市の立つ日、月鈴が馬に撥ねられその若く瑞々しい生命を散らしたのは、春蕾がお役目につく三日前だった。
彼女が携えていたのは小さな飾り紐。
春蕾の笛に括り、心は傍に居ると伝えたかったのか。
今となっては聞く術も無い。

「月鈴」

家に戻され、清められた亡骸に呼びかける春蕾を扉の向こうから見守っていた。
春蕾の指が月鈴の頬に触れる。
もう冷たく硬くなったそれは二度と笑わない。
春蕾の名前を呼ぶこともない。
頬を染めて、いつか執り行われる華燭の典に胸をときめかせることもない。

崩れ落ちた春蕾は慟哭の後、失神した。

そして目覚めた時には──鎮めの力を失っていた。