そして、物語の最後はこう締めくくられていた。

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 人生は選択の連続で、選んだその先にあったものが正しいかどうかなんて“答え”を求めるには人生はあまりに短すぎる。
 僕たちは自分なりに答えを出しながら進んでいかなければいけないのに、人生は答え合わせをする時間をくれない。
 だから僕は人生に対抗していかなければいけないと思った。
 答え合わせなんて必要ないと思えるくらい、絶対的に信じられる自分だけの“正解”を見つけなければいけないと思った。
 彼女は僕にその選択の仕方を教えてくれた。
 もちろん人間は立ち止まり迷うものだから途中で悩む時もあったが、最後にはいつも後悔しないような選択を、彼女は僕に示してくれた。
 そうしていつからか僕の選択の中には、当たり前のように君がいた。
 その控えめな笑顔も、無邪気な一面も、時折見せる切ない表情も、気付けばそれら全部が僕の“選択”の判断材料になったんだ。
 だから僕は、君に痛みを感じさせない為に、少し控えめな幸せを絶え間なく届けるために、選んでいく。

 そう、僕の正解は君のために。

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 これが、空人君の答えだった。
 いなくなっても尚、寄り添ってくれる空人君に私は孤独を感じなくなっていた。
 そして読み終わった時、私の中には一つだけ疑問が残っていた。
 それは空人君のお母さんが「未羅ちゃんが完成させて」と言ったことだった。
 読んだ限り、話は完結しているように思えたけど、どうしてもその言葉が引っ掛かった私は、ノートをペラペラとめくってみた。
 そして、最後のページの一番右下にある文字が私の視線を引き留めた。

『ここから、“彼女”視点へ』

 物語はどうやらまだ半分しか終わっていないらしかった。
 どうやら、とんでもない大役を引き受けてしまったらしい。
 窓の外を見ると、夜明けは近かった。
 今日はいい日になりそう。
 そんな予感がした。

 私は、空人君からかけがえのない優しさをもらった。
 その優しさには見返りなど一切なくて、絶え間なく私に降り注いでいた。

 今でもやっぱり後悔は残っていて、ふとした時にその優しさを思い出すと、もう一度だけ触れたくて心が震える。

 小説やドラマの主人公みたいに一度決めたら絶対にその決意を貫き通すことなんて私には到底できない。

 でもそれでいいの。
 それも空人君の一部として永遠に私の中で生き続ける。

 悩んで、立ち止まって、戻って、また進んで、そうやって私は選んでいく。
 そう決めたの。

「・・・お待たせ。空人君。
やっと前に進めそうだよ」
 スマホの待ち受け画面にいる空人君の顔を眺めて、一度深呼吸した。

 そして、私は続きを書く“選択”をした。