◆◇◆◇
十月九日の放課後、みんながお互いに予定を合わせて教室を出ていく中、私と空人君はメッセージで会話して、目くばせをしていた。
『私ちょっとやりたいことがあるから、先に行ってて』
空人君の方を見て頷く。
『うん。わかった』
空人は頷き返して教室を出ていった。
やりたい事というのは、コンビニでお菓子を買うことだった。
せっかく時間がいつもよりたくさんあるのに、いつもと同じじゃつまらないよね。
だけど、コンビニは同じ学生で溢れかえっていて、買い物が終わりコンビニを後にする頃には、空人君と別れてから既に二十分が経過していた。
空人君、きっとトイレの前じゃなくて“あそこ”にいるだろうな。
二十分もやることが無いのに、あの空人君が素直にただ立って待ってるわけがない。
そんなことを考えながら先生や友達の目を掻い潜り、特別棟四階を目指した。
そして、予想通り三階から四階に上る途中、階段のすぐ横にあるトイレの前から人の気配がしなかった。
ほら。やっぱり。
そして、私は真っ先に手前から三つ目の部屋の方向を見た。
こちらも予想通りに、そこの扉だけ開いていた。
その部屋の方向に歩みを進めるたび、懐かしい香りに包まれてゆく。
そこは、空人君のさぼり場だった。
壱也君にも屋上という秘密の場所があるように、空人君にも彼だけの秘密の場所があった。
男の子ってみんなそういうものなのかな、と疑問に感じたを思い出す。
私の記憶が正しければ、その場所は壱也君でさえ知らない場所だった。
一周目で
「仲良いんだから一緒にさぼればいいのに」と言ったら、
「んー、そういうんじゃないんだよ」と返された。
ここでも男の子ってみんなそういうものなのかな、と感じた記憶がある。
物置と化したその部屋の奥の奥。
鍵盤の欠けたオルガンの裏側を覗き込むと、やっぱりそこに居た。
寝転がり目を閉じている。
改めて顔をしっかり見ると、整っていると思う。
まつげが長く、鼻の筋も通っている。
なんでみんなこの魅力に気付かないんだろう。
後は聴いてる曲のセンスさえ良ければ完璧なんだけどなぁ~。
空人君、イヤホンから音漏れしてるよ。
そんな昔の曲、今は誰も聞かないと思うよ?
そう心の中で呟いて微笑んでみる。
その瞬間、眩しそうに目を開けた空人君と目が合った。
「あ、起きちゃった?
遅くなってごめんね?
これ買おうとしてコンビニ行ったら遅れちゃった」
「別にそこまで待ってないよ。
それに、ここは前から僕が好きな場所だったから、久しぶりにここに来れてむしろ良かったよ」
「へぇ~、そうなんだ。
アキト君のことだから、よくさぼりに来てたとか?」
知ってることをあえて当てるように聞いてみた。
「まあ、そんなとこ。
それよりごめん。
気が利かなくて。
それいくらだった?」
顎で袋を指しながら空人君が言った。そうやって何気なく気を使われると、付き合ってた頃を思い出してしまう。
「えっ・・・あ、これ!?いや、大したことないから気にしないで!」
「いや、でも――、」
「ほんとに!ダイジョブだからっ!」
お願い。
苦しくなるから気を使わないで。
「ぶっ・・くっ、あははっ、別に悪いことをしたわけでもないのに何で隠すんだよっ」
私の意に反して、空人君に全く異なる受け取られ方をされてしまった。
「あ、確かに、言われてみれば変かも。で、でもこれはある意味反射的なものでっ・・・!もーっ、そんなに笑わなくてもいいじゃんかぁー」
私余裕ないなぁ。
いけないのに続けていたいと感じてしまう、そんな甘い空気に包まれたまま、私たちは屋上へ向かった。
十月九日の放課後、みんながお互いに予定を合わせて教室を出ていく中、私と空人君はメッセージで会話して、目くばせをしていた。
『私ちょっとやりたいことがあるから、先に行ってて』
空人君の方を見て頷く。
『うん。わかった』
空人は頷き返して教室を出ていった。
やりたい事というのは、コンビニでお菓子を買うことだった。
せっかく時間がいつもよりたくさんあるのに、いつもと同じじゃつまらないよね。
だけど、コンビニは同じ学生で溢れかえっていて、買い物が終わりコンビニを後にする頃には、空人君と別れてから既に二十分が経過していた。
空人君、きっとトイレの前じゃなくて“あそこ”にいるだろうな。
二十分もやることが無いのに、あの空人君が素直にただ立って待ってるわけがない。
そんなことを考えながら先生や友達の目を掻い潜り、特別棟四階を目指した。
そして、予想通り三階から四階に上る途中、階段のすぐ横にあるトイレの前から人の気配がしなかった。
ほら。やっぱり。
そして、私は真っ先に手前から三つ目の部屋の方向を見た。
こちらも予想通りに、そこの扉だけ開いていた。
その部屋の方向に歩みを進めるたび、懐かしい香りに包まれてゆく。
そこは、空人君のさぼり場だった。
壱也君にも屋上という秘密の場所があるように、空人君にも彼だけの秘密の場所があった。
男の子ってみんなそういうものなのかな、と疑問に感じたを思い出す。
私の記憶が正しければ、その場所は壱也君でさえ知らない場所だった。
一周目で
「仲良いんだから一緒にさぼればいいのに」と言ったら、
「んー、そういうんじゃないんだよ」と返された。
ここでも男の子ってみんなそういうものなのかな、と感じた記憶がある。
物置と化したその部屋の奥の奥。
鍵盤の欠けたオルガンの裏側を覗き込むと、やっぱりそこに居た。
寝転がり目を閉じている。
改めて顔をしっかり見ると、整っていると思う。
まつげが長く、鼻の筋も通っている。
なんでみんなこの魅力に気付かないんだろう。
後は聴いてる曲のセンスさえ良ければ完璧なんだけどなぁ~。
空人君、イヤホンから音漏れしてるよ。
そんな昔の曲、今は誰も聞かないと思うよ?
そう心の中で呟いて微笑んでみる。
その瞬間、眩しそうに目を開けた空人君と目が合った。
「あ、起きちゃった?
遅くなってごめんね?
これ買おうとしてコンビニ行ったら遅れちゃった」
「別にそこまで待ってないよ。
それに、ここは前から僕が好きな場所だったから、久しぶりにここに来れてむしろ良かったよ」
「へぇ~、そうなんだ。
アキト君のことだから、よくさぼりに来てたとか?」
知ってることをあえて当てるように聞いてみた。
「まあ、そんなとこ。
それよりごめん。
気が利かなくて。
それいくらだった?」
顎で袋を指しながら空人君が言った。そうやって何気なく気を使われると、付き合ってた頃を思い出してしまう。
「えっ・・・あ、これ!?いや、大したことないから気にしないで!」
「いや、でも――、」
「ほんとに!ダイジョブだからっ!」
お願い。
苦しくなるから気を使わないで。
「ぶっ・・くっ、あははっ、別に悪いことをしたわけでもないのに何で隠すんだよっ」
私の意に反して、空人君に全く異なる受け取られ方をされてしまった。
「あ、確かに、言われてみれば変かも。で、でもこれはある意味反射的なものでっ・・・!もーっ、そんなに笑わなくてもいいじゃんかぁー」
私余裕ないなぁ。
いけないのに続けていたいと感じてしまう、そんな甘い空気に包まれたまま、私たちは屋上へ向かった。