秋の柔らかな日差しが、僕たちを包みこむ。
放課後に僕たちは自然に並んで、ゆっくりと歩き始めた。
もちろんカラオケだってみんなと行く。
彼女は自分の好きなことを一生懸命にしゃべっていて、僕はただそれを「うん、うん」と聞いていた。
本当に、ただ聞いているだけの彼女の何気ない言葉の一つ一つが、僕にかかった重荷を取り除いてゆく。
「ここで初めて、一緒にドーナツ食べたの覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。おいしかった」
「本当に?」
彼女は何も気づかないフリをして笑う。
「ねぇ、宮野くんの好きなもの、お刺身以外のことを私にも教えて」
「他に好きなもの?」
ぱっと頭に浮かんだのは、魚肉ソーセージ。
だけど、前に学校でそれをかじっていたら、他の人に笑われたから、その問いに答えるとしたら、するめか、はんぺん?
「普通に、パンとかご飯とか」
「じゃあさ、ドーナツじゃなくて、サンドイッチか、おいしいパン屋さんに行こう」
「だけどそれじゃあ、奏は楽しくないんじゃないの?」
「宮野くんの行きたいところなら、どこだっていいよ」
吹く風は徐々に冷たくなり、校庭の桜の木はその葉を赤や茶色に変えた。
奏の言葉に、僕は今さらのように本当の気持ちに気づく。
「実はさ、ずっと水族館に行ってみたかったんだ。海の近くにあるやつ。船にも乗ってみたい。どんな舟でもいいから。夜の空にドンと上がる、大きな花火も見たい。それから大きなでっかい丸い金属の輪っかで、小さな箱にぶら下がって回るやつにも乗ってみたい!」
いつも海から見ていた、人間の作った美しいもの。
夜にだけこっそり近づいて、遠くからながめていた。
僕にはいま、それが出来るんだ。
「大きな白い帆船に乗りたい。すごく綺麗な船が、ずっと停まってるところがあるよね。あの船のところに行こう」
「ふふ。じゃあ約束ね」
差し出された奏の約束の小指を、僕は初めて見たような気になる。
「本当にいいの?」
彼女はうなずいた。
僕は自分のための約束を、奏と交わす。
放課後に僕たちは自然に並んで、ゆっくりと歩き始めた。
もちろんカラオケだってみんなと行く。
彼女は自分の好きなことを一生懸命にしゃべっていて、僕はただそれを「うん、うん」と聞いていた。
本当に、ただ聞いているだけの彼女の何気ない言葉の一つ一つが、僕にかかった重荷を取り除いてゆく。
「ここで初めて、一緒にドーナツ食べたの覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。おいしかった」
「本当に?」
彼女は何も気づかないフリをして笑う。
「ねぇ、宮野くんの好きなもの、お刺身以外のことを私にも教えて」
「他に好きなもの?」
ぱっと頭に浮かんだのは、魚肉ソーセージ。
だけど、前に学校でそれをかじっていたら、他の人に笑われたから、その問いに答えるとしたら、するめか、はんぺん?
「普通に、パンとかご飯とか」
「じゃあさ、ドーナツじゃなくて、サンドイッチか、おいしいパン屋さんに行こう」
「だけどそれじゃあ、奏は楽しくないんじゃないの?」
「宮野くんの行きたいところなら、どこだっていいよ」
吹く風は徐々に冷たくなり、校庭の桜の木はその葉を赤や茶色に変えた。
奏の言葉に、僕は今さらのように本当の気持ちに気づく。
「実はさ、ずっと水族館に行ってみたかったんだ。海の近くにあるやつ。船にも乗ってみたい。どんな舟でもいいから。夜の空にドンと上がる、大きな花火も見たい。それから大きなでっかい丸い金属の輪っかで、小さな箱にぶら下がって回るやつにも乗ってみたい!」
いつも海から見ていた、人間の作った美しいもの。
夜にだけこっそり近づいて、遠くからながめていた。
僕にはいま、それが出来るんだ。
「大きな白い帆船に乗りたい。すごく綺麗な船が、ずっと停まってるところがあるよね。あの船のところに行こう」
「ふふ。じゃあ約束ね」
差し出された奏の約束の小指を、僕は初めて見たような気になる。
「本当にいいの?」
彼女はうなずいた。
僕は自分のための約束を、奏と交わす。