◆◇◆◇
「・・・あっつ」
二〇一七年九月四日。
高校二年の二学期始まりの日の朝、僕は夜にカーテンを閉め忘れた自分を恨みながら目を覚ました。
夏の残り火とでも呼ぶべきなのか、じれったい日差しが僕の顔に照りつけていた。
八月も終わりを迎え、朝日により生温くなった部屋でピンと伸びた制服のシャツに腕を通す。
アイロンがかかったシャツは着心地が悪く、それだけで気が滅入る。
今日からまた学校に通わなければならない。
別に自分だけに限った話ではない。
誰でも夏休みが終わってしまうのは嫌だろうし、暑さで家から出る気が削がれるのは僕だけじゃないのも理解しているつもりだ。
しかし、僕には学校に行くメリットが他の人より圧倒的に少ない。
僕の知る限り、友達と呼べるのは一人だけで、そいつとは夏休み中も頻繁に会っていたので、学校で久々に会うことが楽しみな奴なんていないし、何よりも家から学校までの交通の便が悪い。
悪すぎる。
最寄りの駅までバスで三十分もかかるし、電車を降りた後、駅から学校までもバスで二十分かかる。
乗り継ぎの時間も合わせると、合計一時間半もかかってしまう。
確かクラスに学校まで徒歩三分の奴がいたが、そいつと比べると、登校の時点で既に新学期に対する意気込みを失ってしまう。
元からないのだが。
そうやって自分の置かれた境遇を悲観していると朝食を逃したので、急いで家を出て、最寄り駅までのバスに飛び乗った。
そのバスの中で僕は、今朝見た夢について考えていた。
夢はよく見る方だと思う。
その内容もしっかり覚えていることが多い。
大体、内容はくだらない願望に関することや非現実的なことが多いので、普段は気にも留めないが、今朝の夢は違った。
内容は全くと言っていいほど覚えていないのに、何故かとても長い夢を見ていたのではないかという感覚だけが残っている。
そして、この夢について一つだけ覚えていることがある。
それは声。
今まで聞いたことがない女性の声だ。
明るく幼さが混じった無邪気な声。
「その―――、私はアキト君の―――するの」
その言葉についてはとても曖昧で意識していないと忘れてしまいそうだ。
しかし、その声音についてはどこか懐かしさがあり、すんなりと頭の中に入ってきて、まるでずっと前から知っているかのように馴染んでいた。
実際にどこかから聞こえてきそうなほどだ。
しかしまあ聞こえてくるはずもなく、無意識のままにその声を頭の中で再生していたらあっという間に最寄り駅に着いた。
日光と人の熱気で蒸しかえった車内から一歩降りた瞬間、優しく涼しい風が体を撫で上げた。
もう夏も終わりだ。
「・・・あっつ」
二〇一七年九月四日。
高校二年の二学期始まりの日の朝、僕は夜にカーテンを閉め忘れた自分を恨みながら目を覚ました。
夏の残り火とでも呼ぶべきなのか、じれったい日差しが僕の顔に照りつけていた。
八月も終わりを迎え、朝日により生温くなった部屋でピンと伸びた制服のシャツに腕を通す。
アイロンがかかったシャツは着心地が悪く、それだけで気が滅入る。
今日からまた学校に通わなければならない。
別に自分だけに限った話ではない。
誰でも夏休みが終わってしまうのは嫌だろうし、暑さで家から出る気が削がれるのは僕だけじゃないのも理解しているつもりだ。
しかし、僕には学校に行くメリットが他の人より圧倒的に少ない。
僕の知る限り、友達と呼べるのは一人だけで、そいつとは夏休み中も頻繁に会っていたので、学校で久々に会うことが楽しみな奴なんていないし、何よりも家から学校までの交通の便が悪い。
悪すぎる。
最寄りの駅までバスで三十分もかかるし、電車を降りた後、駅から学校までもバスで二十分かかる。
乗り継ぎの時間も合わせると、合計一時間半もかかってしまう。
確かクラスに学校まで徒歩三分の奴がいたが、そいつと比べると、登校の時点で既に新学期に対する意気込みを失ってしまう。
元からないのだが。
そうやって自分の置かれた境遇を悲観していると朝食を逃したので、急いで家を出て、最寄り駅までのバスに飛び乗った。
そのバスの中で僕は、今朝見た夢について考えていた。
夢はよく見る方だと思う。
その内容もしっかり覚えていることが多い。
大体、内容はくだらない願望に関することや非現実的なことが多いので、普段は気にも留めないが、今朝の夢は違った。
内容は全くと言っていいほど覚えていないのに、何故かとても長い夢を見ていたのではないかという感覚だけが残っている。
そして、この夢について一つだけ覚えていることがある。
それは声。
今まで聞いたことがない女性の声だ。
明るく幼さが混じった無邪気な声。
「その―――、私はアキト君の―――するの」
その言葉についてはとても曖昧で意識していないと忘れてしまいそうだ。
しかし、その声音についてはどこか懐かしさがあり、すんなりと頭の中に入ってきて、まるでずっと前から知っているかのように馴染んでいた。
実際にどこかから聞こえてきそうなほどだ。
しかしまあ聞こえてくるはずもなく、無意識のままにその声を頭の中で再生していたらあっという間に最寄り駅に着いた。
日光と人の熱気で蒸しかえった車内から一歩降りた瞬間、優しく涼しい風が体を撫で上げた。
もう夏も終わりだ。