「ふふっ・・なにそれ。
ずいぶん過保護だね」
あっけにとられた表情で未羅は言った。
「うん。
自分でも歪んでると思うし、傲慢だとも思う。
人間生きてれば絶対に痛みを感じることはあるのにさ。
でも、そう思っちゃうんだ。
せめて僕といる時は安らいでいてほしいって。
だから、僕は君に幸せをあげる存在じゃなくて、痛みを感じさせない存在になりたいんだ」
「・・ほんとに傲慢だね」
そう言う未羅の顔はとても穏やかだった。
「未羅は僕といる時、その悩み事を忘れられてる?」
「確かに気づいたら忘れてるかも」
「じゃあ、最近また暗い顔をしていたのは僕といなかったからだ」
「ふふっ・・ほんと強引な理論だね」
「けど、案外間違ってないかもよ?」
「確かに」
「忘れられるなら、打ち明けなくてもいいから、またこうやってそばに居させてくれないか。
僕が未羅の痛みを和らげるから」
僕がそう言ってまた進み始めると、未羅も同じように歩き始めた。
二人の足音は少しだけ近くなっていた。
いつもより少し遠回りをして僕らは未羅の家の前まで向かった。
あいにく最近オープンしたというカフェは臨時休業していたが、小さな発見を僕らは楽しんだ。
異世界に繋がっていそうなひっそりとした小道。
子どもが集まる駄菓子屋。
豪邸の庭からするりと脱走するように出てきた人懐っこい猫。
それらを目にしたときの未羅の表情は心なしかワクワクしているようだった。
そんなこんなで結局三十分程度で帰れる道のりをわざわざ一時間かけて歩き、マンションの前に着くころにはすっかり日も落ちていた。
長期間距離を置いていたことが原因で、沈黙が怖いと感じてしまった僕は、マンションの前に着いた瞬間に
「さあ、着いちゃったな。
今日は楽しかったよ」
と自分から切り出した。
すると、未羅も同じことを考えていたかのように
「私も。
あっ、そういえば今日記念日だったね。えへへ・・すっかり忘れてた」
と即座に反応した。
「おい、忘れるなよ。
さっき言ったばっかじゃん」
「あははー、ごめんごめん。
・・はぁ、一年、あっという間だったね」
空を見上げてそう言った未羅の吐息が空に散っていった。
「確かに。
未羅と出会ってからは時の流れが速すぎるくらいだよ」
「それでも、思い返すと色んなことあったよね。不思議」
あっという間だけど色々なことがあった。
そんなありきたりな感想しか出てこないことが少し面白かった。
「ふっ・・まあ、陳腐な感想だけど否定はできないな」
「まぁー、陳腐が私たちにはお似合いだよ。普通が一番。
悪くない一年間だったよ。
ありがとねっ!」
普通が一番、という言葉にはとても共感できた。
誰からも注目されることのない、このひっそりとした幸せがこのまま続けばいいのにと、心から思った。
「気が合うね。こちらこそ。
これからもよろしくお願いします」
そう言って僕が改まると、未羅は照れたようにマフラーに顔をうずめた。
「あ、帰る前にちょっと待って」
僕は別れる直前、一度未羅を引き留めた。
今日の展開次第では言うのをやめようと思っていたが、伝えようと思っていたことがあったのを思い出した。
「なあ、まだ先の話だけど、今年のクリスマスはここに行かないか?」
そう言って僕は携帯の画面を未羅に見せた。
先日たまたまネットの広告で見つけた大きなクリスマスツリーを点灯するイベントだった。
最大級の本物のモミの木を使用したそのイベントは毎年日本各地を転々とするように行われていて、今年は隣の県にある大型ショッピングモールでそれが行われるらしい。
ずいぶん過保護だね」
あっけにとられた表情で未羅は言った。
「うん。
自分でも歪んでると思うし、傲慢だとも思う。
人間生きてれば絶対に痛みを感じることはあるのにさ。
でも、そう思っちゃうんだ。
せめて僕といる時は安らいでいてほしいって。
だから、僕は君に幸せをあげる存在じゃなくて、痛みを感じさせない存在になりたいんだ」
「・・ほんとに傲慢だね」
そう言う未羅の顔はとても穏やかだった。
「未羅は僕といる時、その悩み事を忘れられてる?」
「確かに気づいたら忘れてるかも」
「じゃあ、最近また暗い顔をしていたのは僕といなかったからだ」
「ふふっ・・ほんと強引な理論だね」
「けど、案外間違ってないかもよ?」
「確かに」
「忘れられるなら、打ち明けなくてもいいから、またこうやってそばに居させてくれないか。
僕が未羅の痛みを和らげるから」
僕がそう言ってまた進み始めると、未羅も同じように歩き始めた。
二人の足音は少しだけ近くなっていた。
いつもより少し遠回りをして僕らは未羅の家の前まで向かった。
あいにく最近オープンしたというカフェは臨時休業していたが、小さな発見を僕らは楽しんだ。
異世界に繋がっていそうなひっそりとした小道。
子どもが集まる駄菓子屋。
豪邸の庭からするりと脱走するように出てきた人懐っこい猫。
それらを目にしたときの未羅の表情は心なしかワクワクしているようだった。
そんなこんなで結局三十分程度で帰れる道のりをわざわざ一時間かけて歩き、マンションの前に着くころにはすっかり日も落ちていた。
長期間距離を置いていたことが原因で、沈黙が怖いと感じてしまった僕は、マンションの前に着いた瞬間に
「さあ、着いちゃったな。
今日は楽しかったよ」
と自分から切り出した。
すると、未羅も同じことを考えていたかのように
「私も。
あっ、そういえば今日記念日だったね。えへへ・・すっかり忘れてた」
と即座に反応した。
「おい、忘れるなよ。
さっき言ったばっかじゃん」
「あははー、ごめんごめん。
・・はぁ、一年、あっという間だったね」
空を見上げてそう言った未羅の吐息が空に散っていった。
「確かに。
未羅と出会ってからは時の流れが速すぎるくらいだよ」
「それでも、思い返すと色んなことあったよね。不思議」
あっという間だけど色々なことがあった。
そんなありきたりな感想しか出てこないことが少し面白かった。
「ふっ・・まあ、陳腐な感想だけど否定はできないな」
「まぁー、陳腐が私たちにはお似合いだよ。普通が一番。
悪くない一年間だったよ。
ありがとねっ!」
普通が一番、という言葉にはとても共感できた。
誰からも注目されることのない、このひっそりとした幸せがこのまま続けばいいのにと、心から思った。
「気が合うね。こちらこそ。
これからもよろしくお願いします」
そう言って僕が改まると、未羅は照れたようにマフラーに顔をうずめた。
「あ、帰る前にちょっと待って」
僕は別れる直前、一度未羅を引き留めた。
今日の展開次第では言うのをやめようと思っていたが、伝えようと思っていたことがあったのを思い出した。
「なあ、まだ先の話だけど、今年のクリスマスはここに行かないか?」
そう言って僕は携帯の画面を未羅に見せた。
先日たまたまネットの広告で見つけた大きなクリスマスツリーを点灯するイベントだった。
最大級の本物のモミの木を使用したそのイベントは毎年日本各地を転々とするように行われていて、今年は隣の県にある大型ショッピングモールでそれが行われるらしい。