翌日、いつものように朝一番に学校に来た僕は、何となく奏の席に座った。
どれもこれも全部同じ机と椅子だけど、ここにいつも奏が座っているのかと思うと、僕のものとは違う椅子のような気がする。
そのまま机の上で眠っていたら、奏の声で起こされた。

「邪魔。どいて」

 その声にまたドキリとする。
奏の方から、声をかけてくれてよかった。
そうじゃなかったら僕は、どうしていいのか分からなかったかもしれない。

「ねぇ。もう一度確認するけど、奏は僕のこと好き?」
「好きなわけないでしょ。もう嫌いになった」
「……。そうだよね。知ってた」

 のろのろと立ち上がる。
体が重い。
筋トレとランニングで走らされすぎた、次の日みたいだ。
この重みは、人魚の僕が陸に上がってひなたぼっこしてる時と同じ重みだ。
やっぱり僕の体にかけられた魔法が、弱くなってるのかもしれない。
もう時間がないことを、知らせてくれている。

 立ち上がりはしたけど、そこから動けなくて、じっと彼女を見下ろす。
奏は肘で僕を押しのけた。
いずみには勝てるようになったのに、奏には押し退けられる。
きっと奏はいずみよりいっぱい筋トレしてるから、だから僕はまだ勝てないんだ。

「早く自分の席に着きなよ。先生来るよ」
「うん」

 すっかり人が増え、ざわつく教室の中を進む。
こういう時は、いつも岸田くんが色々教えてくれてたのに、その岸田くんは、今は僕と目を合わせてもくれない。
そういえば、奏は岸田くんと仲直りしろって言ってたっけ。
いずみはもういいって言ってたけど。
僕にはそんなことを言われて、どうしていいのか分からない。
仲直りのために謝る? 
それとも、もういいの?

 教室にいる間、奏は僕の方を見ないようにしていたみたいだけど、時々はチラチラこっちを見ていることくらい、僕だって気づいてる。
やっと放課後になった。
プールには行きたくないけど、きっと奏は行くだろうし岸田くんも行く。
あんまり行きたくはないけど、行かないと奏とも話せない。
ようやく束縛から外された教室は、とても風の通りがよくなるはずなのに、今日は濁ったままだ。
気がつけば二人はとっくに教室から姿を消していて、奏を誘って一緒に行こうと思っていたのに、少し残念な気分になる。
あまり気の進まない僕が、もたもたと片付けをしていたら、廊下からいずみがのぞきこんだ。

「宮野くん。ちょっと来て」