満天の星が広がっている。昼間は目がくらむような夏の日差しが降り注いでいた山間の高原も、ひんやりとした空気に包まれている。
それでもステージ周辺の温度は冷めることはない。観客の熱狂が夜空に向かって渦巻いている。
既に会場は超満員で、レイナの前の出番のロックバンドも盛り上がっていた。
レイナも楽屋でスピード感あふれるロックナンバーを聞きながら、アミとアンソニーと一緒にはしゃいでいる。
「よう、レイナ!」
スティーブとトムが楽屋に入って来る。
レイナは歓声を上げて、二人に抱き着く。
「久しぶり~! 元気だった?」
「ああ、こっちは元気さ。レイナはまた大きくなったかな?」
「ううん、背はそんなに伸びてないよ」
みんなで思い出話に花を咲かせていると、
「え? どういうこと?」
とディレクターが楽屋の前を通り過ぎていった。
「そんな話、聞いてないよっ。今更、何だよ! 勘弁してよ」
怒鳴ってから、どこかに走って行く。
大勢のスタッフが慌てた様子で走り回っているのを見て、裕は「何か起きたのかな」と心配そうな表情になった。
「大物が飛び入り参加するとか?」
アンソニーが言うと、
「スティーブはここに来てるけど、今日は出ないし」
と裕は首をかしげる。
ロックバンドの出番が終わり、楽屋にはけてくると、レイナは拍手をしながら、「すっごいカッコよかった! 私も一緒に踊ったよ!」と絶賛する。
「ありがと~」
「レイナちゃんも気張りや」
「気張りや?」
「あ、関西弁で、頑張れって意味。俺らもレイナちゃんの歌、めっちゃ好きやねん。楽しんできてね」
「うん! いっぱい楽しんでくる!」
入れ替わりでレイナのバックバンドがステージに上がり、音合わせを始める。
「それじゃ、オレらは客席で見てるから」
スティーブとトムがアミを連れて出て行った。
レイナたちは楽屋を出て、ステージの袖に向かう。
「うわあ、大勢いるねえ」
袖からこっそり見ると、ステージのすぐそばまで客は詰めかけていた。
「ああ、みんな、レイナの曲を聞きに来たんだよ」
バックバンドの準備が整った。
「レイナ、レイナ、レイナ」
客席で手拍子とともに、レイナを呼ぶ大合唱が起きる。
「さあ、出番だ」
裕がそっと背中を押す。レイナはいつものように、光り輝くステージに飛び出した。途端にわあっと、地面が揺れるほどの大歓声が起きる。
「こんばんはー! レイナです!」
ステージ中央で、レイナは客席に向かって手を振る。
「レイナ―!」
「待ってたよー!」
客の声援がやまない。泣きながらレイナの名前を絶叫しているファンもいる。
「私も、みんなと会えるのを待ってたよー!」
レイナの一言で、さらに拍手と歓声が起きる。
その興奮がおさまってきたところで、ドラマーがドラムスティックを「1、2、1、2、3、4」と打ち鳴らす。1曲目の前奏が始まる。
そのとき、ディレクターが急にステージに飛び出した。両手を振って演奏を止めさせる。
「すみ、すみせん、すみませんっ、やめて、やめっ」
全速力で駆けて来たのか汗びっしょりで、息切れして話せないようだ。バンドのメンバーはみな手を止め、怪訝な顔をしている。
「どうしたんですか?」
裕も不安な面持ちでステージに出て来る。
「すみ、すみません、えー、マイクは……」
ディレクターはレイナからマイクを受け取るが、レイナとは目を合わせようとしない。
「あのっ、すみません、本日のラストステージなんですが、たった今、大きな変更がありまして」
マイクを握る手が震えている。
「レイ、レイナさんのステージは……中止とさせていただきます」
客席がしんと静まり返った。
レイナも裕も、ポカンとした顔でディレクターを見る。