「期待外れだろ？なんか面白いこと言ってやりたいけど、本当にそれだけで、だから尚更、僕は自分の名前が好きじゃないんだ」
自嘲的な僕の言葉を聞いた冬野は、何か心当たりがあるかのようにほほ笑み、静かに首を横に振った。
そして何故かまた、今にも溢れ出しそうな優しい笑顔を向けた。
「そんなことない。
そんなことないよ？
アキト君にぴったりな名前だよ。
ご両親に感謝しなきゃだね」
彼女の表情で嘘をついていないことはわかった。
なぜだろう。
その表情を見ると、胸がぐっと苦しくなると同時に許されたような不思議な気持ちになる。
頬がほころびそうになるのをぐっとこらえ
「そうかな。
僕は特に読み方とかは特に在り来たりな名前だとおもうけど、なんでぴったりだと思うの？」と聞いた。
「・・・だってアキト君、実際は秋好きでしょ？」
言い返せない自分が情けなかった。
そう。
認めたくはないが、僕は図らずとも本来の由来に相応しい男に成長していた。
読書の秋というだけあって読書がはかどるし、気温もとても過ごしやすい。
そしてなにより、僕は秋の“間の季節感”が何とも言えないくらい好きだった。
夏に浮かれた者たちが熱の放出場所を無くし、そしてクリスマスというイベントに向けて準備期間に入る。
それだけではなく、春と比べても、“何かの始まり”のような忙しなさを感じさせない落ち着いた雰囲気。
それは、イベントごとが大好きな“充実した者”からしたらきっと“特に何もない季節”なのだろう。
しかし、僕からしたらそれがいいのだ。
別に嫌われているわけでもないが、他の季節と比べると特徴がなく季節として認識されることすら危ういあの感じに、何か自分と近しいものを感じているのかもしれない。
学校の敷地を囲うフェンスと特別棟の間に立ち並んでいる大きなイチョウの木々を眺めながらそのようなことを考え、
「まあ、嫌いじゃないかな」とつぶやく。
その瞬間突風が吹きつけ、落ち葉とお菓子のごみ、次の冬野の言葉をさらっていった。
そしてそれに対抗するように声を張った冬野が放った言葉は僕の心臓を止めかけた。
「――――・・・。
わぁ、風すごいね・・・。
ねえ、空人君！
今から言うことしっかり聞いて！
私はね・・・私は空人君の名前、好きだよ！大好き!
その名前、私は空人君の為だけにある気がするのっ！」
その瞬間、電流が体中を駆け巡ったようだった。
それは冬野と出会ってから目まぐるしく過ぎてゆく日々に埋もれ、忘れかけていたあの夢の言葉だった。
時が止まりそうな勢いで目に映るものの動きが遅くなり、耳にはノイズが入った後、世界から音が消え去った。
そして、まるで海底から湧き出てくる泡のように、何かが僕の内から少し漏れ出した。
なんだろう、この感覚は。
胸が締め付けられるように痛い。
全身が何かを僕自身に訴えかけているようだった。
体験したことのない感覚が次々と体を襲い、脳が処理しきれない。
わからない、そんなに訴えかけられても分からないんだよ。
僕は何をしたらいいんだ。
きっと“予知夢”を見たことに関わる重要な何かのはずなのだが、残念ながらそれはデジャヴと似ていて、突風のごとく一瞬で強烈な何かを与え、次の瞬間にはまるで何事もなかったかのように消え去ろうとする。
その何かを僕は必死に手繰り寄せようとしていたが、無情にも気付けば通常の時間の流れに戻っていて、そこにあったのは冬野の目を背けたくなるくらいまぶしい笑顔だった。
「空人君。
私にとっては君のその名前、誰のよりも特別なものに感じるんだよ。」
自嘲的な僕の言葉を聞いた冬野は、何か心当たりがあるかのようにほほ笑み、静かに首を横に振った。
そして何故かまた、今にも溢れ出しそうな優しい笑顔を向けた。
「そんなことない。
そんなことないよ？
アキト君にぴったりな名前だよ。
ご両親に感謝しなきゃだね」
彼女の表情で嘘をついていないことはわかった。
なぜだろう。
その表情を見ると、胸がぐっと苦しくなると同時に許されたような不思議な気持ちになる。
頬がほころびそうになるのをぐっとこらえ
「そうかな。
僕は特に読み方とかは特に在り来たりな名前だとおもうけど、なんでぴったりだと思うの？」と聞いた。
「・・・だってアキト君、実際は秋好きでしょ？」
言い返せない自分が情けなかった。
そう。
認めたくはないが、僕は図らずとも本来の由来に相応しい男に成長していた。
読書の秋というだけあって読書がはかどるし、気温もとても過ごしやすい。
そしてなにより、僕は秋の“間の季節感”が何とも言えないくらい好きだった。
夏に浮かれた者たちが熱の放出場所を無くし、そしてクリスマスというイベントに向けて準備期間に入る。
それだけではなく、春と比べても、“何かの始まり”のような忙しなさを感じさせない落ち着いた雰囲気。
それは、イベントごとが大好きな“充実した者”からしたらきっと“特に何もない季節”なのだろう。
しかし、僕からしたらそれがいいのだ。
別に嫌われているわけでもないが、他の季節と比べると特徴がなく季節として認識されることすら危ういあの感じに、何か自分と近しいものを感じているのかもしれない。
学校の敷地を囲うフェンスと特別棟の間に立ち並んでいる大きなイチョウの木々を眺めながらそのようなことを考え、
「まあ、嫌いじゃないかな」とつぶやく。
その瞬間突風が吹きつけ、落ち葉とお菓子のごみ、次の冬野の言葉をさらっていった。
そしてそれに対抗するように声を張った冬野が放った言葉は僕の心臓を止めかけた。
「――――・・・。
わぁ、風すごいね・・・。
ねえ、空人君！
今から言うことしっかり聞いて！
私はね・・・私は空人君の名前、好きだよ！大好き!
その名前、私は空人君の為だけにある気がするのっ！」
その瞬間、電流が体中を駆け巡ったようだった。
それは冬野と出会ってから目まぐるしく過ぎてゆく日々に埋もれ、忘れかけていたあの夢の言葉だった。
時が止まりそうな勢いで目に映るものの動きが遅くなり、耳にはノイズが入った後、世界から音が消え去った。
そして、まるで海底から湧き出てくる泡のように、何かが僕の内から少し漏れ出した。
なんだろう、この感覚は。
胸が締め付けられるように痛い。
全身が何かを僕自身に訴えかけているようだった。
体験したことのない感覚が次々と体を襲い、脳が処理しきれない。
わからない、そんなに訴えかけられても分からないんだよ。
僕は何をしたらいいんだ。
きっと“予知夢”を見たことに関わる重要な何かのはずなのだが、残念ながらそれはデジャヴと似ていて、突風のごとく一瞬で強烈な何かを与え、次の瞬間にはまるで何事もなかったかのように消え去ろうとする。
その何かを僕は必死に手繰り寄せようとしていたが、無情にも気付けば通常の時間の流れに戻っていて、そこにあったのは冬野の目を背けたくなるくらいまぶしい笑顔だった。
「空人君。
私にとっては君のその名前、誰のよりも特別なものに感じるんだよ。」
