「私は、情報はすべての人に平等に与えられるべきだと考えております。
・・・ですが、本人が望まないのなら、言わないことも一つの選択だと思います」
 シイナさんは、私の表情を見て真実を告げるのをやめようとしているようだった。
 確かに、もし“それ”が事実だとしたらあまりにも残酷すぎる。
 いったい私が何をしたって言うんだろう。
 ほんとうに神様は意地悪だなぁ。
「・・・シイナさんはほんとに優しいですね。
でも、もうここまできちゃったんだし。教えてください」
「・・・でもやはりこの真実がこれから“やり直し”をするあなたにとって良い情報になるとは思えな――」
「言ってください」
 私がシイナさんの言葉を遮るように言うと、シイナさんは観念したかのようにため息をついた。
「・・・あなたには運命があります。
それは・・・二〇一八年十二月二十五日に事故に遭うことです」
 やっぱり。
 嫌な予感はほんとに全部的中する。
「・・・それ、空人君は知ってるんですか?」
「いいえ、“運命”は当事者にしか伝えてはいけないのが決まりです」
 分かっていた。
 分かってはいたけど、実際に言葉にされると厳しいものがあった。
「なるほど・・・。
・・ちょっと・・きっついなぁ・・・」
 強がろうとしたけど、最後まで抑えられなかった。
 そのあと私は心の整理がつくまで三十分くらいただひたすら泣いてたのに、その間シイナさんは何も言わず、ただそこに居てくれた。
 ほんとに優しい人だった。
 そして私が落ち着いた頃にシイナさんは、また口を開いた。
「冬野さんなら気付いていると思いますが、あなたの運命は“事故に遭うこと”です。
“あなたが死ぬこと”ではありません。
ですが、下手を打てば今回のように平気で死んでしまうくらい危ない運命であることは確かです。
それに、誰かを巻き込めば今回のようにその人も犠牲になってしまうかもしれない。
だから、あなたにはどうしてもこのことを伝えておきたかったのです。」
「・・・私と空人君が付き合ったまま、二人とも死なないでこの日を乗り越える可能性はあるんですか?」
 私は最後にダメ元で聞いてみた。
 なぜなら、覚悟を決める必要があったから。
「・・・さっきの“あなたたちの未来の話”と関係してきますが、もしここで明言してしまえばその可能性は存在したとしても消滅してしまうのです。
だから、申し上げることは出来ません。可能性を無理やり操作してはいけない。そういう決まりなのです。
申し訳ございません」
 とても苦しそうな顔をしてシイナさんは言った。
「じゃあ“運命”について言えるのは、それについてはどの可能性でも存在するために言っても消滅しないからってことですか?」
 私が積めるように聞くと、シイナさんはさらに苦しそうな顔をして
「・・・はい。
そういうことになります」
と力ない声で言った。
「・・・ふふっ。あはははっ!
意地悪してごめんなさい。
分かってはいたけど、苦しそうなシイナさんを見るのがなんか面白くてつい。
・・・ふぅ。スッキリした!
・・・覚悟は決まりました。
かなり辛い道のりにはなるだろうけど、私やれることはやってみます!
シイナさんの言った通り、私の記憶を残してください」
 私が覚悟を決めていつもの調子に戻ると、シイナさんは微笑んで、
「あなたは本当に強いお方です。
結果辛い役回りになってしまって申し訳ないと思いますが、あなたならあなたたちだけの正解を導き出せると信じていますよ。
・・・正解は決して他人が決めるもではありません。
いいですか?」と言った。
「はい。分かってます。
シイナさん、優しすぎですよ。
優しすぎて、このお仕事向いてないんじゃないですかぁ?」
 私が少しからかうとシイナさんは苦笑いして、
「全くです。
お客様から元気をもらうとは思いませんでした」
と名残惜しそうに言った。
 いよいよ“その時”が来たらしい。
 私の体が徐々に光り始めた。ほんとに最悪な役回りだと思う。
 でも、今回のように記憶を無くした状態で、無責任に空人君を巻き込んでしまうのだけは嫌だった。
 大丈夫。
 私ならやれる。
 私にマイナス思考は合わないから、いつもみたいにプラスにプラスにと、良い方向に考えながら頑張ってみよう。
 そう思った。
「シイナさん、本当の本当にお世話になりました。
私の“選択”、どうか見守っててください」
 光が徐々に強くなってきた。
「もちろんです。
どんな結果でも私はしっかり見届けます。
それでは・・・お気をつけていってらっしゃいませ」
 ここでの最後の記憶はそう言って優しく微笑んだシイナさんの顔だった。