強すぎる精神的衝撃が力を一時的に失わせたのか。
いつかまた宿るものなのか。
そうした可能性について、文献を紐解いたり議論する日にちの余裕は無かった。
一両日中に支度をせねば間に合わない。
すっかり弱ってしまい床に伏せた春蕾に粥を運んだ時、枕元に座していた父様は私を見てかすかに顎を引いた。
やはりこの道しかない──言わずとも伝わった父様の覚悟に、喉の奥が震えた。
急いで弟の服の丈を詰め、垂らしていた髪を簪で纏める。
体格に著しい差がないことを喜ぶ間もなく姿見の前に立てば、男のなりをした──否、春蕾に成り代わった私がそこに居た。
屈強さを求められるお役目でなくて本当に良かった。そして自分が豊満な体型でなかったことにも生まれて初めて感謝した。
咳払いをして低い声を出してみる。
そっと姿見に触れて目の前の自分を見つめる。
不安そうなまなざしが見つめ返してきた。それを安心させるように大きく頷いて胸を張る。
「暁蕾姉さん。僕は──春蕾は、鎮めの楽士の任、見事務めてみせよう!」
随分と芝居がかった言い回しだ。だがこれでいいと確信もあった。
私は弟を──春蕾を演じてみせるのだから。
いつかまた宿るものなのか。
そうした可能性について、文献を紐解いたり議論する日にちの余裕は無かった。
一両日中に支度をせねば間に合わない。
すっかり弱ってしまい床に伏せた春蕾に粥を運んだ時、枕元に座していた父様は私を見てかすかに顎を引いた。
やはりこの道しかない──言わずとも伝わった父様の覚悟に、喉の奥が震えた。
急いで弟の服の丈を詰め、垂らしていた髪を簪で纏める。
体格に著しい差がないことを喜ぶ間もなく姿見の前に立てば、男のなりをした──否、春蕾に成り代わった私がそこに居た。
屈強さを求められるお役目でなくて本当に良かった。そして自分が豊満な体型でなかったことにも生まれて初めて感謝した。
咳払いをして低い声を出してみる。
そっと姿見に触れて目の前の自分を見つめる。
不安そうなまなざしが見つめ返してきた。それを安心させるように大きく頷いて胸を張る。
「暁蕾姉さん。僕は──春蕾は、鎮めの楽士の任、見事務めてみせよう!」
随分と芝居がかった言い回しだ。だがこれでいいと確信もあった。
私は弟を──春蕾を演じてみせるのだから。