「はい着いた。
俺らの教室は三階の一番角な」
 扉の前で先生が再び口を開いた。
 もう、うるさいな。
 そんなことわかってるよ。
 焦りだけが募って、心の中で八つ当たりをしてしまう。
「・・・はい、分かりました」
 感情が表に出ないように必死に制御する。
「まあ、緊張するのも当然か。
・・・入ればわかるよ。
その不安が馬鹿みたいに思えてくるだろうよ」
 先生は私のことを心配しているようだった。
 確か“一周目”ではこんなこと言われなかったな。
 そんなことを考えていると、先生は扉を開け、私を中に招き入れた。
 なんかこんな中途半端なままみんなと再会するの嫌だな。
 あぁ、自己紹介なんて言うか考えてないや。
 無難にありきたりなこと言えばいいかな。
 そんなことを考えながら、私は教室に入っていった。
 教室は廊下よりも日当たりがよく、一気に視界が広がった気がした。
 まるで、曇り空が一気に晴れたように。
 その瞬間、不安と恐怖で様々なことを見失っていたはずの私の視線は自然と教室の窓際の一番後ろに吸い寄せられてた。
 別に意識して見たわけじゃない。ほんとに無意識だったのだ。
 でもそれは、体に染みついた癖のようなもので、教室に入ると必ずそうするように体が覚えていた。
 厳密に言えば、重要なのは“窓際の一番後ろ”という指定された場所ではなく、“彼がいる”場所だった。
 頭が忘れかけていても、体はその重要なことをしっかりと覚えていた。
 そうだった。
 そういえば“一周目”で私は教室に来るたび“彼の姿”を目で追っていた。
 そして、見つけるたびに毎回毎回幸せを感じていた。
 一緒の空間にいれるだけで幸せだったのだ。
 こんな大事なことを忘れかけていたなんて。
 私は二度と訪れないであろうこのチャンスで彼の命を守ろうと決めたんだ。
 それが、“二周目”における私の使命だ。
 はっきりと思い出した。
 あぁ、もう一度“その横顔”を見れる日が来るなんて。
 何事にも興味を示さない、退屈そうな顔。
 色付いた世界に一点だけ紛れ込んだ白黒の“無”。
 窓の外を眺める、光を失ったその眼差しに“一周目”の私は一瞬で引き込まれたんだ。
 あぁ、思い出すだけで愛おしい。
 私は“一周目”でも経験した衝撃的な出会いを、人知れずもう一度繰り返した。
 そう。
 その時私は葉山空人と、出会いと呼べるような再会を果たした。