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「助けてくだざいっ!!!!!」
――――――ゴゴゴゴガッシャーーーン
 今まで聞いたことがない呼吸音のようなものが混ざった叫び声と同時に私は前へ投げ出された。
「おいっ!逃げ遅れた人が居るぞ!」
 その声と同時に救急隊が二人駆け寄ってきた。
 状況が理解できなかった。
 あれ?
 今私、空人君に抱えられてたのに。
 そう思い振り返ろうとした。
「見るなっ!」
 隊員さんの一人が叫び、私の後ろに立って振り向く邪魔をした。
 そして、さっきの叫び声の主が分かったのは、体が大きい隊員さんの足の間から“それ”が見えた時だった。
「いやぁぁぁーーーーっ!!!!」
 状況がやっと理解できた私は発狂した。
 そこには、瓦礫の下敷きになっている空人君がいた。
 ただでさえあの瓦礫の量に押し潰されればひとたまりもないのに、無情にもその瓦礫の山は燃え盛っていた。
 そして、私から視認できたのは空人君の顔だけだった。
「だめだっ!抑えろ!!」
 隊員さんが二人掛かりで、空人君の元へ近寄ろうとする私を抑え付けた。
「いやぁぁ!!話して!!
けほっけほっ・・っ・・いやぁ・・!!」
 遠慮なしに叫んだ私は大量の煙を吸い込んでしまった。
「それ以上叫ばないで下さい!!」
「嫌っ!!だって、けほっけほっ・・
・・空人君が!まだそこに居るじゃん!!!」
 私は目を瞑っている空人君を見ながら必死に抵抗を続けていた。
「だめだっ!
彼は・・彼はもうっ・・・」
 隊員さんも苦痛の表情を浮かべていた。
 その先は聞きたくなかった。
 寝ているような彼の顔をただひたすら見ながら抵抗を続ける。
 起きて。
 お願いだから。
 そう願った時、黒煙に目と肺をやられてしまった私の霞む視界が捉えたのは、ゆっくりと目を開ける空人君だった。
「ほ、ほらっ!!!空人君起きてるからっ!!早く助け―――」
 彼は微笑んでいた。
 助けを求めることなく、苦しむこともなく、ただ私を見て微笑んだ。
「ねぇ!!なんで笑うのっ!?
嬉しくないっ!!
お願いだから、彼を助けてぇぇぇぇぇーーーー!!!
空人君っ!!!いやぁーーー!!!」
 抵抗虚しく、隊員さんに担がれた私は意識が薄れていく中、離れていく彼の顔から徐々に灯が消えていくのを見ることしかできなかった。

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 このあと私は気付いたら“あの空間”にいた。
 多分一酸化炭素中毒とか、そんな感じの死因だと思う。
 屋上という二人きりの世界で空人君が私に向けた笑顔はその時と全く同じ表情だった。
 今なら理解できる。
 もしあの場で私が逆の立場だったとしても同じ顔をしただろう。
 それは、純粋に愛する人を思う気持ちから来る笑顔だった。
 この時、私は空人君に対する認識の間違いにようやく気付いた。
 彼は彼自身の意志で私を好きになっていたらしい。
 一周目では、初めて話しかけた時も、告白した時も、デートに誘うときも、いつもいつも私からだったから、完全に誤解していた。
 彼は“きっかけ”が無ければ動かないと。
 思い返せば、二周目で初めてちゃんと話した時も、次の“きっかけ”を作ったのは、彼だった。
 手掛かりは足元にあったのだ。
 あの時に気付くべきだったと、私は後悔した。
 一番恐れていたことが起きてしまった。
 「関わらない」から「話さない」。 
 「話さない」から「話しかけない」。
 「話しかけない」から「友達以上にならない」。
 そうやって、自分の中のデッドラインをズルズルと後退させてしまったせいで、とうとうここまで来てしまったのだ。
 急に“死の影”が空人君に近づいた気がした。
 空人君も、何も知らないなりに私の表情から“何か良くないもの”を感じ取ったらしい。
 彼の顔から微笑みは消えていた。
 とりあえず、何か言わないと。
 そう思っても何を話していたか思い出せない。
 加えて、空人君は私からの言葉を待っているようだった。
「えっと・・・お菓子食べよっか。」
 これが、何事もなかったように取り繕える最大限だった。