運命の”運“という漢字の意味は『運ぶ』ではない。
 『巡り合わせ』という意味らしい。
 どこかで誰かが言っていた。
 つまり、命の巡り合わせだ。
 この”命の巡り合わせ“という言葉の響きは実にロマンチックだと僕は思う。
 君と僕は命の巡り合わせで出会ったんだ。
 そう口に出して言ってみたかった。
 だがもちろんこんな気障な事、声に出して言う勇気はない。
 それに、何が僕たちの運命かなんてお互いに知る由もない。
 でも、そう信じていたかったんだ。
 せめてそれくらいの気休めは許してほしい。
 だが、巡り合わせという言葉にはこのような意味合いが含まれていることを忘れてはならない。
 それは、人の意思に関係なく訪れるということ。
 たとえそれが不幸であっても。
 そう、僕たちは運命を選べない。
 受け入れるしかない。
 思えば君はずっと葛藤していた。
 あの頃の僕は、その葛藤について少しでも理解できるのではないかと浅はかな考えを抱き、陳腐な言葉を君に投げかけていた。
 あるいは君がそれについて語ることはないのだろうと分かっていながら、ただ何かを隠していることには気づいているんだぞ、とたったそれだけのことをアピールするためだけに、相談ならいつでも乗るからという姿勢だけを君に見せつけていたのかもしれない。
 どちらにせよ、それで満足していた。
 彼氏面をしていた。
 きっとそれで自分のことを可愛がっていたのだろう。
 今思えばとても愚かだ。
 だが、そう思うと同時に、こうも思う。
 何回やり直せたとしても、君の隠し事について本当に知りたいんだ、と思っていたとしても真実にはたどり着けないだろう、と。
 そもそも、あんな非科学的な事を予想できる方がおかしい。
 運命とは、あまりに現実離れしていて、それでいて残酷で、けれども愛おしい。
 そんな自然を超越した、ある意味奇跡のような出来事にこれから僕は巻き込まれる。
 いや、予想もできないくらい前から僕は既に巻き込まれていた、という方がいいかもしれない。
 とにかく、僕がそんな彼女の、未羅の秘密を知るのはもう少し後の話だ。