それから日を置かずして、今代の鎮めの楽士は龍の顕現を成したと何やら矛盾した評判が都を駆け巡った。
秘されてきた降龍の間を開け放ち、楽士の調べは城に、都に響き渡っては祝福の波となって空へ立ち上る。
そこからはらはらと降り注ぐ花びらは永久の栄華を寿ぐようで、この世の眺めとは思えぬ絶景だった。
そんな稀代の一幕に立ち会った──というか主役のひとりだったのは紛れもなく私、沈暁蕾だったが、袖を通したこともない絹の重さと飾り立てられた豪奢な装飾に潰されまいと全身の筋肉を総動員していたので、楽士様と誉めそやす言葉の数々など耳にするどころの騒ぎではなかった。
「……ああ、ようやく逢えた。あの業突く張りめ、お主を独り占めして音色から遠ざけるとはけしからん」
演奏を終えて力の抜けかけた体が後ろから抱き止められる。
久しぶりに耳にした低音に背筋が痺れた。
「……飛龍」
振り向けば、黄金色のまなざしがとろりと私の輪郭をなぞる。
「ああ。逢いたかったぞ、暁蕾」
「まさか……私、こんなことになるなんて」
「それはこちらの台詞だ。暁を誘う音色が……こんなにも芳しく、愛おしいとはな」
私を抱きしめる腕にそっと手を重ねる。少し傾けたかんばせが近づいてきたその時──ふ、と瞼の奥で気配が波打った。
「暁蕾」
甘い声音が耳をくすぐる。
力強い腕が背中を抱いた。
どちらの龍のものか考えるより先に鼓動が色づいていく。
胸の高鳴りが、私たちの暁を告げていた。
秘されてきた降龍の間を開け放ち、楽士の調べは城に、都に響き渡っては祝福の波となって空へ立ち上る。
そこからはらはらと降り注ぐ花びらは永久の栄華を寿ぐようで、この世の眺めとは思えぬ絶景だった。
そんな稀代の一幕に立ち会った──というか主役のひとりだったのは紛れもなく私、沈暁蕾だったが、袖を通したこともない絹の重さと飾り立てられた豪奢な装飾に潰されまいと全身の筋肉を総動員していたので、楽士様と誉めそやす言葉の数々など耳にするどころの騒ぎではなかった。
「……ああ、ようやく逢えた。あの業突く張りめ、お主を独り占めして音色から遠ざけるとはけしからん」
演奏を終えて力の抜けかけた体が後ろから抱き止められる。
久しぶりに耳にした低音に背筋が痺れた。
「……飛龍」
振り向けば、黄金色のまなざしがとろりと私の輪郭をなぞる。
「ああ。逢いたかったぞ、暁蕾」
「まさか……私、こんなことになるなんて」
「それはこちらの台詞だ。暁を誘う音色が……こんなにも芳しく、愛おしいとはな」
私を抱きしめる腕にそっと手を重ねる。少し傾けたかんばせが近づいてきたその時──ふ、と瞼の奥で気配が波打った。
「暁蕾」
甘い声音が耳をくすぐる。
力強い腕が背中を抱いた。
どちらの龍のものか考えるより先に鼓動が色づいていく。
胸の高鳴りが、私たちの暁を告げていた。