なぜ知っているのかは分からないが、壱に教えてもらったという鍵番号に合わせると本当に開いた。
そして、屋上に出るとそこには、まるで僕らの為に用意されたような椅子が二つと机が一つ並べられている。
そして普段通っている街並みも屋上から見るとまた雰囲気が違って見えた。
なるほど、普段教室棟からだと見えないこの方角には富士山が見えるのか。
いけないことをするのには耐性があった僕は素直に屋上からの景色を堪能していた。
「ちょっと!
あまり手すりに近寄らないでよ!
今日はまだ人がいっぱいいるんだから、下から見られたらどうするのっ」
トーンを抑えつつ必死に訴える冬野の声で自分の世界から帰ってくると、すでに机にはお菓子とジュースが準備されていた。
「さあっ、今日はいつもよりちょっと豪華なパーティ始めです。
だからいつもとはちょっと違う趣旨で。お互い好きなことするの。
小説に限らずね。
って言ってもアキト君は小説を読むだけだろうけどね。あははっ」
「まあ、好きなことって言われるとそうなるけど。
そういうこと言うってことは、冬野さんは他にやりたいことがあるの?」
そんな意味を含んだような言い方をする冬野に尋ねると、
「えーっとね、私実はね・・・さっき思いついたんだけど・・うーんと・・」
とはっきりしない態度をとったので、
「なんだよ」
と先を促した。
すると冬野は覚悟を決めたかのように小さな深呼吸をしてこう言った。
「えっと、私・・・ア、アキト君と・・その・・・音楽が聴きたいのっ!!」
「ん?それだけ?」
あまりの拍子抜けに、思ったことがそのまま口から洩れていた。
そして、それを聞いた冬野はまた頬をプクーッと膨らませた。
どうやら怒るときの癖らしい。
全く持って怖くはないが。
むしろ怒らせたくなるくらいだ。
「もうっ、別にいいじゃん!
勇気出して言ったんだから、そんな言い方しないのっ!!」
そう言って冬野はイヤホンの片方を僕に差し出してきた。
・・・全くの予想外だった。
「え・・聞くってそういうこと?!
いやいや、別にスピーカーで聞けば良くない!?」
冬野の前で今まで見せたことないくらい動揺してしまった。
「あれぇ~?
さっきは、それだけ?とか言ってたのに急にどうしたのかなぁ~?」
そんな僕に対し、形勢逆転した冬野は揚げ足を取るように言った。
癪に思ったので、僕は平然を装い、イヤホンを受け取った。
冬野は、餌を目の前にした子犬のように無邪気な顔をしていて、早く装着してくれ、と目が言っていた。
その瞬間を今か今かと待つ冬野をあえてじらすようにゆっくり装着すると、耳にイヤホンが入った瞬間、冬野は今にも踊りだしそうなくらい嬉しそうな顔でガッツポーズをした。
「ほらほら、仰向けに寝転がってみて」
と僕を地べたに半ば強引に寝転がらせ、冬野自身も隣に寝転がった。
・・・確かに、心地いい。
周辺にはこの屋上より高いものが何もないので、視界にはどこまでも青空が広がっている。
耳には聞いたことがない洋楽が軽快に流れ込んでくるので、相対的に他の喧騒は排除され、今この世界は僕と冬野と青と軽快な洋楽の四つだけが存在していた。
「・・・どお?悪くないでしょ?」
さっきとはまるで違う穏やかな声でそう語りかけてくる冬野の顔はどこか照れ臭そうだ。
「ああ、確かに悪くない。世界から僕ら以外いなくなったみたいだ」
「確かにっ、でもそれは困るかもね」
「どうして?」
「お母さんのおいしい料理食べられなくなっちゃう」
ほんと、幼い子どもみたいだ。
「・・・最初に出てくる理由がそれ?」
「そう。お母さんの料理は世界一だから」
「素直でよろしい。でもまあ、僕も困るな」
「へぇ。なんで?」
「んー、最近やっとやりたいことが見つかったから、かな」
油断した。
誰にも話すつもりはなかったのに雰囲気に乗せられ口を滑らせてしまった。
しかし後悔した時にはもう遅かった。
「えっ・・・何それ!?気になるーっ!」
冬野は急に飛び起きた。
「えっとぉ・・・内緒かな」
いずれは言うつもりだったが、今はまだその時ではなかった。
「え~、そこまで言っておいてずるいよぉ。
スポーツとか始めたの?」
「そんなわけないだろ」
「えー、じゃあ将来の夢的な?」
「んー、まあそれが実現に出来たらいいとは思うかな」
「へぇー、じゃあ今じゃなくていいから、いつかそれが叶ったら教えてね?」
そうだ、今じゃないな。
完成したら胸を張って打ち明けよう。
「ああ、わかった。
その時はちゃんと教えるよ」
「壱也君はそのことについて知ってるの?」
「いや、壱にも言ってない。
冬野以外は知らないよ。
まったく、まいったな」
「っ・・・そうなんだ。えへへ・・・」
だめだ。
やめてくれ、その笑い方は反則だ。
「な、なんだよ」
「じゃあ・・・私しか知らないアキト君の秘密だねっ」
・・・プツンと音が聞こえた。
そして、屋上に出るとそこには、まるで僕らの為に用意されたような椅子が二つと机が一つ並べられている。
そして普段通っている街並みも屋上から見るとまた雰囲気が違って見えた。
なるほど、普段教室棟からだと見えないこの方角には富士山が見えるのか。
いけないことをするのには耐性があった僕は素直に屋上からの景色を堪能していた。
「ちょっと!
あまり手すりに近寄らないでよ!
今日はまだ人がいっぱいいるんだから、下から見られたらどうするのっ」
トーンを抑えつつ必死に訴える冬野の声で自分の世界から帰ってくると、すでに机にはお菓子とジュースが準備されていた。
「さあっ、今日はいつもよりちょっと豪華なパーティ始めです。
だからいつもとはちょっと違う趣旨で。お互い好きなことするの。
小説に限らずね。
って言ってもアキト君は小説を読むだけだろうけどね。あははっ」
「まあ、好きなことって言われるとそうなるけど。
そういうこと言うってことは、冬野さんは他にやりたいことがあるの?」
そんな意味を含んだような言い方をする冬野に尋ねると、
「えーっとね、私実はね・・・さっき思いついたんだけど・・うーんと・・」
とはっきりしない態度をとったので、
「なんだよ」
と先を促した。
すると冬野は覚悟を決めたかのように小さな深呼吸をしてこう言った。
「えっと、私・・・ア、アキト君と・・その・・・音楽が聴きたいのっ!!」
「ん?それだけ?」
あまりの拍子抜けに、思ったことがそのまま口から洩れていた。
そして、それを聞いた冬野はまた頬をプクーッと膨らませた。
どうやら怒るときの癖らしい。
全く持って怖くはないが。
むしろ怒らせたくなるくらいだ。
「もうっ、別にいいじゃん!
勇気出して言ったんだから、そんな言い方しないのっ!!」
そう言って冬野はイヤホンの片方を僕に差し出してきた。
・・・全くの予想外だった。
「え・・聞くってそういうこと?!
いやいや、別にスピーカーで聞けば良くない!?」
冬野の前で今まで見せたことないくらい動揺してしまった。
「あれぇ~?
さっきは、それだけ?とか言ってたのに急にどうしたのかなぁ~?」
そんな僕に対し、形勢逆転した冬野は揚げ足を取るように言った。
癪に思ったので、僕は平然を装い、イヤホンを受け取った。
冬野は、餌を目の前にした子犬のように無邪気な顔をしていて、早く装着してくれ、と目が言っていた。
その瞬間を今か今かと待つ冬野をあえてじらすようにゆっくり装着すると、耳にイヤホンが入った瞬間、冬野は今にも踊りだしそうなくらい嬉しそうな顔でガッツポーズをした。
「ほらほら、仰向けに寝転がってみて」
と僕を地べたに半ば強引に寝転がらせ、冬野自身も隣に寝転がった。
・・・確かに、心地いい。
周辺にはこの屋上より高いものが何もないので、視界にはどこまでも青空が広がっている。
耳には聞いたことがない洋楽が軽快に流れ込んでくるので、相対的に他の喧騒は排除され、今この世界は僕と冬野と青と軽快な洋楽の四つだけが存在していた。
「・・・どお?悪くないでしょ?」
さっきとはまるで違う穏やかな声でそう語りかけてくる冬野の顔はどこか照れ臭そうだ。
「ああ、確かに悪くない。世界から僕ら以外いなくなったみたいだ」
「確かにっ、でもそれは困るかもね」
「どうして?」
「お母さんのおいしい料理食べられなくなっちゃう」
ほんと、幼い子どもみたいだ。
「・・・最初に出てくる理由がそれ?」
「そう。お母さんの料理は世界一だから」
「素直でよろしい。でもまあ、僕も困るな」
「へぇ。なんで?」
「んー、最近やっとやりたいことが見つかったから、かな」
油断した。
誰にも話すつもりはなかったのに雰囲気に乗せられ口を滑らせてしまった。
しかし後悔した時にはもう遅かった。
「えっ・・・何それ!?気になるーっ!」
冬野は急に飛び起きた。
「えっとぉ・・・内緒かな」
いずれは言うつもりだったが、今はまだその時ではなかった。
「え~、そこまで言っておいてずるいよぉ。
スポーツとか始めたの?」
「そんなわけないだろ」
「えー、じゃあ将来の夢的な?」
「んー、まあそれが実現に出来たらいいとは思うかな」
「へぇー、じゃあ今じゃなくていいから、いつかそれが叶ったら教えてね?」
そうだ、今じゃないな。
完成したら胸を張って打ち明けよう。
「ああ、わかった。
その時はちゃんと教えるよ」
「壱也君はそのことについて知ってるの?」
「いや、壱にも言ってない。
冬野以外は知らないよ。
まったく、まいったな」
「っ・・・そうなんだ。えへへ・・・」
だめだ。
やめてくれ、その笑い方は反則だ。
「な、なんだよ」
「じゃあ・・・私しか知らないアキト君の秘密だねっ」
・・・プツンと音が聞こえた。