一通り自分の主張を終えると、少し長い沈黙が生じた。
「何それ・・・。訳わかんない。
こんなの空人君じゃない。
こんなの私の知ってる空人君じゃないっ!!」
 冬野は泣き叫び、訴えてきた。
 まるで僕が知らない僕を知っているような口ぶりだ。
「冬野が知ってる僕・・・?
ま、まあ・・・もちろんそれなりに一緒に過ごした時間はあるけど、まだまだお互い知らない一面なんて多いんじゃないかな?
現に僕も冬野について知らないことは多いだろうし―――」
「知ってるよ!!
・・・知ってるのっ!!
だって・・・だって私はずっと空人君の―――
っ・・・空人君のこと見てたから・・」
 冬野の頬には既に涙が伝っていた。
「なんで?・・・どうして?
どうして私はこんなに我慢してるのに空人君はそうやって私の人生に、私の選択の中に無理やり入り込んでくるの?
私は・・・私は近くで友達としてあなたを見ていられるだけでいいの・・。
近くで空人君に訪れる幸せのかけらを少し分けてもらえればそれでいいのっ!
もうそれが私に許される限界だって・・そう決めたの」
 なんだよそれ。
 そんなのあまりに自分勝手じゃないか。
 やはり嫌われているわけではなかったという嬉しさが若干混ざりこんではいるものの、冬野の自分勝手な意見に怒りが込み上げてきた。
 何でそうやって自分を必死に抑え付けるのだろう。
 もう制御しきれない感情がそこにあるというのに。
「だとしたら、その幸せをくれているのは冬野なんだよ!!」
 勝手に口から飛び出した。
「今までの幸せだなんて感じることはほとんどなかった。
ただ本を読んで、自分の世界に入り浸るだけで満足していて、何が幸せかなんて考えたことすらなかった。
でも冬野と話すようになってから僕は毎日が楽しいと感じるようになった。
次はいつ君からメッセージが来るだろう、次は何の本を持っていこう、この本を読んだら冬野はどう感じるんだろう、気づいたらそんな事ばっかり考えるようになってた。
僕が幸せを感じているのだとしたら、それは君がくれているからだ。
君がそうやって自分を抑え付け続けたら、僕は君に“幸せのかけら”を分けてあげられなくなってしまう。
・・・できるとかできないとか、限界だとかそんなことを聞きたいんじゃない。
僕は・・・僕は、君の心の話が聞きたい」
 自分でも驚いていた。
 こんなに感情的になったのはいつぶりだろう。
 もしかしたら、一度もなかったかもしれない。
 考えなしに本音をさらけ出した僕は、声が震え上擦り、目から溢れ出そうになるものを抑え付けるので精一杯になっていた。
 一方冬野は涙を今から止めることなど到底不可能なくらい、溢れ出していた。
「ずるい・・・ずるいよ。
なんでそんなに空人君は優しいの?
こんな訳の分からない行動ばかりとって散々振り回しておいて肝心なところで本心を言えない私に・・・なんでそんなに優しいの?」
 僕は、優しいわけじゃない。
「僕はしたいことをしているだけだよ。しっかり聞いて?
冬野、僕は冬野のことが好きだ。
君の気持ちを聞かせてほしい」