◆◇◆◇
結論から言うと、待つ合わせの時間になっても未羅が来ることはなかった。
もちろん返信もだ。
最初の三十分は遅延の影響だろうと思っていたのだが、そこから十分、二十分と経つに連れて、僕が更新されない彼女からのメッセージを確認する回数は徐々に増えていった。
気付けば、快晴だった空は灰色に染まっていた。
何かがおかしい。
未羅は今まで約束を破ることは絶対になかった。
それに、待ち合わせ時間に間に合わない時は必ず十五分前にはメッセージで知らせてくれるような、まめな性格をしている。
本当は今すぐにでもカフェを飛び出し、何かしらのアクションを起こしたかったが、未羅がどういう性格なのかを知っていたからこそ、三秒後には入り口から、
「空人君っ!ごめんね!電車がなかなか動かなくってさぁ~。」
と悪びれもせず入ってくるのではないかという期待を捨てきれず、その気持ちだけが僕をその場に留まらせていた。
何もできないまま既に一時間が経過し、冬至を過ぎたばかりの空は、雲に覆われていることも相まって、すっかりと暗くなっていた。
どうする?どうすべきなんだろう。
きっとここまで向かう途中で何かあったに違いない。
今すぐカフェを飛び出してもいいのだが、もしただ遅れているだけなら、すれ違いになるのだけは勘弁だ。
しかしもうそろそろ我慢の限界だった。
携帯で事故の情報を調べながらギリギリの境界線で葛藤を繰り広げていた。
それらしい情報は出てこない。
そのことに少し安堵したその時、
「ママ!見て!また雪が降ってきたよ!」
と隣の席の小さな女の子が叫んだ。
その声につられて外を見ると、確かに降ってきていた。
夕方まではあんなに晴れていたのに。
女の子はこの気持ちをそっくりそのまま代弁してくれた。
「お昼はお天道様出てたのにーっ。」
それを聞いたその子の母親は
「不思議ね。」
と微笑みながら折り畳み傘を取り出した。
こんな時だが、実に和やかな光景だ。
すると、女の子は母親が傘を準備していたことに相当驚いたらしく母親のことを“魔女”と呼んで目を輝かせてた。
確かに、傘を準備していたのは少し不思議だ。
今日の天気予報は夜まで晴れのままだった。
それだけは家を出る前に確認済みだ。
きっと常に折り畳み傘を持ち歩くのが、この人の習慣なのだろう。
そうでなければ、この人は子どもの言う通り予知能力を備えた魔女だ。
「それはね、予兆があったからよ」
母親が言った。
「よちょう?」
子どもがオウム返しをすると、こう説明した。
「予兆はねぇ、“ヒント”の事よ。
雪が降るってヒントがあったの。
お空に強い風がたくさん吹いてると、その風が雲さんを沢山運んでくるんだよ。
体全身で感じたことは、目に見える情報よりもずっと確かなの。」
子どもは少し難しそうに首をひねっていた。
「ふふっ・・カナちゃんにはまだ少し早かったわね。
それが分かるようになれば、カナちゃんも魔女になれるわよ。」
その時、彼女の言葉が僕の中の何かにギリギリ引っ掛かった。
・・ん?なにかが・・・何だろう、この違和感は。
僕はこの違和感の原因を探ってみることにした。
まるで暗闇の中を手探りで進んでいるようだった。
天気の話は重要じゃない。
彼女は今確かもっと重要なことを言った。
彼女は今、『体全身で感じたことは、目に見える情報よりずっと確かだ。』と言った。
引っ掛かったのはここで間違いなさそうだ。
じゃあなんで引っ掛かったのだろう。
僕が天気予報を鵜吞みにしていたから?
・・・いや、違う。
もっと違う何かにおいて今の言葉は間違いなく核心をついていた。
その言葉を聞いた瞬間、まるで暗闇の中で火花が散ったような感じで何かが視えた気がした。
結論から言うと、待つ合わせの時間になっても未羅が来ることはなかった。
もちろん返信もだ。
最初の三十分は遅延の影響だろうと思っていたのだが、そこから十分、二十分と経つに連れて、僕が更新されない彼女からのメッセージを確認する回数は徐々に増えていった。
気付けば、快晴だった空は灰色に染まっていた。
何かがおかしい。
未羅は今まで約束を破ることは絶対になかった。
それに、待ち合わせ時間に間に合わない時は必ず十五分前にはメッセージで知らせてくれるような、まめな性格をしている。
本当は今すぐにでもカフェを飛び出し、何かしらのアクションを起こしたかったが、未羅がどういう性格なのかを知っていたからこそ、三秒後には入り口から、
「空人君っ!ごめんね!電車がなかなか動かなくってさぁ~。」
と悪びれもせず入ってくるのではないかという期待を捨てきれず、その気持ちだけが僕をその場に留まらせていた。
何もできないまま既に一時間が経過し、冬至を過ぎたばかりの空は、雲に覆われていることも相まって、すっかりと暗くなっていた。
どうする?どうすべきなんだろう。
きっとここまで向かう途中で何かあったに違いない。
今すぐカフェを飛び出してもいいのだが、もしただ遅れているだけなら、すれ違いになるのだけは勘弁だ。
しかしもうそろそろ我慢の限界だった。
携帯で事故の情報を調べながらギリギリの境界線で葛藤を繰り広げていた。
それらしい情報は出てこない。
そのことに少し安堵したその時、
「ママ!見て!また雪が降ってきたよ!」
と隣の席の小さな女の子が叫んだ。
その声につられて外を見ると、確かに降ってきていた。
夕方まではあんなに晴れていたのに。
女の子はこの気持ちをそっくりそのまま代弁してくれた。
「お昼はお天道様出てたのにーっ。」
それを聞いたその子の母親は
「不思議ね。」
と微笑みながら折り畳み傘を取り出した。
こんな時だが、実に和やかな光景だ。
すると、女の子は母親が傘を準備していたことに相当驚いたらしく母親のことを“魔女”と呼んで目を輝かせてた。
確かに、傘を準備していたのは少し不思議だ。
今日の天気予報は夜まで晴れのままだった。
それだけは家を出る前に確認済みだ。
きっと常に折り畳み傘を持ち歩くのが、この人の習慣なのだろう。
そうでなければ、この人は子どもの言う通り予知能力を備えた魔女だ。
「それはね、予兆があったからよ」
母親が言った。
「よちょう?」
子どもがオウム返しをすると、こう説明した。
「予兆はねぇ、“ヒント”の事よ。
雪が降るってヒントがあったの。
お空に強い風がたくさん吹いてると、その風が雲さんを沢山運んでくるんだよ。
体全身で感じたことは、目に見える情報よりもずっと確かなの。」
子どもは少し難しそうに首をひねっていた。
「ふふっ・・カナちゃんにはまだ少し早かったわね。
それが分かるようになれば、カナちゃんも魔女になれるわよ。」
その時、彼女の言葉が僕の中の何かにギリギリ引っ掛かった。
・・ん?なにかが・・・何だろう、この違和感は。
僕はこの違和感の原因を探ってみることにした。
まるで暗闇の中を手探りで進んでいるようだった。
天気の話は重要じゃない。
彼女は今確かもっと重要なことを言った。
彼女は今、『体全身で感じたことは、目に見える情報よりずっと確かだ。』と言った。
引っ掛かったのはここで間違いなさそうだ。
じゃあなんで引っ掛かったのだろう。
僕が天気予報を鵜吞みにしていたから?
・・・いや、違う。
もっと違う何かにおいて今の言葉は間違いなく核心をついていた。
その言葉を聞いた瞬間、まるで暗闇の中で火花が散ったような感じで何かが視えた気がした。