それを聞いた空人君の拳には力が入っていて、肩が震えていた。
もう限界が近づいた爆弾のようだった。
「だとしたら、その幸せをくれているのは冬野なんだよ!!」
そして、爆発した。
「今までの幸せだなんて感じることはほとんどなかった。
ただ本を読んで、自分の世界に入り浸るだけで満足していて、何が幸せかなんて考えたことすらなかった。
でも冬野と話すようになってから僕は毎日が楽しいと感じるようになった。
次はいつ君からメッセージが来るだろう、次は何の本を持っていこう、この本を読んだら冬野はどう感じるんだろう、気づいたらそんな事ばっかり考えるようになってた。
僕が幸せを感じているのだとしたら、それは君がくれているからだ。
君がそうやって自分を抑え付け続けたら、僕は君に“幸せのかけら”を分けてあげられなくなってしまう。
・・・できるとかできないとか、限界だとかそんなことを聞きたいんじゃないんだよ。
僕は・・・僕は、君の心の話が聞きたい」
自分の目と耳を疑った。
こんなに感情むき出しの空人君を私は一周目でも見たことがなかった。
確かに、仲良くなったからには友達として楽しみたい、と思っていた。
しかし、空人君のありのままの本心を聞いた今私は気付いた。
自分の行動の一つ一つが予想よりもはるかに大きい影響を空人君に与えていたことを。
屋上で私が空人君に送った言葉以外にも、空人君の中にこんなに私が溢れていたなんて。
それに気付いた時には既に遅すぎた。
とうとうここまで至ってしまった。
取り返しのつかない事態になってしまい、本来なら自分を責めるべきなんだと思う。
でも、私は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「ずるい・・・ずるいよ。
なんでそんなに空人君は優しいの?
こんな訳の分からない行動ばかりとって散々振り回しておいて肝心なところで本心を言えない私に・・・なんでそんなに優しいの?」
「僕は・・したいことをしているだけだよ。
しっかり聞いて?
冬野、僕は冬野のことが好きだ。
君の気持ちを聞かせてほしい」
その二文字を聞けた瞬間、私の心は救われた。
そう。
ほんとはお母さんや壱也君から“言葉”を貰った時点で、私の心は決まっていたんだ。
“正解”は既に出ていた。
何も、選択肢は二択じゃない。
“枝”は大きく幾つにも分かれている。
こうやって相容れない“考え”と“感情”があっても、時間は進んでいくんだ。
前に進むしかない。
誰が何と言おうと、それはあくまでその人の意見だ。
私の“正解”は私だけが知っている。
「もう・・空人君には嘘つけないよ。
・・・好き。・・・大好き。
大好きなの!
・・・大好きで仕方ないのっ。
ずっとずっと始まる前から愛おしくてたまらなかったの・・」
シイナさんはなんて思うかな。
こんな私でもまだ見守ってくれるかな。
どうやら、これが私の正解みたい。
「私・・・空人君のこと幸せに出来るか分からないよ?
もしかしたら・・・もしかしたら、すごく不幸にしちゃうかもしれないよ?
もしかしたら、私と付き合わなければよかったって思う日がくるかもしれないよ?
ほんとうにっ・・・本当にそれでもいいの?私、それでも空人君の隣にいていいの?」
「居てくれなきゃ、そもそも僕は不幸なままだ。
一人の不幸より二人の不幸の方がよっぽど幸せだよ。
だから、僕からお願いする。
飽きるまででいいから、これから隣にいてほしい。
ねっ?お願いだ」
ほんとはこうやって言ってくれるって分かっていたのに、あえて聞いてその予想通りの返答にまた安心した。
空人君に縋って、ようやく全身で感じる事ができた彼の温もりに私は涙が止まらなかった。
◆◇◆◇
「はい、これ」
後日の放課後、私は壱也君を屋上へ呼び出した。
「ん、缶コーヒー?くれんの?」
「うん」
「サンキュ」
二人で青空の下、街並みを見下ろす。
「ありがとう」
私は空人君と付き合い始めた報告も兼ねてお礼が言いたかった。
「ありがとうって、何が?」
「分かってるくせに」
「・・・答えは出たみたいだな」
「うん。壱也君の助言のおかげ」
「そっか。ならよかった」
若干の沈黙が生じたあと、壱也君は身震いした。
「しっかしあっという間に寒くなったな」
そう言って、コーヒーの口を開けた。それを見て、私は自分のも開けた。
軽やかな開封音が二つ、雲一つない秋空に消えていった。
「私、正直自分の出した“正解”を馬鹿正直に信じ切ってるわけじゃない。
やっぱりふとした時に自分の本来の目的を思い出すし、それはこの先最後まで付きまとうと思う。
でも、壱也君が言ってくれたように選択肢は二つじゃないし、矛盾があってもこうやって胸を張って前に進む事が出来たんだ。」
「・・へぇ。
まあ、その葛藤も全部ひっくるめて“正解”なんじゃない?」
「まあ、それも言えてるかも・・」
その時冬の到来を知らせるような風が私たちの体を撫で上げた。
「寒いね。
それに、この先どんな展開になるとしても“今は”これでいいと思ってるんだっ」
私は屋上の柵から離れるためにちょっとジャンプして淵から降りた。
「へぇ。それはまたどうして?」
壱也君は私の方を振り返りながら聞いてきた。
「・・だって今私、絶対無敵に幸せだからっ!」
自分がどんな顔をして言ったかは分からないが、その後壱也君はコーヒーを一口飲み、
「あったけぇ~」と言った。
もう限界が近づいた爆弾のようだった。
「だとしたら、その幸せをくれているのは冬野なんだよ!!」
そして、爆発した。
「今までの幸せだなんて感じることはほとんどなかった。
ただ本を読んで、自分の世界に入り浸るだけで満足していて、何が幸せかなんて考えたことすらなかった。
でも冬野と話すようになってから僕は毎日が楽しいと感じるようになった。
次はいつ君からメッセージが来るだろう、次は何の本を持っていこう、この本を読んだら冬野はどう感じるんだろう、気づいたらそんな事ばっかり考えるようになってた。
僕が幸せを感じているのだとしたら、それは君がくれているからだ。
君がそうやって自分を抑え付け続けたら、僕は君に“幸せのかけら”を分けてあげられなくなってしまう。
・・・できるとかできないとか、限界だとかそんなことを聞きたいんじゃないんだよ。
僕は・・・僕は、君の心の話が聞きたい」
自分の目と耳を疑った。
こんなに感情むき出しの空人君を私は一周目でも見たことがなかった。
確かに、仲良くなったからには友達として楽しみたい、と思っていた。
しかし、空人君のありのままの本心を聞いた今私は気付いた。
自分の行動の一つ一つが予想よりもはるかに大きい影響を空人君に与えていたことを。
屋上で私が空人君に送った言葉以外にも、空人君の中にこんなに私が溢れていたなんて。
それに気付いた時には既に遅すぎた。
とうとうここまで至ってしまった。
取り返しのつかない事態になってしまい、本来なら自分を責めるべきなんだと思う。
でも、私は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
「ずるい・・・ずるいよ。
なんでそんなに空人君は優しいの?
こんな訳の分からない行動ばかりとって散々振り回しておいて肝心なところで本心を言えない私に・・・なんでそんなに優しいの?」
「僕は・・したいことをしているだけだよ。
しっかり聞いて?
冬野、僕は冬野のことが好きだ。
君の気持ちを聞かせてほしい」
その二文字を聞けた瞬間、私の心は救われた。
そう。
ほんとはお母さんや壱也君から“言葉”を貰った時点で、私の心は決まっていたんだ。
“正解”は既に出ていた。
何も、選択肢は二択じゃない。
“枝”は大きく幾つにも分かれている。
こうやって相容れない“考え”と“感情”があっても、時間は進んでいくんだ。
前に進むしかない。
誰が何と言おうと、それはあくまでその人の意見だ。
私の“正解”は私だけが知っている。
「もう・・空人君には嘘つけないよ。
・・・好き。・・・大好き。
大好きなの!
・・・大好きで仕方ないのっ。
ずっとずっと始まる前から愛おしくてたまらなかったの・・」
シイナさんはなんて思うかな。
こんな私でもまだ見守ってくれるかな。
どうやら、これが私の正解みたい。
「私・・・空人君のこと幸せに出来るか分からないよ?
もしかしたら・・・もしかしたら、すごく不幸にしちゃうかもしれないよ?
もしかしたら、私と付き合わなければよかったって思う日がくるかもしれないよ?
ほんとうにっ・・・本当にそれでもいいの?私、それでも空人君の隣にいていいの?」
「居てくれなきゃ、そもそも僕は不幸なままだ。
一人の不幸より二人の不幸の方がよっぽど幸せだよ。
だから、僕からお願いする。
飽きるまででいいから、これから隣にいてほしい。
ねっ?お願いだ」
ほんとはこうやって言ってくれるって分かっていたのに、あえて聞いてその予想通りの返答にまた安心した。
空人君に縋って、ようやく全身で感じる事ができた彼の温もりに私は涙が止まらなかった。
◆◇◆◇
「はい、これ」
後日の放課後、私は壱也君を屋上へ呼び出した。
「ん、缶コーヒー?くれんの?」
「うん」
「サンキュ」
二人で青空の下、街並みを見下ろす。
「ありがとう」
私は空人君と付き合い始めた報告も兼ねてお礼が言いたかった。
「ありがとうって、何が?」
「分かってるくせに」
「・・・答えは出たみたいだな」
「うん。壱也君の助言のおかげ」
「そっか。ならよかった」
若干の沈黙が生じたあと、壱也君は身震いした。
「しっかしあっという間に寒くなったな」
そう言って、コーヒーの口を開けた。それを見て、私は自分のも開けた。
軽やかな開封音が二つ、雲一つない秋空に消えていった。
「私、正直自分の出した“正解”を馬鹿正直に信じ切ってるわけじゃない。
やっぱりふとした時に自分の本来の目的を思い出すし、それはこの先最後まで付きまとうと思う。
でも、壱也君が言ってくれたように選択肢は二つじゃないし、矛盾があってもこうやって胸を張って前に進む事が出来たんだ。」
「・・へぇ。
まあ、その葛藤も全部ひっくるめて“正解”なんじゃない?」
「まあ、それも言えてるかも・・」
その時冬の到来を知らせるような風が私たちの体を撫で上げた。
「寒いね。
それに、この先どんな展開になるとしても“今は”これでいいと思ってるんだっ」
私は屋上の柵から離れるためにちょっとジャンプして淵から降りた。
「へぇ。それはまたどうして?」
壱也君は私の方を振り返りながら聞いてきた。
「・・だって今私、絶対無敵に幸せだからっ!」
自分がどんな顔をして言ったかは分からないが、その後壱也君はコーヒーを一口飲み、
「あったけぇ~」と言った。