賢帝と称えられた先帝の崩御に伴い、即位された新たな皇帝陛下は、皇太子時代から類まれなる知性を発揮されて政務に励んでいらした。
文武両道、詩歌や管弦にも秀でてなおかつ驕らない温和なお人柄。このお方の治世であれば我が国はますます栄えることが約束されているも同然だ。
これに加えて誰もが振り向く美丈夫とまで言われるのだから、前世でも今世でも数え切れぬほどの徳を積まれたお方なのだろう。

だというのに後宮には足を運ばれたことが少ない。いずれ劣らぬ百花繚乱の女の園は、蝶の訪れを今か今かと待ち侘びている。
それだけが臣下の気がかりではあったが、共に国を治める重責に耐えられる女性を見つけ、定めるには時間がかかろう。
なに、まだお若いのだから。臣下の目もそう語っていた。

「皇帝陛下の御為、龍を鎮めて後の世まで語り継がれる治世を育むお手伝いをしてみせる。それが僕の音色が成すべきことだ」

そう、春蕾は目を輝かせて語っていた。
姉としての贔屓目ではあるけれど、弟にも類まれな才がある。
それは見事な旋律を王都に響かせるだろうと──思っていた。