◆◇◆◇
そして、季節は廻り七月、高校最後の夏だ。
そんな高校生にとって華と呼べる時期である今現在、僕は壱と例の屋上で暑さにうなだれながら昼飯を食べていた。
「なあ、昨日の甲子園の地方予選観た?」
二つだけあるうちの片方の椅子にまるで溶けているかのように体を預けた壱が唐突に口を開いた。
「あぁ、見たよ」
そう言う僕自身も溶けていた。
「最有力候補、負けたな」
「ああ、あれは野球のことよく知らない僕でも驚いた。
今朝もニュースになってたよね」
「最終回で逆転満塁スリーベースヒット。
ありゃピッチャーが報われないよな。
俺の予想だが、あれはバッテリー間の意志疎通が原因だと思う」
壱はまるで何かの根拠があるかのように断言した。
「なんでそれが壱に分かるの?」
「簡単だよ。
最後ピッチャーはカーブを投げてたけど、それにしてはキャッチャーの構える位置が高すぎだった。
それに、ピッチャーが投げた瞬間キャッチャーは若干焦っているように見えたんだ。
それにあのピッチャー、ストレートが得意だったんだよ。
だから、キャッチャーは最後ストレートで決めてほしかったんだと思う。
そうすれば、試合が決まるって確信してたんじゃないかな」
「それってつまり・・・」
「うん。サインの見逃しだな」
壱は似合わない冷静な顔で断言した。
「そんなことあんな場面であり得るの?よく知らないけど、あのバッテリーって地方予選に出場するくらいだから、ずっと一緒にプレーしてきてお互いに信頼してる間柄なんだよね?
だったらあんな大事な場面でそんな初歩的なミスしないんじゃないかな?」
「だからこそ起きた。とも言えるな。
むしろ組んで日の浅いバッテリーだったら、あれは起きなかったかもしれない」
僕が首を傾げ、目で説明を促すと壱はこう続けた。
「昨日、何度あったと思う?」
そう唐突に聞かれて昨日の気温を思い出してみると、昨日は特に暑かった気がする。
携帯で昨日の最高気温を調べてみたら三十六度もあったらしい。
「その炎天下の中で一試合丸々投げっぱなしだったらどうなると思う?
俺だったら最後までもたないね。
それにサインはピッチャーだけに見えるように股の下、それもなるべく低い位置で尚且つグローブで覆い隠しながら出すものだ。
暑い日地面ってどうなるか分かるか?」
「・・・陽炎か」
「そういうこと」
壱はこれ以上ないくらい暑苦しいドヤ顔を披露した。
悔しいが壱の言うことには思った以上に説得力があったのでそのまま聞くことにした。
「それに多分あの瞬間、本当はピッチャーもストレートでいこうと思っていたんだと思う。
どんな場面でどんな球が一番勝ちに繋がるかは自分自身が一番よく知ってるから」
「じゃあカーブのサインだと思った時に、違うって意思を示せば、まだ見逃しに気付くチャンスがあったんじゃない?」
「極限状態のあの場面でそれをする発想がなかったんだと思う。
相手を信じきっていたからこそ、相手の考えに何の疑問も浮かばなかった。
疑うという選択肢が頭の中に浮かばなかったんだよきっと。
その結果、結局お互いに全く望んでない結果になっちまったんだろうな。
信頼も度が過ぎると考えものだな」
壱はどこか虚しい目をしていた。
こいつ自身野球をやっていた身として思うところがあるのだろう。
そして、季節は廻り七月、高校最後の夏だ。
そんな高校生にとって華と呼べる時期である今現在、僕は壱と例の屋上で暑さにうなだれながら昼飯を食べていた。
「なあ、昨日の甲子園の地方予選観た?」
二つだけあるうちの片方の椅子にまるで溶けているかのように体を預けた壱が唐突に口を開いた。
「あぁ、見たよ」
そう言う僕自身も溶けていた。
「最有力候補、負けたな」
「ああ、あれは野球のことよく知らない僕でも驚いた。
今朝もニュースになってたよね」
「最終回で逆転満塁スリーベースヒット。
ありゃピッチャーが報われないよな。
俺の予想だが、あれはバッテリー間の意志疎通が原因だと思う」
壱はまるで何かの根拠があるかのように断言した。
「なんでそれが壱に分かるの?」
「簡単だよ。
最後ピッチャーはカーブを投げてたけど、それにしてはキャッチャーの構える位置が高すぎだった。
それに、ピッチャーが投げた瞬間キャッチャーは若干焦っているように見えたんだ。
それにあのピッチャー、ストレートが得意だったんだよ。
だから、キャッチャーは最後ストレートで決めてほしかったんだと思う。
そうすれば、試合が決まるって確信してたんじゃないかな」
「それってつまり・・・」
「うん。サインの見逃しだな」
壱は似合わない冷静な顔で断言した。
「そんなことあんな場面であり得るの?よく知らないけど、あのバッテリーって地方予選に出場するくらいだから、ずっと一緒にプレーしてきてお互いに信頼してる間柄なんだよね?
だったらあんな大事な場面でそんな初歩的なミスしないんじゃないかな?」
「だからこそ起きた。とも言えるな。
むしろ組んで日の浅いバッテリーだったら、あれは起きなかったかもしれない」
僕が首を傾げ、目で説明を促すと壱はこう続けた。
「昨日、何度あったと思う?」
そう唐突に聞かれて昨日の気温を思い出してみると、昨日は特に暑かった気がする。
携帯で昨日の最高気温を調べてみたら三十六度もあったらしい。
「その炎天下の中で一試合丸々投げっぱなしだったらどうなると思う?
俺だったら最後までもたないね。
それにサインはピッチャーだけに見えるように股の下、それもなるべく低い位置で尚且つグローブで覆い隠しながら出すものだ。
暑い日地面ってどうなるか分かるか?」
「・・・陽炎か」
「そういうこと」
壱はこれ以上ないくらい暑苦しいドヤ顔を披露した。
悔しいが壱の言うことには思った以上に説得力があったのでそのまま聞くことにした。
「それに多分あの瞬間、本当はピッチャーもストレートでいこうと思っていたんだと思う。
どんな場面でどんな球が一番勝ちに繋がるかは自分自身が一番よく知ってるから」
「じゃあカーブのサインだと思った時に、違うって意思を示せば、まだ見逃しに気付くチャンスがあったんじゃない?」
「極限状態のあの場面でそれをする発想がなかったんだと思う。
相手を信じきっていたからこそ、相手の考えに何の疑問も浮かばなかった。
疑うという選択肢が頭の中に浮かばなかったんだよきっと。
その結果、結局お互いに全く望んでない結果になっちまったんだろうな。
信頼も度が過ぎると考えものだな」
壱はどこか虚しい目をしていた。
こいつ自身野球をやっていた身として思うところがあるのだろう。