昼休みの廊下を、並んで歩くのも久しぶり。
肩と肩との距離って、これくらい開いてたんでよかったっけ。
僕はどこへ行っていいのか分からないから、ゆっくりと彼女の後ろをついてゆく。
窓の外は季節の変わり目を示す薄い雲がかかっていて、吹く風も湿度を下げた。
緑だった木の葉も、色を変え始めている。
背を向けたままの前を歩く彼女の髪からは、もうプールの臭いはしない。

「なんで強化指定選手断ったの?」
「もう泳がないから」
「なんで?」
「なんでって……」

 そう聞かれた、僕の方が驚く。
ずっと短かった彼女の髪が伸びて、そういえば自分の髪も伸びていたなーなんて、自分の襟足をつまんでみる。

「もう自由になったから、水泳にも興味なくなった?」
「自由にはなれたけど、奏が気にすることじゃないよ」

 今日は特に、吹く風が強くて肌寒い。
昨日まで暑かったのが、嘘みたいに冷える。

「そうかもしれないけど、私のこととは関係なく、泳いでいてほしい」
「う~ん。そのお願いはもう、残念だけど叶えてあげられないな」
「それは私のことが、もう好きじゃなくなったから?」