しばらくの間、少華は青龍帝にこき使われる日々が続いた。
「ほら、荷物を持ってこい」
「承知しました! ここから真反対の場所だからすごく遠い……ですね」
「不敬だぞ、つべこべ言うな」
――命じられて何度も後宮内を往復している内に、すっかり建物の構造や位置関係を覚えてしまったのだった。
***
「俺は小食なんだ。この飯はお前が食べよ」
「ええっ……!? 全然箸をつけてないじゃないですか!?」
――生家や王都外れの村では到底食べられなかった、ホカホカの焼味を召し上がることが出来た。
***
同僚の宦官に声をかけられた時のこと。
「おい、新人、お前、陛下に気に入られているな?」
「え?」
男たちに取り囲まれて内心ひやひやしていると――。
「女どころか、男の俺たちすら人を寄せ付けようとしない皇帝陛下にさ……怖すぎて、誰も近づけなかったのに、お前はすっかり気に入られててすごいよ!」
「新人のお前、無茶苦茶な要求でもなんでも頑張るもんな! 俺達も応援してやるぜ」
(あれ? 陛下の言う通りにしていたら、宦官仲間たちに同情されて、仲間が増えてしまった……!?)
それに自分は彼に気に入られていると周囲からは認識されているようだ。
そうして、地味だけど頑張るやつだと、宦官としての評価が上がっていったのだった。
***
何よりも――しばらく青龍帝の世話をして過ごす内に気付いたことがある。
「少」
端的に名を呼ばれた後、青龍帝に手招きされると、掌を差し出すように告げられた。
「ほら、お前にこれをくれてやろう――俺に少女趣味はないからな」
(あ……)
なぜか女性が好きそうな宝飾品の類を少華に贈ってくれるのだ。
(なんだろう、この人、怖いと思っていたけれど、実はいい人なの……?)
だんだんと彼が本当はどんな人物なのか気になってくる。
そうして――。
彼の持つとある能力に気付いてしまう事件が起こったのだった。