朝目が覚めると、空人くんからメッセージが来ていた。
『あのさ、今度休みの日に出かけない?二人で』
その文字を見て数秒静止した。
昨日までの私だったら、嬉しくて舞い上がっていたに違いない。
だめだと分かっていても、自分の欲望に勝つことは出来なかったと思う。
しかし、今の私はそれを見て舞い上がることなく、欲望と葛藤することもなかった。
ただひたすら静かな心でその文字を見つめていた。
嬉しくなかったわけではない。
ただ心の中で区切りがついたのだ。
自分で発見した良作を読み終えた後のような清々しさが今の私を包んでいた。
意志を持って、人知れず迎えた私なりの結末を、自分の心にひっそりとしまっておきたかったのだ。
自分の中で満足のいくエンディングを迎えた物語に、続編ができてほしくなかった私はそのメッセージを消去して、ベッドから起き上がった。
それから数日が経過したけど、結局空人君とはあの日以来話していなかった。
きっと空人君からしたら訳が分からないだろうな。
たまに視線を感じる時もあったが、その度心の中で「ごめんね」と呟き、気付いていないふりをした。
でも、あの日以来“空人君以外”のことでは、生活にハリが出ているようだった。
友達やお母さんからは「何かいいことあった?」と聞かれるし、授業にも前より集中できるようになった。
これで良かったんだ。
そう信じて、私の世界に空人君以外のものが増えてきた時、ふと彼の名前が聞き慣れない声に呼ばれた。
「葉山くーん。いっちー。
先生が課題提出しろだってさぁー」
昼休み、クラスの女子が伝言ゲームを始めた。
「あー、そんなんあったっけかー」
壱也君が過剰にとぼけた顔をしながら言った。
空人君は反応せず本を読んでいる。
「うわっ。その変顔やめて。
気持ち悪いから」
「おい。ド直球やめろ」
空人君を挟んで、二人はそんなことを言い合っている。
それだけで終わるかと思ったら、その女の子が急に変化球を投げた。
「・・ねえ、葉山君ってさ、いつも本読んでるよね」
壱也君と女の子のやり取りは日常茶飯事だったが、これは例のない展開だった。
「・・・おーい、葉山くーん?」
でも、空人君は本に集中しすぎて気付いていないようだった。
その様子を見て、壱也君はニヤついている。
その子は空人君の顔を覗き込むようにして、再び声を掛けた。
「あのー、葉山空人くーん?」
「うわぁ!は、はいっ!!!」
その瞬間、空人君は情けない声を上げ飛び上がった。
「うわっ!!
なになに、ただ呼びかけただけだけど」
その子も反動で驚き、クラスの注目が集まった。
壱也君は笑いを堪えるのに必死になっている。
一瞬クラスが静寂に包まれた。
「・・・あははははっ!
葉山君ってそんなキャラなの?
面白いね。
しかも、本読んでるから真面目君かと思ったら、ちゃっかり課題やってないし」
その子は空人君に興味を持ったようだった。
「あー、こいつ元からさぼり常習犯だよ」
壱也君が横槍をいれた。
「お、おい!お前が言うなよ」
クラス全体が笑いに包まれた。
空人君がクラスに馴染んでいる。
一周目には無かった良い兆候だ。
やっぱり私の言葉で変わり始めてるのかな。
だとしたら、良かった。
ほんとに良かった。
みんなの注目を浴びて恥ずかしそうにする空人君をクラスの反対側から眺めながら、私はそうやって唱えていた。
『あのさ、今度休みの日に出かけない?二人で』
その文字を見て数秒静止した。
昨日までの私だったら、嬉しくて舞い上がっていたに違いない。
だめだと分かっていても、自分の欲望に勝つことは出来なかったと思う。
しかし、今の私はそれを見て舞い上がることなく、欲望と葛藤することもなかった。
ただひたすら静かな心でその文字を見つめていた。
嬉しくなかったわけではない。
ただ心の中で区切りがついたのだ。
自分で発見した良作を読み終えた後のような清々しさが今の私を包んでいた。
意志を持って、人知れず迎えた私なりの結末を、自分の心にひっそりとしまっておきたかったのだ。
自分の中で満足のいくエンディングを迎えた物語に、続編ができてほしくなかった私はそのメッセージを消去して、ベッドから起き上がった。
それから数日が経過したけど、結局空人君とはあの日以来話していなかった。
きっと空人君からしたら訳が分からないだろうな。
たまに視線を感じる時もあったが、その度心の中で「ごめんね」と呟き、気付いていないふりをした。
でも、あの日以来“空人君以外”のことでは、生活にハリが出ているようだった。
友達やお母さんからは「何かいいことあった?」と聞かれるし、授業にも前より集中できるようになった。
これで良かったんだ。
そう信じて、私の世界に空人君以外のものが増えてきた時、ふと彼の名前が聞き慣れない声に呼ばれた。
「葉山くーん。いっちー。
先生が課題提出しろだってさぁー」
昼休み、クラスの女子が伝言ゲームを始めた。
「あー、そんなんあったっけかー」
壱也君が過剰にとぼけた顔をしながら言った。
空人君は反応せず本を読んでいる。
「うわっ。その変顔やめて。
気持ち悪いから」
「おい。ド直球やめろ」
空人君を挟んで、二人はそんなことを言い合っている。
それだけで終わるかと思ったら、その女の子が急に変化球を投げた。
「・・ねえ、葉山君ってさ、いつも本読んでるよね」
壱也君と女の子のやり取りは日常茶飯事だったが、これは例のない展開だった。
「・・・おーい、葉山くーん?」
でも、空人君は本に集中しすぎて気付いていないようだった。
その様子を見て、壱也君はニヤついている。
その子は空人君の顔を覗き込むようにして、再び声を掛けた。
「あのー、葉山空人くーん?」
「うわぁ!は、はいっ!!!」
その瞬間、空人君は情けない声を上げ飛び上がった。
「うわっ!!
なになに、ただ呼びかけただけだけど」
その子も反動で驚き、クラスの注目が集まった。
壱也君は笑いを堪えるのに必死になっている。
一瞬クラスが静寂に包まれた。
「・・・あははははっ!
葉山君ってそんなキャラなの?
面白いね。
しかも、本読んでるから真面目君かと思ったら、ちゃっかり課題やってないし」
その子は空人君に興味を持ったようだった。
「あー、こいつ元からさぼり常習犯だよ」
壱也君が横槍をいれた。
「お、おい!お前が言うなよ」
クラス全体が笑いに包まれた。
空人君がクラスに馴染んでいる。
一周目には無かった良い兆候だ。
やっぱり私の言葉で変わり始めてるのかな。
だとしたら、良かった。
ほんとに良かった。
みんなの注目を浴びて恥ずかしそうにする空人君をクラスの反対側から眺めながら、私はそうやって唱えていた。