「ここから電車で一時間くらいで行けるみたいなんだ。
本物のクリスマスツリーなんて滅多に見られないと思うし、どうかな?」
「・・うん。行きたい。」
 少し間があった気がしたが、嬉しそうに返事をしてくれた。
「よかった。じゃあ楽しみにしてるよ」
「うんっ!私も楽しみにしてる」
 そう言って無邪気に笑う顔はとても可愛かった。
 まいったな。
 一年も経つのに、笑顔の一つですら慣れそうにない。
 どうやら、僕は相当重症らしい。
「・・えーっと、そろそろ俺も帰るね」
 名残惜しい気持ちを抑え、自分の帰路に着こうとすると、今度は未羅が僕を引き留めた。
「ちょっと待って!」
「ん?」
「・・空人君ってさ、運命って信じる?」
 意外な質問に少し思案した。
 どういうことだろう。
 このタイミングで聞いてくるということは、彼女なりに重要な意味が込められているのだろう。
 できれば、未羅の望む回答をしてやりたかったが、この短時間では当然だが質問の意図は全く分からなかったので、仕方なく素直に自分の意見を答えることにした。
「・・まあ、正直手放しには信じられないよね」
「じゃあ、あるとしたらそれを受け入れる?」
 未羅は続けざまに食いついてきた。
「うーん・・そもそも運命って変えられないものなんだよね?
何しても変わらないんだったら、素直に受け入れるかな。
それが、自分に都合がいいことだったらなおさらだと思うし。
悪いことだったら・・まあ仕方ないけど、せめてその運命の日が来るまでは楽しく過ごすかな。
“最後の晩餐”みたいに」
 僕は笑いながら答えた。
「・・そっか。空人君は大人だね」
 未羅は優しく微笑んだ。
「だとしたら、そうさせてくれたのは未羅だよ。
未羅と出会う前の僕なら、どうせ悪いことが起きるなら何をしても意味がないからって、楽しむこともしなかったと思う。
でも、未羅と付き合い始めてからは何か嫌なことがあっても、未羅に話を聞いてもらおうって思うようになったし、明日もまた会えるからこんなこと全然辛くもなんともないって思えるようになった」と少し照れながら言うと、
「はぁ~、私も罪深い女だなぁー。
一人の男の子をここまでかっこよくしちゃうんだもんなぁー。
まいったなぁー」
と未羅はおどけて見せた。
 それに対して、
「はいはい。
あなたの“せい”でここまでかっこよくなりましたよー」
と冗談交じりで返すと、
「あははっ、わたしの“せい”か。・・・これまた返しのスキルまで上達しちゃって」
とまいったように言った。
「おかげさまでな」
「うん!・・わかった!
聞きたいことはそれだけ。
スッキリした!ありがとね!」
「そっか。ならよかった。
じゃあ、クリスマス楽しみにしてるよ」
「うん・・私も」
 未羅は最後にまた優しく微笑んだ。