翌日もまたその翌日も皇帝陛下の指南役は続いた。
指南役とは名ばかりで、笛の音で飛龍を呼び覚ましては彼の膝に乗せられて私の昔話をしたり、彼の武勇伝に耳を傾ける。お茶請けに珍しい甘味までついてきて、胃袋からも懐柔するつもりらしい。
遥か昔の内容なのに、まるで目の前で繰り広げられているような語り口は聞いていてわくわくしたし、私の拙い昔話を彼は興味深そうに聞いてくれた。

初めての料理で粥を強飯にしたことを思い出しつつ話せば「お主の料理を食するには相当の覚悟がいるな」と茶化された。
今は上達したと言い返したら、今度手料理をふるまう約束をさせられてしまった。油断も隙もない。
母様の真似をして白粉をはたいて紅をさしたら、父様が見たこともない顔をして絶句したことを話すと、親指で頬骨のあたりをなぞられた。くすぐったくて身をすくめると、宥めるように背中を抱かれる。

「男のなりしか見ておらぬのが口惜しいが、他の男が着飾ったお主を見ることに比べれば許せもしよう」
「もう……口ばかりお上手なんですから」
「ほう? 口ばかり、とは言い得て妙だな。確かにお主の口を吸うのは誰より得意と心得ているが」
「え、やだ、そういう意味じゃな……!」

こうなってしまうと止められない。くちづけの雨に身を震わせながら彼の胸元に縋り付く。
満足そうに細めた彼の瞳の輝きが黄金色とは違う気がしたのだが──その時は確かめることはできなかった。

こんな日々はいつまでも続かない。
否、続いてはいけないのだ。